東京大学 羽藤研究グループ > 講座 > 2016 > 行動モデル夏の学校2016 > 当日のまとめ
第15回行動モデル夏の学校2016は,東京都・文京区の東京大学本郷キャンパスにて,2016年9月23日から25日にかけての3日間,講師17名(うち若手研究者セッション講演者3名),参加者97名(うち聴講者3名)によって行われました. 基調講演 Keynote lecture / 講義 Lectures / |
基調講演 Keynote Speech
Prof. Moshe Ben-Akiva ( Massachusetts Institute of Technology )
Diversity and Cultured in Knowledge Creation -The Story of the Tower of Babel Revisited-
行動モデルと最適化を援用したスマートモビリティについて,コンセプトからモデルフレーム,ケーススタディまでご講演頂いた.スマートモビリティ時代に重要なアジェンダとして,スマートフォンアプリを利用したデータ収集,行動モデルを利用した個々人への対応,最適化によるモビリティ供給の効率化,それらを統合したスマートプランニングが挙げられた.その上で具体的に,GPSなどスマートフォン端末のセンサーから生データを得た後,機械学習によるデータ分析と利用者に操作しやすいインターフェースによるデータの修正・追加をインタラクティブに行える観測システムであるFMS,サービスレベルを利用者に応じて変化させることでリアルタイムに車両を最適に配分するFMOD・AMOD,リアルタイムな交通状況等を予測するシミュレーションベースのシステム最適化とアプリに統合された情報とインセンティブによる個別メニュー最適化によって個人の経路選択を変えるMeMOT等について説明がなされた.(PDF Document) |
講義 Lectures
Giancarlos Troncoso Parady(Univ. Tokyo) 交通需要の基本的な予測手法として四段階推定法が紹介された後,交通需要予測への新たなアプローチとしてActivity-based modelingの導入を行う.時空間プリズムの概念が紹介されたうえでActivity-based modelingの適用可能性の大きさが示された.離散選択モデルの基礎について,意思決定主体,選択肢,説明変数,意思決定ルールを定義し,誤差項の確率分布を仮定することで選択確率が計算できる.離散選択モデルは個人の交通行動を予測する一方で,政策分析では集計的な行動の評価が必要となる.需要変化の評価としては弾性値(elasticity)が代表的に用いられる. (PDF Document) |
Makoto Chikaraishi(HiroshimaUniv.) 選択肢相関や分散の不均一性,選択肢集合の列挙等の問題を解決するために様々な発展的行動モデルが提案されてきた.中でもクローズドフォームのモデルは,McFadden(1978)によるG関数から導出でき,計算性が高い.誤差分布を特定せずに選択肢間の相関構造を記述できることも特徴の一つである.一方でMEVモデルにしか適用できないという制約があったが,Mattson et al.(2014)はMEVからGEV(一般化極値分布)へと拡張した一般化G関数を提案した.また経路列挙問題に対してはFosgerau(2013)に見られるような,選択肢を明示的に列挙せずにリンクごとの選択問題とみなすモデルが有効である. (PDF Document) |
Hideki Yaginuma(Univ. Tokyo) オープンフォームのモデル選択肢間の誤差相関や分散不均一性を柔軟に表現することができる点で優れている.一方で多重積分の計算による計算コストの高さが根源的課題である.18号答申の需要予測の際には,東京の鉄道ネットワークの経路重複が大きな課題であったが,ODペアごとの共分散行列の各値を経路重複割合等で外生的に与える構造化プロビットモデルを用いて,精度向上に貢献した.一方でMixed logit modelは誤差項に2種類の分布を仮定するモデルで,そのパラメータの設定次第で他のGEVモデルを表現できるという特性を持ち,より柔軟なモデルとなっている.(PDF Document) |
倉内慎也(愛媛大学) 行動モデルの基礎理論 多項プロビットのようなopen-formのモデルに対して,多項ロジットモデルはclosed-formであるというメリットを持つが,IIA特性が非現実的な結果をもたらすことがある.そこで誤差項間の相関を考慮できるネスティッドロジッドモデルを適用することが考えられる.また,ミックスドロジットモデルは誤差項を分離することで,ロジットモデルの操作性を保ちつつ,より柔軟な誤差項相関を表現することを可能にする.選択確率はopen-formで記述されるため,推定にはシミュレーション法を用いる.(PDF Document) |
佐々木邦明(山梨大学) 行動モデルの推定法 行動モデルのパラメータ推定には一般的に最尤推定法を用い,最大化アルゴリズムを用いた繰り返し計算によって推定量を算出する. また誤差項を多変量正規分布で記述する場合は積分計算が必要になるため,シミュレーションによる尤度計算を行い,誤差項に乱数を与えて選択確率を計算するという操作を繰り返し,その平均値を用いてパラメータを推定する.またベイズ推定やMCMC法による推定といった手法も存在し,選定するモデルに適した推定法を選択する必要がある.(PDF Document) |
