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概要

都市生活学・ネットワーク行動学研究室では2012年7月29日(土),30日(日)の2日間,ゲーム理論合宿2012を行いました.この合宿では,ゲーム理論の応用について,輪読形式で研究室の各メンバーに割り当てられ,発表と議論を繰り返す中で疑問点や今後の課題,論点となっている事柄,各自の研究との関連などを考察しました.

 開催日時: 2012年7月29日(土)・30日(日)

 開催場所: 群馬・沼田市 東京大学玉原国際セミナーハウス

 対象書籍: 今井晴雄,岡田章:ゲーム理論の応用,勁草書房,2005.

 その他参考文献
  鈴木光男:新ゲーム理論, 勁草書房, 1994.
  岡田章:ゲーム理論 新版, 有斐閣, 2011.

 参考:ゲーム理論合宿2008 (鈴木光男著『新ゲーム理論』(勁草書房, 1994年)の輪読)

7月29日(土)

       発表担当者 担当論文               
13:30-14:30 第4章 瀧口 2人交渉ゲーム:非協力ゲームアプローチによる定式化について
14:30-15:30 第5章 大山 自由貿易協定ネットワークゲーム
15:30-16:30 第6章 植村 地球温暖化問題における効率・衡平・交渉
16:30-17:30 第7章 伊藤 データ検証問題とゲーム理論:核不拡散条約の事例
20:00- 番外編 瀧口 交通分野の概観,過去の研究紹介(B4向け)

発表

第4章 瀧口

2人交渉ゲーム:非協力ゲームアプローチによる定式化について


● 発表資料(pdf)
● 議事録

最新の研究成果に基づく交渉の非協力ゲーム理論による定式化の概説.非協力ゲーム理論を用いて交渉問題を定式化するときの重要事項と問題点が解説され,交渉ゲーム理論を応用する際の有益な指針が与えられた.

協力ゲームは先に拘束力のあるルールを結ぶゲームで,非協力ゲームは提案反応型交渉と双方要求型交渉に著者はわけられる.提案反応型交渉は交互提案型交渉であり,双方要求型交渉は,お互いが同時に要求を出し続け探り合いや消耗戦が起こるゲームである.交渉力と効率性がキーとなる.繰り返しゲームの例として,最後通牒ゲームがある.無限回繰り返しゲームでは交渉に費やされる時間によって価値が下がることを表す割引因子δが導入される.

交互提案交渉は答えのパターンは1つに決まるという特徴がある.また,自分の提案で妥結する方が有利であり,割引因子が1に近い我慢強さが結果に正の影響を与える.

タイミングを選択できるモデルを考えると,均衡解が不等式で範囲で与えられて複数均衡が求まる場合や,反応時間が0で手番を繰り返す非現実的な解になる可能性がある

相互提案型交渉では,消耗戦に基本的に突入する.消耗戦とは,互いの要求の和が1より大きい時,時間が経つにつれて受け入れ確率が上がっていく状態である.ここで頑固なプレーヤーの存在を仮定すると,相手が頑固だと判断するまでの時間を潜在的消耗時間として導入し,ゲーム開始時に確定的/確率的に妥結するという表現ができて消耗戦の問題を解決できる.相手が頑固である確率zがわかれば最適な要求も決定できるが,zの与え方は現在の議論では不明である.



第5章 大山

自由貿易協定ネットワークゲーム


● 発表資料(pdf)
● 議事録

国際貿易理論へのゲーム理論の応用を解説する.現実の国際経済で進行している自由貿易協定(FTA)の形成をネットワークゲームモデルを用いて定式化し,FTAの自発的形成によってグローバルな貿易自由化が実現するかどうかを考察している.全ての国が市場規模と産業規模に関して対称的であるか,あるいはFTA締結国間でトランスファー可能であればグローバルな貿易自由化が安定的であるという結果を示している.

ネットワークゲームでは,どのプレイヤーも既存のリンクを一方的に切るインセンティブを持たず,かつリンクを張っていないペアについては,少なくとも一方がリンクを張るインセンティブを持たない,状態で安定性が定義される.自由貿易協定(FTA)のネットワークゲームでは,リンクコストを関税として,どのようなFTAネットワークが安定的なのかを調べる.

貿易モデルでは,産業化度・測度・貿易に拠る粗効用によって利得関数が表され,利得関数がゼロ以上ならFTAが結ばれる.産業化度と関税が等価であるという意味で全ての国が対称的な場合,FTAネットワークが完備グラフとなるグローバルな自由貿易が唯一のペア安定的ネットワークとなる.

