概要
都市経済システムや経路選択問題,動学的相互意思決定問題といった行動モデルの高度化に向けた研究課題のための手法論について,具体的な対象と問題を想定した,基礎理論の習得と論文輪読を目的に開催します.
日時/場所:
9/15(金) 13:30-20:00 @Basis Point神保町店
9/16(土) 8:00-14:40 @日本橋 MIXER
対象図書
藤田昌久. (2000). 空間経済学: 都市・地域・国際貿易の新しい分析. 東洋経済新報社.
日程
発表
実施済みの回について,発表概要と資料・議事録をまとめています.
#1-1
空間経済学―第4章 独占的競争のディクシット,第5章 核と周辺地域
第4章では.ディクシット=スティグリッツの独占的競争モデルをもとに.複数の産業立地点や立地点間の輸送費を組み込むことで空間経済学に拡張したモデルを導き.価格指数や労働者の賃金を表す関係式を記述した。第5章では.前章で導いたモデルを用いて.2地域での経済構造の変化を考察した。地域間移動可能な工業労働者の実質賃金差に着目することで.工業生産が片方の地域に集積する「核-周辺パターン」が成立する条件.および成立後に安定均衡である条件を議論した。
(藤田昌久,P.クルーグマン,A.J.ベナブルズ(2000)「空間経済学―都市・地域・国際貿易の新しい分析」,小出博之訳,東洋経済新報社,pp.47-79.)
●発表資料
#1-2
空間経済学―第10章 新都市の形成,第11章 階層的都市システムの発展
第10章では,第9章の単一中心的システムの均衡理論から,人口が臨界点を越えて均衡が崩壊する,すなわち新たに都市ができる場合について議論した.手法としては,前章までの方法に人口の自然増加と動学的調整過程を組み込むことで,その新都市形成の仕組みや複数都市が形成されるパターンについて記述した.第11章では,プレイヤーとして差別化された財を生産する産業を加えて複数都市の階層化を考慮し,階層的都市システムが形成される過程を記述した.
(藤田昌久,P.クルーグマン,A.J.ベナブルズ(2000)「空間経済学―都市・地域・国際貿易の新しい分析」,小出博之訳,東洋経済新報社,pp.151-214.)
●発表資料
#1-3
空間経済学―第12章 都市規模に関する実証分析,第13章 港湾,輸送ハブ,都市の立地
単一中心理論・都市階層システム理論などの基礎経済理論を下敷きに,これらの理論では説明のできなかった現象,都市規模分布の規則性とハブに都市が形成されやすい原理に関する定式化を行った.具体に,第12章では都市集中現象に対するボーズアインシュタイン凝縮やパーコレーション現象と等価のジップ則の証明を,第13章ではフォン・チューネンの単一ハブモデルを拡張し,空間を二次元に表現した場合にも都市の形成原理について妥当な解釈が可能であることを示した.
(藤田昌久,P.クルーグマン,A.J.ベナブルズ(2000)「空間経済学―都市・地域・国際貿易の新しい分析」,小出博之訳,東洋経済新報社,pp.215-236.)
●発表資料
#1-4
観測誤差分散のリンク固有性に着目した経路選択モデルの構造推定
観測モデルにおいて,観測データの誤差分散は機械の精度だけでなく,空間特性によっても不均一となるため,ベイジアンアプローチを利用した逐次リンク観測モデルの導入により,リンクごとの誤差分散を考慮できるようになっている. また,従来のベイジアンアプローチでは,事前情報として導入する経路選択モデルのパラメータのバイアスが残るため,これが真値と大きく異なる場合には,観測値は誤った方向に補正されるリスクがあった.そこで,構造推定の手法により,経路選択モデルのパラメータθが収束するまで観測モデルと選択モデルを繰り返し計算することで,ベイジアンアプローチにおける事前情報のバイアス低減を行う. 理論的収束性や時間幅によるデータ抽出には若干の課題を残すものの,仮想ネットワークと松山でのデータを用いた数値計算によりモデルの有用性を示している.
(大山雄己, 羽藤英二, 観測誤差分散のリンク固有性に着目した経路選択モデルの構造推定, 土木学会論文集 D3(土木計画学), Vol.73 No.5, 2017.)
