研究室TOP講座20112011秋期集中論文ゼミ合宿

概要

都市生活学・ネットワーク行動学研究室では10月16日(日),17日(月)の2日間,秋期集中論文ゼミ合宿を行いました.この合宿では, 名著と言われるものから最新の研究に至るまでさまざまな論文が研究室の各メンバーに割り当てられ,発表と質疑を繰り返す中で疑問点や今後の課題, 各自の研究との関連などを考察しました.



 今回各自が担当した論文のテーマは行動モデル,ネットワークモデル,ゲーム理論,機会学習など多岐に渡り,このように分野を横断した多くの 論文を一度に扱ったことでより俯瞰的に日頃の研究について見直すことができ,新たな知見が多く得られ充実した2日間となりました.こちらでは当日の発表と議論の内容をご紹介します.


※右図の中の番号は各論文を示しています.
  ex) #1-1:1日目の1本目の論文



日程

10月16日(日)

       発表担当者 担当論文               
08:30-09:30  #1-1 斉藤 A network model of urban taxi services
09:30-10:30  #1-2 伊藤 吸収マルコフ過程による交通量配分理論
10:30-11:30  #1-3 瀧口 Existence of urban-scale macroscopic fundamental diagrams: Some experimental findings
11:30-11:50      お昼休憩
11:50-12:50  #1-4 浦田 Intermodal hub-and-spoke network design: Incorporating multiple stakeholders and multi-type containers
12:50-13:50  #1-5 國分 Social influences on household location, mobility and activity choice in integrated micro-simulation models
13:50-14:50  #1-6 福山 Correlated equilibrium as an expression of Bayesian rationality
14:50-15:50  #1-7 柿元 The structure of random utility models, Theory and decision
15:50-16:50  #1-8 植村 A general and operational representation of Genera-lized Extreme Value models
16:50-17:50  #1-9 戸叶 Economics of information and job search
17:50-18:50 #1-10 池田 Economics of information and job search
18:50-19:50 #1-11 大村 Mining Interesting Locations and Travel Sequences from GPS Trajectories
19:50-20:20    1日目まとめ

10月17日(月)

       発表担当者 担当論文               
08:30-09:30  #2-1 植村 The Costs and Benefits of Ownership: A Theory of Vertical and Lateral Integration
09:30-10:30  #2-2 福士 Correcting for endogeneity in behavioral choice models with social influence variables
10:30-11:30  #2-3 大村 The Market for "Lemons": Quality Uncertainty and the Market Mechanism
11:30-11:50      お昼休憩
11:50-12:50  #2-4 斉藤 Learning, Mutation, and Long Run Equilibria in Games
12:50-13:50  #2-5 伊藤 Efficient Computation of?PageRank / The anatomy of a large-scale hypertextual web search engine
13:50-14:50  #2-6 瀧口 Mixed MNL models for discrete response
14:50-15:50  #2-7 柿元 The Learning Behind Gmail Priority Inbox
15:50-16:50  #2-8 戸叶 Congestion Theory and Transport Investment
16:50-17:20    2日目まとめ

発表

#1-1 斉藤

A network model of urban taxi services

タクシーの規制に関して,「料金」「参入」という二つのトピックがある.従来は集計的な需要・供給モデルの枠組みで検討されてきたが,実際は空間的条件が存在するため複雑な問題である.本論文ではゾーン単位の仮想空間を設定し,その中でのOD需要とタクシー台数が与えられたときに,均衡解に基づいて配分計算を行い,設定した指標に基づいてシステム効率性を評価することを目的としている.まず総乗車時間と総空車時間の和から総サービス時間を求め,タクシードライバーが客を運び終えた後に新たに客と出会う確率をサービスレベルから導出する.これらの式から定常均衡解を求め,考案した解法アルゴリズムに従って計算を行う.システムの効率性については,空車タクシーの間隔,平均タクシー待ち時間,平均タクシー利用率という3種類の指標を考案し様々な条件下で比較した.結論としては,固定需要下ではタクシーの台数と情報の利用可能性が2つの重要な政策変数となることが示された.
(Yang, H., Wong, S.C., Transportation Research PartB, vol.32, pp.235-246, 1998.)

