研究室TOP講座2015基礎プロジェクト1

概要

社会基盤学科3年生を対象に,横浜を対象地とした都市計画スタジオを開講した.郊外NT・広域交通・旧市街地・子安地区・横浜駅という5つの敷地と関連する視点に応じて,3年生の学生さん自らの選択により5班に分かれて演習を行なった.前半では現地調査に基づいて敷地分析を行い,地域の課題発見と抽出およびコンセプト提案をしてもらった.後半は外部講師による中間講評会と毎週のエスキースを経て,最終的な空間計画とデザイン提案を各チームごとに行い,外部講師の方々から講評を頂いた.


日程


形式内容
4/06(月)ガイダンス地図から考える地域デザイン
4/13(月)個人調査横浜市プレサーベイ(まち歩きと課題発見)
4/20(月)プレゼンテーション各自の発見した課題について発表
4/27(月)グループワーク調査計画書作成・交通分析手法論を学ぶ
5/9(土)-10(日)現地調査班ごとに対象敷地および横浜市の現地調査・ヒアリング
5/11(月)グループワーク現地調査の振り返り・課題の抽出とコンセプトづくり
5/18(月)個人課題とエスキス個人で交通分析・課題分析/グループディスカッション
5/25(月)レクチャーとエスキスPT分析の手法と事例
6/1(月)グループワーク個人課題の回覧・講評/グループディスカッション
6/8(月)中間発表各班の課題分析・コンセプトの提示とその講評
6/15(月)模擬ワークショップ地図から考える地域デザイン
6/22(月)グループワークプランニングのグループディスカッション
6/29(月)グループワークプランニングのグループディスカッション
7/6(月)ポスター提出最終成果物の提出
7/13(月)最終発表実務者の方を招いての最終講評会

中間発表

郊外班:横浜都民と郊外


人と時間をつなぐ場所-港南区の将来



交通班:交通分析・政策


国道一号線の交通分散



旧市街地班:旧市街と高齢化


旧市街地の未来を考える



生業班:地形×生業×ブラウンフィールド


劇的!子安浜ビフォーアフター



横浜駅班:ウォーターフロントと防災


水と生きる街,横浜







最終発表



最終的な空間計画とデザイン提案を各班ごとにポスターと口頭発表によって行った.土木,建築,都市を横断するプランニングであることを勘案し,建築家の乾久美子氏,設計領域の新堀大祐氏,日本設計の萩原拓也氏,横浜市都市デザイン室の桂有生氏,国土交通省都市計画調査室長の菊池雅彦氏の5名に講評をいただいた.



郊外班:港南の未来を考える   発表ポスター / 発表資料

概要:横浜市の郊外として港南エリアを考えた.少子高齢化とコミュニティの縮小,坂が多い地形や圏域特性による移動の不便さなどの課題を見出した.このような現状に対し,コミュニティハウスの整備を軸とした提案をした.世代を問わない交流の拠点となるほか,コミュニティバスの発着所や日常購買の場所としての役割も持たせる.また,歩道の拡充や川沿いの緑道の整備とそこでの祭りの開催を計画し,維持管理などにおいては住民が参加する体制を作る.

講評:現地調査や交通分析を踏まえ地形,人々の移動の様子などを丁寧に抽出できている.コミュニティハウスを軸として課題を個別的でなく複合的に解決する提案は評価できるが,いわゆる郊外の課題に対しての一般解に近くなっていると思われる.エリア内でも特徴の異なる各地区におけるコミュニティハウスの役割の違いや,広域まで含めた周辺地域とどのような関わりを持っていくかを深めることで地域に根ざした提案に近づくだろう.




交通班:本当に住み易い「横浜」は海から離れた場所にある   発表ポスター / 発表資料

概要:対象敷地で交通班は「①国道1号線に長距離・日常・非日常交通が混在,渋滞が発生」「②小規模商業施設が点在,高齢化・人口減少による購買難民」という問題,購買での車が卓越を示す分析に注目した.①の解決策として「日常購買を集中点に,非日常購買を拠点に集積,車での移動の最適化」「高速道路=都市間,幹線道路=拠点へ,準幹線道路=集中点へ,と道路の役割を分化」,②の解決策として「非運転層のための集中点へのコミュニティバス」「拠点=上大岡に回遊性を高めるリデザイン,非日常購買の食い止め」を掲げた.

