6章:「地球温暖化問題における効率・衡平・交渉」 1.はじめに 排出権取引というのは、環境汚染物質の削減のために、国や自治体、企業など の間で排出権を割り振っておき、その排出権の売買を行うことで、排出量を削 減するという経済的手法のことである。 地球温暖化問題は起因者、被害者が特定できずにあらゆる地域の人間が関与し ているということ、そしてその影響が将来の世代にあたり、時間的隔絶がある ということが特徴的であり、その緩和は起因者である現代世代の行動によって のみ可能であるのだが、将来世代に対して緩和を行う根拠が自明ではないこと、 そしてその合意形成が難しいことが問題として挙げられる。 そのような背景のもと、本章では各国の温室効果ガス削減割当量の望ましい決 定がなされているかどうかを、1)パレート効率性、2)分配の衡平性、3)結 果の安定性という指標を用いて明らかにする。 2.基礎事項 各国の経済活動を生産量と消費量を用いて表し、自国の消費量と世界全体の温 室効果ガス排出量の組に対し評価順序を持つとして厚生関数Viを決定する。こ れは各国の消費水準が高いほど、また世界全体の温室効果ガス排出量が小さい ほど高まる。 この場合のパレート効率的配分は、すべての国が他の配分より大きいまたは同 等の厚生を持ち、少なくともひとつの国が他の配分よりも厚生が高いときの配 分となる。 3.具体的な交渉過程 排出権取引の交渉過程・帰結の流れを考えると1)国際交渉が行われ、2)政府 が国内の制度を選択し、3)実際の経済活動と排出権取引が実行されることが 段階的になされると考え、温室効果ガスの排出総量、またそれが各国にどう配 分されるかについて議論していく。 まず3)実際の経済活動について、排出権取引市場における企業の最適行動を 考えると、企業は初期割当量から生産・消費による排出量を引いた分の排出権 収入を得る。排出権収入と生産量を足したものが国内消費量となる。企業の利 潤が最大となるのは、生産量1単位の増加からの追加的収入と、排出権支払い に伴う追加的費用が均等になるときで、条件式は以下のようになる。 q×fi(yi) = 1 …(1) また、2)の国内制度の選択を考えると各国政府は自国の厚生を最大化するた めに国内消費量を最大にするような行動をとるが、このときの条件式が式(1) と一致するので、市場機構のもとではこのような制度を選択すれば最適な生 産量を実現できると言える。 1)国際交渉 a)提携型ゲーム 世界全体の総排出量については合意が成立しているという状況の下で、初期配 分について交渉を行うケースを考える。この状況下では自国消費量が増加する ほど各国の厚生が高まるため、どの国も初期割当量を増加させるように交渉す るため、初期配分は各国の厚生が交渉決裂における水準を下回らない(参加制 約を満たす)配分となる。 ここではコア、安定集合という概念が用いられるが、どちらにせよある特定の グループが排出量の余剰分を独占し、その他の国はナッシュ均衡利得を達成す るだけという結果になり、安定性は満たされるが衡平性は満たされない。 b)排出総量に関する交渉を考える 次に、初期配分ルールに合意し、次に排出総量を決定する場合を考える。排出 総量が削減されると、それによって厚生水準が増加する直接効果と、削減によ って価格が上昇することで生産量・消費量の変化を通じて厚生水準が変化する 間接効果の2つが働く。 排出総量が1単位削減したときの犠牲となる消費量を排出削減の機会費用とす ると、第i国の厚生を最大にするような総排出量においては機会費用が排出削 減に対する消費の限界代替率となる。 結局、各国の厚生を最大にする総排出量が一致する場合に限り、パレート効 率的な資源配分が実現される。 ■議論 ・コアや安定集合については、国家間の交渉を安定性の分析のために導入した のか? :コアと安定集合の条件というものを満たすと安定であると言えることができ るが、この概念のもとではある特定のグループが排出権の余剰分を独占し、そ の他の国はナッシュ均衡を達成するだけで衡平性がない。 ・23ページのθというのは? :排出量の割当量のことで、総排出量の何%まで排出していいよということを 表している。余った排出権を売って利益をあげることができる。 ・23枚目で、bのタイプの交渉だと、この利潤最大化の条件を整理することに よって総排出量が国ごとに求められるのか。各国の理想とする総排出量X*が求 まるということでいいのか。 :それで求めてX2で求めた時にそれぞれの国の厚生を最大化する排出総量が一 致しないとパレート効率的ではない。どのように国が総排出量を求めるかにつ いては明記されていない。 ・直感的に一致するとかありえない気もする。 ・13枚目で2)と3)と考えることでどういう意味があるのか。 :1)を考えることの前提として意味がある。 ・安定性と衡平性のどっちをとるべきなのか。安定性でどの国もナッシュ均衡 利得を手に入れているのであればいいのではないか。 実際の問題を考える ・結局安定性とはどういうことなのか。社会的余剰としては成立しているとい うことなのか。 :社会的余剰を最大化するというよりは全員が他の戦略に変えるインセンティ ブが働かない状態を指す。ナッシュ均衡が達成しているということは排出権取 引のシステム自体は最低限動くよねというのは、たしかにシステムとしては安 定しているがその中で生まれた利益をあるグループが独占しており、衡平性が ない。 ・交渉から離脱するとかそういう話しなのか?離脱ではなくて排出量なのでは? :これ以上排出量あげると、自分の効用が減ってしまう、という意味では参加、 離脱として考えられる。 ・ナッシュ均衡にはなっているけど、公平にはなっていないということはどの ような状況があるのか。具体的なものを考えるとどのようなものがあるのだろ うか。