●発表資料
#1-5
A random utility maximization (RUM) based dynamic activity scheduling model: Application in weekend activity scheduling
時間は,活動生成過程においてはたくさんの代替行動の間で配分されるべき資源として働き,活動スケジューリング過程においては消費されるものとして働くという特徴に着目.行動の種別に関する離散選択と,その行動に配分する時間に関する連続選択との間には相関があり,かつそれらはともに効用に結びつくものとする,離散-連続モデルに関する論文.プロセスが進むごとに変化する時間制約を直接的にフレームワークにおいて考慮し,かつランダム効用最大化理論を用いている.実際の例としてトロントで2002-2003年に行われた調査結果に適用し,モデルが行動をよく反映することが示された.
(Habib, K. M. N., A random utility maximization (RUM) based dynamic activity scheduling model: Application in weekend activity scheduling, Transportation, Vol.38, No.1, 123-151, 2011.)
●発表資料
#1-6
A probabilistic multipath traffic assignment model which obviates path enumeration
確率的配分計算において用いられるDialのアルゴリズムを紹介した.ある1つのノードを始点ノードとしたとき,他の全ノードに対してリンク尤度を定義し,リンクウェイト値の定義・導出,リンク交通量の算出を行うという一連の流れを具体的な小ネットワークを用いながら1ステップずつ確認すると同時に,リンク尤度をもとに可能経路候補を限定することで経路列挙における計算量を抑えていること,ある始点から他のノードへの全ODの配分計算が一度に可能であるというDial配分の特徴を確認している.また,上述の小ネットワークを利用し,リンク尤度定義式中のθ変化時の配分交通量変化追跡によりθの果たす役割やDial配分とロジット型確率配分の等価性も示している.
(Dial, R B., A probabilistic multipath traffic assignment model which obviates path enumeration, Transpn Res. Vol.5, pp.83-111, 1971.)
●発表資料
#2-1
空間経済学―第6章 多数地域および連続空間,第7章 農業品の輸送費用
第5章で展開された経済地理モデルにおけるいくつかの非現実的な仮定を緩和し,モデルの一般化を行った.第6章では2地域という仮定を廃し,モデルを連続地域で再構築するとともに,アラン・チューリングが理論生物学で用いたモデルを援用し,初期の一様分布均衡が崩壊し,集積が発生する過程を記述した.第7章では農業品の輸送費用をモデルに導入し,農業品の輸送費用が集積に対して2つの異なる経路で影響を及ぼしていることを明らかにした.
(藤田昌久,P.クルーグマン,A.J.ベナブルズ(2000)「空間経済学―都市・地域・国際貿易の新しい分析」,小出博之訳,東洋経済新報社,pp.81-117.)
●発表資料
#2-2
A statistical theory of spatial distribution models
のちに「Wilsonのエントロピーモデル」としてまとめられる.トリップの分布推定手法の基礎を述べている。ここでの手法は.ある特定の分布パターンを実現させるトリップの組み合わせ数を分布の蓋然性の尺度とし.設定した制約条件下でこれを最大化することで.最も起こりやすい分布を求めるという最尤推定の原理を用いたものである。この手法を用いることで.重力モデルや介在機会モデルなど基本的な空間分布モデルを導出でき.これらに新たな理論的根拠を与えられる。さらに.比較的弱い制約式を用いているため.目的や状況に応じた様々な空間分布モデルを導出できるという利点を,いくつかの具体的なモデルの例とともに示している。
(Wilson, A. G., A statistical theory of spatial distribution models, Transportation research, Vol.1, No.3, pp.253-269, 1967.)
●発表資料
#2-3
The location of two ring roads and the control of traffic speed which together minimises radial travel in a town
The optimal location of a single ring road
Competition and efficiency of private toll roads
Smith(1976)は,環状道路が2つのネットワークを想定し,放射方向の交通量を最小化する環状線の半径を求めた.トリップの出発点と終着点が環状道路の内側か外側にあるか,また内環状道路か外環状道路を通るかによって,トリップを階層化することで,放射方向の移動距離を明快に示した.最適な内側環状半径比/外側環状半径比が√2-1であり,都心部に近すぎる環状道路を計画しても,そのパフォーマンスが低くなることを数理的に示した.Xiao(2007)らは,パラレルリンクをもつネットワーク上で,民間が経営する対称的ではない道路において,通行料と道路容量を同時に選択する場合の解の性質について分析した.