講評:定量的な分析から,鎌倉街道や1号線などの道路種別の問題を抽出し,街路のあるべき姿を再提案し,街路空間の再配分を安直な抽象的な提案で終わらせることなく,具体的な数値計算で確認しながら,「施設配置」と「空間デザイン」を組み合わせて,新しい暮らしの場を提案しようとした野心的な提案. 上大岡の空間提案は断面構成が大胆で,大岡川を駅空間に取り込む社会基盤らしい空間提案といえる.駅改札からの道路を跨ぐ空間はセンスがよく,パースの角度を選んで大岡川から駅改札を望むような方向に描けばよりよかったかもしれない.メゾスケールとマクロスケールの動線分析からの提案となっており,暮らしのあり方(交通パターン)が変化することも均衡配分で検証されており,論理のたてかたは興味深い.




旧市街地班:旧市街の未来を考える   発表ポスター / 発表資料

概要:多様な個性をもつ横浜の旧市街地区を対象に計画を行った.地区ごとに個別の分析を行いつつ,全体コンセプトとして「活かす・繋ぐ」をあげ,街づくりの五箇条を定めるという形でまとめ上げている.目抜き通りの整備とそれによる動線の変化を中心として各課題と各地区に沿った施策を打ち,それらと五箇条の対応をマトリクスで整理することで全体を俯瞰したプランニングとなった.

講評:災を逃れる,痕跡を辿る,繋がる,体感治安を改善するといったワーディングや問題整理はよく出来ており,痕跡リストや風俗ゾーニングといった解決案の提示も具体的に行われている.個別街路ごとの特徴に基づいた提案により町全体でどのような行動を生みだしたいかが明確に整理されており,マトリクスを用いたシナリオメイキングという都市計画的な方法が使われていることにも一定の評価ができるだろう.ただし,議論や課題の整理を図面ベースに行うことで,考えるべき空間がもう少し具体的かつ網羅的に確認できたのではないだろうか.その結果,全体として繋ぐ,活かすといったコンセプトの中で個別の空間提案を活かすような論理立てを行えるようになるとよいだろう.




生業班:活き続ける子安浜   発表ポスター / 発表資料

概要:旧東海道沿いに位置し,埋立地に面しながらも漁業が続いている子安地区について計画を立てた.文献調査と現地調査を丁寧に行い,子安地区の歴史的な特色を柔軟な可変性とした上で,まちの可変性を阻害する問題点として大口商店街への移動の不便さ,密集住宅と空き家放置,水際の占有の3点を挙げた.これらに対し,移動実態の調査に基づいて地下道の拡幅を提案し,現状の特色を生かした住宅更新のあり方を示し,水際を多くの人が多目的に使えるよう,ピロティ式の建物を設置した.

講評:地域的な特徴が際立っている地域であることもあり,的確な歴史分析と空間的 な課題の抽出がなされている点は高く評価でき,それぞれのプランも秀逸といえる.しかし全体としてどういった地域を目指しているのかは説得力をもって伝わってこない.また地域の実情に合わせた細かいスケールの提案が多いため,表現の際にはより具体的なパースや,アクティビティの仕組み・詳細な動線の変化を記述する必要があったろう.コンセプト,分析は論理的であり説得力があるだけに,専門家として地域にどう向き合いどう伝えるか,その最後まで表現を磨くことで,よりよい提案になりうるだろう.




横浜駅班:溜り場と止まり木   発表ポスター / 発表資料

概要:横浜市の中心である「横浜駅」と,当駅西口の繁華街である「パルナード地区」について計画を立てた.横浜駅は内部構造の複雑さによる移動しづらさや閉塞感,災害時の避難の危惧を問題とした.主に東西に2階デッキを通して改札等を移動し,利用者の流動性の改善を図った.パルナード地区は狭小な歩道やオープンスペース不足,災害脆弱性を問題とした.主に歩行空間の充実化や,土地の特性に合った2種類のたまり場の創出を行った.

講評:対象地域を横浜駅と西口パルナードに大別しているために論理がわかりやすい.特に横浜駅の動線分析はストーキング調査を利用して丁寧に成されており,解決策も納得できる.ポスターにパースや図が豊富で充実しているところも評価できる.一方地域の問題に対して解決策が個別なものに留まっているところが課題である.例えば駅の整備が都市にどのような影響を与えうるのかはこれから考えていかねばならないだろう.またパルナード地区には詳細な平面操作を施すと,提案の厚みが増す.全体的に住民視点を排した特殊なプランであったため,その点に関してもさらに考えていくべきである.