山本俊行(名古屋大学) 行動モデルの応用 ビッグデータの時代とはいえ,個人ごとのモデルや需要の小さい選択肢の予測など,ほしいデータだけを見るとサンプル数が少ないという事態がある.一方,最尤推定量の一致性,漸近的有効性,漸近的正規性は,いずれもNが大きい条件下で成り立つものである.この際,Nが小さい場合のバイアスの除去法としてペナルティ付き尤度(Firth1993)による補正がある.二項ロジットに関してはRのパッケージもある.これについて,多項ロジットへの拡張,ベイズ推定との類似性の指摘等がなされているが,こうした手法が交通分野でも有効なのかを検討していく必要があろう.(PDF Document) |
井料隆雅(神戸大学) 行動モデルと均衡 実際の交通量または混雑現象を理解するため,時間軸を含む交通流モデルを用いた動的利用者均衡配分を考えたい.未だ解けていない問題が多いものの,DaganzoのCTMモデルとVickreyの出発時刻選択問題は確立した手法といえよう.CTMモデルはLWRモデルを時間・空間で離散化したものであり,交通流の状態を数値的に計算するための方法としてよく使われる.また,Vickreyモデルではどの利用者もスケジュールコストを最小化できている状態を均衡として解くことができる.最後に,離散マルコフ連鎖で日々のドライバーの経路変更を記述する最新研究を,ChicagoSketchNetworkを用いた計算例で示す. (PDF Document) |
円山琢也(熊本大学) 行動観測と分析 熊本地震(2016)に対し,行動意向調査を行いながら復興まちづくりを考えている.同じ益城町でもライフスタイルは世代等によって大きく異なり,困難や不安,今後の意向はそれぞれに異なりうること,また財政面や災害リスクの面を考え合わせる必要がある.また,「行政・被災者」と「大学・研究機関」の橋渡しを地元大学が担うことが重要であろうと考え,そうした状態を目指している.(PDF Document) |
若手研究者セッション Early Bird Session
Toru SEO (Tokyo Institute of Technology) / Automated and Adaptive Activity-Travel Survey using Online Interaction with Travelers 長期間で大規模な交通行動調査に向けて,GPSデータから移動滞在判別を行い,活動に対してその活動目的を推定し,推定結果の信頼度が一定以下の場合には被験者に活動目的を尋ねるという手法を提案する.ナイーブベイズ仮説に基づき,過去の時系列データから活動目的とその推定の信頼度を計算することができる.さらに,被験者の回答または推定された活動目的は,被験者固有の時系列データとして活動目的推定モデルの学習に用いられる.実際の行動データを用いて提案手法の妥当性を確認したところ,推定の間違い率は外生的に設定した5%のまま推移し,質問の頻度は調査開始から12日目でおよそ半減した.被験者の回答負荷を減らしながらもデータの質を担保しうる調査手法といえよう. (PDF Document ) |
Junji URATA (Kobe University) / Modelling of Tsunami Evacuation Behavior accounting for Dynamics of Heterogeneity in Expected Utility 避難行動モデルを考える際,期待効用とその異質性を記述すること,避難開始時刻に関する意思決定を扱うことが重要といえる.そこで,避難と滞在の2肢を各期ごとに選択する逐次選択モデルを構築し,推定と妥当性の検証を行った.滞在選択肢の効用には期待効用EVが含まれるが,災害時の知覚期待効用はベルマン方程式から得られるEVとは一致せず,ある程度のばらつきをもつと考えられる.このばらつきΩを制約条件に加え,SQP法を適用して推定する.東日本大震災時の避難行動データで検証したところ,提案モデルの最終尤度は他の静的モデルよりも高かった上,知覚期待効用の時空間的なばらつきを確認することができた. (PDF Document) |
Yuki Oyama (The University of Tokyo) / Structural Estimation for a route choice model with uncertain measurement GPSデータのマッチング誤差を補正しながら経路選択モデルのパラメータを推定することを考える.これは,従来の「経路選択モデル推定のための経路データを経路選択モデルのパラメータを使って得る」という堂々巡りや,リンクごとに異なるはずの観測誤差の分散σが一定とされている問題を解決する.この際の経路選択モデルのパラメータ推定は不動点問題を解くことにあたり,観測モデルのパラメータ推定を内部問題にもつような構造推定となる.双子実験でモデルと推定方法の有効性を確かめたのち,実データでパラメータ推定を行った.観測モデルと組み合わせない場合に有意であった旅行時間変数の代わりにアーケードダミーが有意となった他,推定結果の精度向上が見られ,リンクごとの観測誤差の分散σのばらつきも確認できた. (PDF Document) |
