第9章:データ検証問題とゲーム理論:核不拡散条約の事例 ●核拡散防止条約 ・核軍縮と核不拡散を目的とした国際条約 核兵器国:     :保障措置 ・有意量 ●データ検証問題 ・NPT遵守しているとき:在庫量を正しく報告 ・NPT遵守していないとき:報告データyiは粉飾されている可能性E(xi) ●査察ゲーム ・査察者:警告しない/警告する ・行為者:合法/不法 の利得行列を考える. α:合法行為なのに警告を出す確率 β:不法行為なのに警告を出さない確率 査察にはサンプリングや測定誤差があるため,査読者の判定ルールも確率的に考 える. (α,β)=(0,0)のときが理想的 ●査察ゲームΓ0 査察者は行為者の行為と独立にランダムに警告を出すときを考える. このとき,ナッシュ均衡では,-dα=(1-α)-bαが成り立つ. →査察者の警告は,行為者が合法でも不法でも正の確率となる.行為者の不法行 の選択確率は正となり,不法行為を阻止できないので望ましくない. ●査察ゲームΓ1 査察者が誤って警告する確率aを選択し,行為者は知らずに合法不法を選択,確 率的に警告が出るときを考える.行為者が不法行為を選択する戦略変数の確率を qとする. ・行為者の均衡戦略q*は一意に決まる. →査察者が合法不法に対して応答を変えた場合でも,行為者が査察者の行為を知 らないで不法行為を選択する確率は正.不法行為を阻止できない. ●査察ゲームΓ2 査察者が誤って警告する確率αを行為者は知った上で合法不法を選択するときを 考える. ・行為者の最適戦略はαの値によって変わり,査察者の利得最大化の条件から均 衡点はγ*(α*)=H0となる. →行為者の不法行為を完全に阻止することが可能であり,査察ルールを宣言する ことが効力を持つことがわかる. 問題点:査察者の利得関数が不連続であり,αの微小変動に頑健ではなく,不法 行為を阻止できない.均衡点では行為者が合法をとるか不法を取るかは無差別. ●査察ゲームΓ3 不法行為方法の拡張を考える. (1)各施設単位での核物質不正転用を考慮に入れる. (2)査察者の査察戦略について,独自の調査観測地から警告を出すか決定する. 「査察者はxの分布関数Gのみを知り,値を知らない」 →情報不完備ゲーム ・部分ゲーム完全均衡点を求める. まず行為者の最適な不法行為θを求める(後者は不法行為の見逃し確率を最大化 する)→最適行動が査察戦略に依存して決定. 査察者の最適戦略を求めると,minβと同じになる.(完全均衡点) ・行為者は不法行為見逃し利得が臨海値関数より小さい時に合法行為を選択する. →α*=α1のとき,不法行為は完全に抑止でき,また期待利得の不連続性が解消 された. ●結論 ・査察ルールを公表して査察者がルールにコミットできる状況では,不法行為を 阻止できる可能性が高い. ・誤警告確率と不法行為を発見できない確率を最適にコントロールすることが必 要. ●質疑 植村:Γ3でθを導入した理由は? 伊藤:βの値を表すために使われてるが,その配分に関しては今後の課題として いる.まだどういう風にすればいいかとかはわからない. 瀧口:核兵器でなくても適用できる話.Γ0は一般的,1,2,3になるにつれて問題 解消されているようにみえる. 伊藤:展開型ゲームを設定して解いていくという話.部分ゲーム均衡が求まって 全体の均衡が求まる.情報集合の置き方によってかわってくるというところも重 要. 瀧口:展開ゲームをどう拡張していくかという話. 大山:xは選択するのか?臨海値関数との関係でみると,αが決まったら関数が 決まるのであれば,xというよりも合法か違法かに思える. 伊藤:xが決まっていればわかる.査察者側からみると,どれを取るとどの確率 で合法・違法が行われるかが重要で,それがこのグラフの意味. 大山:利得に確率をかけて合計利得を出しているが,実際何もやってないのに警 告された感じ方みたいなのは. 伊藤:それはパラメータの設定でされている. 瀧口:Γ3で,θの導入とxの導入で2つ同時に拡張している.それぞれで変わる 結果がどう対応しているのか. 伊藤:xは分布関数で与えて,不連続じゃなくなるというところに意味がある. θを入れるところはよくわからない. 若林:そもそもどうする話なのか.戦略としてはありだが,政治的決定を確率で 決めるとはどういうこと. 伊藤:間違った警告が多すぎるとまずいみたいな話.α,βが0であることはも ちろん大事だが,実際のところは測定誤差なのか不法行為が起きているのかが判 断できない.それに対してどういう判断をするかというところが重要.不確実な ので,確率として入っているということ. 林:ゲームの木の使い方はわかりやすかった. 伊藤:比較的わかりやすい例. 今泉:戦略を公表したほうがよいというのは少し不思議.