2023年度の活動はこちら
防災地理部の設立にあたって
地理学者ブローデルの「地中海」を手にとると,「まず初めに山地」という意外な文章で始まります.地形によってその運命を大きく左右された地中海を描いた物語は,人間の生活全般に対して,長くにわたって影響を与え続ける地域的・社会的な構造の学問「地理」の重要性を示唆しています.地理を学ぶことは,その地域に生きる上で必須であることは疑いの余地もない,しかし私たちは,自分たちが暮らしている地域のことをどれだけ知っているといえるでしょうか.
災害は忘れた頃にやってくる.長い時間,地域で暮らしていれば,災害に直面することもあるでしょう.災害が一度起きれば,地域の存続そのものが左右されることになります.危機に直面した地域で,わたしたちは,身の回りの暮らし,経済,文化の問題解決を迫られることになるでしょうか.そのとき,私たちは,何を頼りに,復興のための道筋を描けばいいでしょうか.「地域のよりよい理解」を下敷にした「災害復興への備え」を考えることが今求められています.
「防災地理部」では,地域で生きる私たち自身が,さまざまな世代の人々とともに,自ら地域を歩き,語りあい,問題を発見すること.さまざまな声に耳を傾け,懸命に考えること.そうして得られた地域のよりよい理解に基づいて,地図を囲んで線を引き,地域の復興と災害への備えを描くことに,みんなで取り組んでみたいと考えています.
こうした学びを独習で進めることは簡単ではありません.防災地理部では,東京大学工学部社会基盤学科の基礎プロジェクト1で,学部3年生が取り組んでいる演習を下敷に,土木学会の協力を得て現在収集中の東日本復興アーカイブなどを学びの素材として活用することを試みます.地域の地理の総合理解,地理的課題の抽出と災害シナリオの作成,事前復興計画の策定までを,複数の学校共同で行い,東京大学で12月に開催予定の復興デザイン会議で発表会を行うことを考えています.
災害からの地域復興は,どのような形をとるにせよ,そのいずれもが,空間の力を借りることなく,十分な力を発揮することは難しいでしょう.「防災地理部」では「地理」と「防災」の問題を,同時に現場で考えることを通じて,地域で生きる術を学んでいくための活動の場です.地域のみなさんと一緒に楽しく学んでいきましょう.なにとぞよろしくお願いいたします.
羽藤英二
活動概要
活動の進め方(詳細とポイント) 慣れ親しんだ地域の地形や歴史,地域の人々の声から学び,南海トラフ地震が起きた場合に課題となることは何か,自分たちに今何ができるかについて,宇和海3地区,松山,今治の2島をつなぎ,議論を交わします.地域の方や家族への過去の災害に関するインタビュー,同級生へのアンケート,通学中の気づきなど,地元に住んでいる高校生だからこその視点を生かして事前復興プランを考えます.
演習資料
復興学習
石巻がれき処理:
宮城県石巻市は東日本大震災で甚大な被害を受け,かつて北上川の水運で栄えた港町は一面の災害廃棄物に覆い尽くされました.終わりの見えないがれき処理業務の先頭に立ち,被災されたの作業員の方々とともに約3年にも及ぶ大事業を完了させた伊藤さんに,当時の様子と復興への思いを伺いました.
↓インタビュー動画はこちらから
復興学習アーカイブ取材協力:鹿島建設株式会社,一般社団法人 日本建設業連合会
分析方法
レイヤー分析:
都市を構成する諸要素をひとつずつレイヤーに写し取り,各要素や要素間の共時的・通時的な関係性を読み解くのがレイヤー分析です.本項ではレイヤー分析の概要と分析例を紹介しています.
↓レイヤー分析の説明と分析例の動画はこちらから
過去の演習成果のまとめ
基礎プロジェクトⅠ(2020年度):(対象敷地:東京都江東区)
2020年度夏学期の学部3年生の演習,基礎プロジェクトⅠの概要と成果物です.
都市ブック:
2019年度応用プロジェクト1にて作成したブックです.都市を考える上で知っておくべき諸概念が辞書的にまとまっている他,昨年度提案した地区計画も掲載しています.参考にしてみてください.
日程
日 | 形式 | 内容 | 配布資料 |
---|---|---|---|
8/11(火) | 宇和海・松山 初回授業 | ガイダンスと敷地の議論 東日本大震災の復興や他地域の事前復興計画学習 復興に関する議論 | |
9/17(木) | 今治 初回授業 | ガイダンスと敷地の議論 東日本大震災の復興や他地域の事前復興計画学習 復興に関する議論 | |
9/27(日) | 宇和海・松山 第二回授業 | レイヤー分析の結果と議論 | 分析各地の旧版地形図 |
11/3(火) 11/8(日) | 宇和海・松山・今治合同 中間講評会 | 中間発表 各校の分析・調査内容のまとめ 事前復興に向けた着眼点と提案コンセプトの発表 各チームへのエスキース,議論 | |
12/5(土) | 復興デザイン会議 第2回全国大会 ポストコロナの都市像を描く | 防災地理部私たちのまちと事前復興を考える |
活動報告
第一回授業
8月11日参加校:愛光学園,宇和島東高校,三崎高校,八幡浜高校 9月17日参加校:今治北高校大三島分校,今治西高校伯方分校8宇和海3地区と松山,今治の2島をZoomでつなぎ,防災地理部の活動を始動しました.東日本大震災の復興や他地域における事前復興計画を学び,復興に重要なことは何かをみんなで議論しました.
第二回授業
参加校:愛光学園,宇和島東高校,三崎高校,八幡浜高校高校生のみなさんの出身地区や学校周辺地区を対象とし,大正,昭和,現在の地形図を見比べ,馴染み深い土地がどのように変化してきたのかの分析を行いました.時代を経るごとに埋立地が増えて液状化の危険性が増していること,高度経済成長期前後で幹線道路や伊方原子力発電所ができ,人口や地域間の移動,産業構造に変化があったことなど,多くの重要なことに気づいてくれました.
その後,事前復興計画を立てる上で注目したいことについて,地元の商店街や通学路にたくさんある空き家,険しい避難路など,高校生らしい視点での活発な議論が行われました.防災意識について同級生に独自にアンケートを行ってくれた高校もあり,意欲的な活動を行ってくれています.
中間講評会
11月3日参加校:愛光学園,宇和島東高校,今治北高校大三島分校 11月8日参加校:三崎高校,八幡浜高校,今治西高校伯方分校 レイヤー分析,過去の災害調査,地域の方へのインタビュー,学校アンケート,地質・地形調査,避難路現地調査など,地元の高校生だからこそできる調査手法で,各チームが災害に関する調査の報告を行いました.土砂災害や液状化の要因となる地形・地質的要因の調査から,人口減少・高齢化のために避難時や復興期の若い担い手が不足することを課題として見出すチームなど,熱心な調査と的確な問題設定がなされました.空き家の利活用して避難・復興拠点とする案,高台に宿泊施設を整備し非常時には避難拠点とする案,サイクリングロードとして避難路を日常的に活用していく案など,アイディアに富んだ計画案も発表されました.各チームに大学教授,大学生・大学院生,地元のラジオ局の方がコメントし,最終発表に向けたアドバイスを行いました.