演習 Group work
課題:プローブパーソンデータを用いた行動モデル推定
プローブパーソンデータ(ロケーションデータ,ウェブダイアリー)・土地利用データ・交通ネットワークデータを用いて,離散選択モデルをはじめとした行動モデルの構築と推定を,4~7人での班ごとに行い,成果を発表しました.
team A (Foreign students team) Changes between working and shopping on Transport mode choice pdf / code Abstract: Team A focuses on the transportation mode choice and estimate MNL model for segmentation of commuting and shopping behavior. The CBD (car) dummy showed negative significant effect.
|
team B(IIT + Nagoya Univ.) Variation of mode choice based on time of the day pdf / code Abstract:Team B estimated the MNL and NL model for transportation mode choice. They consider "active" and "non-active" modes, and calculated elasticity focusing on the spatial difference.
|
team C(Hiroshima Univ.(English)) Mobility analysis in downtown of Yokohama city pdf / code Abstract:Team C focused on making more walking trips, and estimated MNL and NL transportation choice model incorporating parking cost. Capturing the influence of destination, the NL model for destination and mode choice was estimated.
|
Dチーム(広島大学日本語チーム) 鉄道利用における列車種別選択行動のモデル化 pdf / code 発表概要:ラッシュ時の鉄道混雑を問題意識として,急行列車の存在に着目しました.GISの経路情報とNavitimeの情報から急行・各停を判断し,鉄道種類選択行動をモデル化しました.寒い日ダミーや前日長時間勤務ダミーを入れています.
|
Eチーム(東京大学Aチーム) Purchasing activity model focusing on interval pdf / code 発表概要:買い物の「間隔」に着目して分析と推定を行いました.人によって買い物の頻度が異なることを基礎集計で確認したうえで,買い物行動発生の間隔モデルを作成しました.自宅から最寄り駅までの高度差に有意な結果を得ました.
|
Fチーム(東京大学Bチーム) Evaluation of Intensive urban transportation focusing on the choice of public transport means pdf / code 発表概要: 交通Hubに対する利用者側の視点からのモデル化を考えました.MNL/NL/CNLの3つを用いて交通手段+アクセスイグレス交通手段の選択行動をモデル化し,相関の存在を確認しました.アクセス距離の増加による交通手段の変化を検証し,ケーススタディでは政策による地域の総効用の最大化を考えました.
|
Gチーム(東京理科大学Aチーム) 帰宅時におけるグルメ情報が行動選択に与える影響 pdf / code 発表概要:グルメ情報に着目したかったが,今回は就業後の活動目的選択行動分析を行いました.目的の効用で悩みましたが,直帰/食事/買い物選択行動をモデル化しました.残業減少による街の活性化などを考えています.
|
Hチーム(東京理科大学Bチーム) ロードプライシング導入による交通手段選択モデル pdf / code 発表概要: 横浜市のモビリティデザインとして交通偏りを解消するためのロードプライシングに着目しました.ガソリン代から自動車交通の費用を算出し,交通手段の選択モデルを推定しました.
|
Iチーム(神戸大学チーム) 静的均衡配分による横浜市の渋滞状況の検証と対策 pdf / code 発表概要: 一部のネットワーク改変が周辺のネットワーク交通量に及ぼす影響を確認するため,均衡配分を行いました.一般化費用として時間価値等も考慮し,リンク数が379,000もあったので,リンク分類後にネットワークを縮約しましたが,,計算が回りませんでした.