先進国と後進国の間のFTAは貿易モデルだけでは説明できない.国家間トランスファーを考えると,先進国から後進国へ利得の移転が行われ,それによりFTAで両者に得があるように持っていくと考えられる.



第6章 植村

地球温暖化問題における効率・衡平・交渉


● 発表資料(pdf)
● 議事録

京都議定書をめぐる国際交渉の結果を効率性と衡平性の2つの視点からナッシュ交渉理論と提携型ゲーム理論を用いて分析している.分析では,一定の総排出量を前提として排出権初期配分を交渉する場合と,一定の排出権初期配分ルールを前提として総排出量を交渉する場合の2つの交渉過程を考察し,交渉帰結の安定性,負担配分の衡平性,資源配分の効率性の間に対立があることが明らかとされた.

排出権取引というのは,環境汚染物質の削減のために,国や自治体,企業などの間で排出権を割り振っておき,その排出権の売買を行うことで,排出量を削減するという経済的手法のことである.各国の温室効果ガス削減割当量の望ましい決定がなされているかどうかを,1)パレート効率性,2)分配の衡平性,3)結果の安定性という指標を用いて明らかにする.

各国の経済活動を生産量と消費量を用いて表し,自国の消費量と世界全体の温室効果ガス排出量の組に対し評価順序を持つとして厚生関数Viを決定する.これは各国の消費水準が高いほど,また世界全体の温室効果ガス排出量が小さいほど高まる.この場合のパレート効率的配分は,すべての国が他の配分より大きいまたは同等の厚生を持ち,少なくともひとつの国が他の配分よりも厚生が高いときの配分となる.

経済行動を排出権取引市場での企業の最適行動として,初期割当量・排出権収入・生産量からモデル化する.

世界全体の総排出量については合意が成立しているという状況の下で,初期配分について交渉を行う提携型ゲームを考えると,特定のグループが排出量の余剰分を独占し,その他の国はナッシュ均衡利得を達成するだけという結果になり,安定性は満たされるが衡平性は満たされない.

初期配分ルールに合意し,次に排出総量を決定する場合を考えると,排出量削減により厚生水準が増加する直接効果と,削減による価格の上昇で生産量・消費量の変化を通じて厚生水準が変化する間接効果の2つが働く.その結果,各国の厚生を最大にする総排出量が一致する場合に限り,パレート効率的な資源配分が実現される.



第7章 伊藤

データ検証問題とゲーム理論:核不拡散条約の事例


● 発表資料(pdf)
● 議事録

国際協定の遵守問題の実際の事例として国際原子力機関(IAEA)による核不拡散条約の査察問題のゲーム理論的分析を解説している.IAEAは確率ノイズを含む報告データと独自の調査結果を比較して締結国がNPTを遵守しているかどうか立証しなければならない.情報不完備ゲームモデルを用いた不法行為を阻止するための最適査察戦略の考察では,統計的決定理論を取り入れることによりゲーム理論が現実の査察戦略の設計に有用な指針を与えることが示された.

核拡散防止条約のもとでのデータ検証問題を査察ゲームとして定式化する.査察者は警告しない/警告する,行為者は合法/不法の選択をそれぞれ行う.ゲームでは査察者の判定ルールを確率的に扱う.

査察ゲームΓ0では査察者は行為者の行為と独立にランダムに警告を出すときを考える.ゲームを解くと,査察者の警告は,行為者が合法でも不法でも正の確率となる.行為者の不法行の選択確率は正となり,不法行為を阻止できないので望ましくない.

査察ゲームΓ1では査察者は戦略を決めるが行為者はそれを知らずに合法不法を選択するときを考える.査察者が合法不法に対して応答を変えた場合でも,行為者が査察者の行為を知らないで不法行為を選択する確率は正.不法行為を阻止できない.

査察ゲームΓ2では行為者は査察者の戦略を知った上で合法不法を選択するときを考える.すると均衡点では行為者は合法行為を取り,査察ルールを宣言することが効力を持つことがわかる.

さらに査察ゲームΓ3の拡張では,相手の戦略の確率分布関数のみを知り値は知らない情報不完備ゲームとして考える.すると,不法行為見逃し利得が臨界値関数より小さい時に合法行為を選択する結果となり,査察者は誤警告確率と不法行為を発見できない確率を最適にコントロールすることが必要ということが示された.