(Smith, M. J., The location of two ring roads and the control of traffic speed which together minimises radial travel in a town. Transportation Research, Vol.10, No.3, pp.201-207, 1976.
Smith, M. J., The optimal location of a single ring road, Transportation Research Part B, Vol.13, No.2, pp.151-154, 1979.
Xiao, F., Yang, H., Han, D., Competition and efficiency of private toll roads, Transportation Research Part B: Methodological, Vol.41, No.3, pp.292-308, 2007.)
●発表資料
#2-4
On the internal structure of cities
土地利用について何ら制限のない都市内部における企業・労働者間の土地獲得競争を記述したFujita and Ogawa (1982)の考え方を踏襲しつつ,いくつかの仮定を緩和してなお均衡状態が存在することを確認し,実際に数値実験を行って都市に関する諸パラメータが都市の内部構造(土地利用)に与える影響を明らかにした.特に都市内の交通費用と生産の外部効果の減衰度の大小の影響について様々な値で数値実験を行い,考察を行っている.
(Lucas, R. E., Rossi Hansberg, E., On the internal structure of cities. Econometrica, Vol.70, No.4, pp.1445-1476, 2002.)
●発表資料
#2-5
A link based network route choice model with unrestricted choice set
ランダム効用理論に基づいて,リンクベースで期待効用を表す価値関数を導入したBellman方程式を立てることで,経路選択肢の列挙を必要としないRecursive Logitと呼ばれる動的経路選択モデルを紹介した.このモデルでは,経路選択肢の個数に制限を設けることなく,各経路の選択確率がMNLモデルの場合と似た形で記述できることを確認した.また,Path-Size Logitモデルと同様に,重複したリンクを含む経路の効用に対して,リンクにおける期待交通量でLink-Size修正項を定義し,数値シミュレーションと実データを用いたモデル検証と推定によって,モデルの有用性を示した.
(Fosgerau, M., Frejinger, E., Karlstrom, A., A link based network route choice model with unrestricted choice set. Transportation Research Part B: Methodological, Vol.56, pp.70-80, 2013.)
●発表資料
#2-6
Downtown parking supply, work-trip mode choice and urban spatial structure
駐車場政策による都市構造と交通モード選択,大気汚染への影響を一次元の線形都市モデルにおいて記述している.通勤コストや賃料の定義,都市開発(資本投入)による床面積の増加による人口の集中を表すことで,CBDでの駐車場供給量の増大が,都市中心部ほど投資量・人口密度増大と居住空間減少の現状の傾向を緩めるとともに,都市のスプロールを進めるとモデルを用いて説明している. また,モデルで用いた地価や資本投入量などの空間に関する変数が,中心からの距離に対してどのように変化するかを説明し,モデルが実都市の現状と矛盾しないことを示している. 本研究では,渋滞による時間増大のコストをすべてCBD駐車場でのものとしているため車利用量増大による経路中の道路混雑が考慮できないこと,駐車場の形態を地表に設置する1パターンのみとしていること,住民の個人属性を考慮できていないことなどが課題と言える.
(Franco, S. F., Downtown parking supply, work-trip mode choice and urban spatial structure, Transportation Research Part B: Methodological, Vol.101, pp.107-122, 2017.)
●発表資料
#2-7
Longitudinal data analysis using generalized linear models
交通行動分析における統計モデルの情報量的解釈への展開を念頭に,現在の統計モデルの背景として重要な理論の1つである擬似尤度スコア推定方程式と一般化推定方程式の理論的解説を行った.まず一般的な推定問題及びその幾何学的解釈と各統計モデルの関連性について解説を行った.次に擬似尤度スコア推定方程式と一般化推定方程式(GEE)登場の基盤となった一般化線形モデルと推定量の性質を整理した上で,GEEが数学的には一般化線形モデルの拡張であると言えることを証明し,反復測定やクラスタデータなど相関が存在する観測値の分析が可能となった理論的発展過程への理解を試みた.
(Liang, K. Y., Zeger, S. L., Longitudinal data analysis using generalized linear models. Biometrika, Vol.73, No.1, pp.13-22, 1986.)
●発表資料