|
Jチーム(ナビタイムジャパンチーム) アフター4の充実を目指した早期時間帯私事&直帰モデル pdf / code 発表概要: 日本の残業時間の多さを問題意識とし,出勤後の私事トリップ発生モデルを構築しました.交通手段や曜日・退勤時刻の他,習慣行動の影響にも着目し,推定・シミュレーションを行いました.
|
Kチーム(個人参加者合同チーム) 自動運転の時間と料金に着目した交通手段選択モデル pdf / code 発表概要: レベル4の自動運転を評価するためのモデルを構築することをコンセプトに,自動車費用(燃費+駐車場代)を説明変数に考慮した交通手段選択モデルを推定しました.自動運転車では免許不要,駐車場コスト0とすることで,政策導入シミュレーションを行いました.
|
Lチーム(熊本大学チーム) イグレス距離に着目した交通手段選択モデル pdf / code 発表概要: イグレス距離による交通手段選択の変化に着目し,モデル推定を行いました.イグレスが閾値的に効いているとの仮定のもと,比較推定による検証を行った結果970mが転換点であるという結論を得ました.
|
Mチーム(芝浦工業大学Aチーム) 私事トリップに着目した目的地交通手段選択モデル pdf / code 発表概要: 私事トリップに着目した目的地・交通手段選択モデルを構築しました.NLを構築し,設定した説明変数については仮説に正しい符号となり,スケールパラメータについても有意な結果を得ました.
|
Nチーム(芝浦工業大学Bチーム) 居住地選択モデル推定を目指して pdf / code 発表概要: 居住地の選択モデルを作ろうと,さまざまなモデルの検討(市区町村単位→NL→駅付近or not)を行いましたが,有意なモデルを推定することができませんでした.サンプル数の検討や事前分析が少し足りなかったと思いました.
|
Oチーム(山梨大学チーム) 多様性による賑わいを考慮した目的地選択モデル pdf / code 発表概要: 賑わいの指標として「目的の多様性」に着目し,「エントロピー」および「Googleのオレンジ面積」という新しい変数を導入した目的地選択モデルを構築しました.
|
Pチーム(愛媛大学チーム) ゆう活推進による終業後の活動の変化 pdf / code 発表概要: 夕活に着目し,勤務後の直帰or立ち寄りの選択行動をモデル化しました.出勤時刻と勤務時間の変更政策により,立ち寄り行動が増加することを確認しました.
|
Qチーム(国土交通省チーム) 歩行量を最大化する施設配置シミュレーションに向けて pdf / code 発表概要: 健康まちづくりとスマートプランニングを目指した歩行行動分析を行いました.第1トリップと第2トリップに着目し,娯楽が足の長いトリップになりやすく,第2トリップの足が短いことを確認し,外出/目的/施設のNLモデルを構築しました.結果としては,距離が正に効いている(長距離を歩きたがる)健脚モデルとなりました.
|
Rチーム(東京工業大学チーム) 横浜市西区・中区における放置自転車対策の考案 pdf / code 発表概要: 放置自転車を問題意識とし,駐輪場利用と違法駐輪の選択モデルを構築しました.合法・違法についてはPPの緯度経度情報から丁寧に判別し,GIS・定期/不定期等の情報を用いて変数を作成して推定を行いました.心理的要因が有意に効くことがわかりました.
|
Sチーム(名古屋大学チーム) 交通手段選択モデルによる地域特性を考慮した交通施策の効果分析 pdf / code 発表概要: 地域特性に着目した交通手段転換政策を考えました.中区・厚木市・西区別に交通手段選択モデルの推定とシミュレーションを行い,政策による交通手段の転換を評価しました.
|
表彰 Award
行動モデル夏の学校には例年,数理的にモデリングをつめられていたグループには,故・上田孝行先生にちなんだ香住賞が,行動分析によって興味深いfact findingを実現したグループには,故・北村隆一先生にちなんだDavis賞が送られます.今年度の受賞チームは以下の通りです.
香住賞 :Fチーム 東京大学Bチーム
Davis賞:Kチーム 個人参加者合同チーム