● 発表資料(pdf)
● 議事録

#1-2 伊藤

吸収マルコフ過程による交通量配分理論

マルコフ配分とは,ネットワーク上における意思決定主体(車両など)の動きを各交差点での推移確率(方向転換の確率)を用いて逐次的に交差点を推移する過程としてモデル化したものである.モデル化の仮定としては,1)各車とも同一方向で交差点に進入する場合、直進率・右左折率は同じ,2)各交差点間にそれぞれ1つの発生源・吸収源を持つとしている.ここで,発生源とは交通量の発生するところ(トリップ開始地点)を示し,吸収源とは交通量の吸収するところ(トリップ終了地点)を表す. ここで,交通条件が満たすべき条件として,1)各ゾーンの発生・吸収交通量は等しい,2)各発生源から任意の吸収源までの交通量がOD交通量を満足している,3)各車はトリップが終了したゾーンで,次の発生交通量となる,を置くことで,これを満たすような遷移確率を求める.モデルの問題点としてはサイクリックな経路が生成されてしまうことがあげられるが,この問題については赤松らの研究によって複素数空間を導入することで対応されている.
(佐佐木綱, 土木学会論文集,No.121, pp.28-32, 1965.)

● 発表資料
● 議事録

#1-3 瀧口

Existence of urban-scale macroscopic fundamental diagrams: Some experimental findings

ミクロな交通流の記述は既存のQV曲線やBPR関数で可能であったが,マクロな交通流を記述する方法として本論文ではMFD(Microscopic Fundamental Diagram) の概念が提案されている.主要道路での検知器データとタクシーによるプローブデータにより得られた密度・交通量・占有率のデータから,密度と交通量の関係, エリア境界を通過する交通量とエリア内交通量の関係を明らかにし,MFDが検知器データとプローブデータのいずれのデータからもどの時間帯・エリアにおいても 説明できることを示した.大胆な手法によって一様密度を仮定したエリア単位でのマクロな交通が説明でき,政策で変化する交通量や速度を予測することでアクセ シビリティ向上に役立てられることが期待される.
(Geroliminis, N., Daganzo, C.F., Transportation Research Part B, Vol.42, pp.759-770, 2008.)

● 発表資料
● 議事録

#1-4 浦田

Intermodal hub-and-spoke network design Incorporating multiple stakeholders and multi-type containers

Intermodal freight transportation(様々な手段で,様々な荷物を輸送すること)を効率的に行うためには,どのような荷物輸送戦略をとればいいかについて, 配分を行うモデルを構築して検証を行っている.ステークホルダーは荷物輸送者・荷物積み替え業者・荷物配送請負業者・輸送ネットワークの計画者である.限られ た予算の中での輸送コストを最小化できるネットワークの形成(Intermodal Hub-and-Spoke Network Design : IHSND)を行う.輸送コストを求めるためには,まず BPR関数を用いて配送時間を算出し,それから等価最適化問題を解くことでネットワーク配分を行う.輸送コストは配分された交通量の関数として表され,ネットワー ク計画者の行う戦略に従って制約条件が決められ,全主体の輸送コストの合計を最小化する.この計算には遺伝的アルゴリズム(Hybrid GA)を用い,EEA (exhaustive enumeration algorithm)の計算結果と比較して評価する.アジアの広域物流ネットワークを対象とした結果としてHGAでは解は一意に定まり, EEAを用いるときよりも4倍程度計算速度が上昇することが確認された.
(Qiang Meng, Xinchang Wang, Transportation Research Part B, Vol.45, pp. 724-742, 2011.)

● 発表資料
● 議事録

#1-5 國分

Social influences on household location, mobility and activity choice in integrated micro-simulation models

居住地意思決定におけるsocial networkの役割に着目した. social networkのつながりの強度を世帯属性の類似度で定義し,そのsocial networkが選択肢や各選択肢の特徴は,social networkを通じて影響を受け,模 倣する.このsocial network導入により,世帯の意思決定のプロセス表現を記述 することができる.また,効用としては,現住居の効用,商品購入(消費行動)の 効用,活動従事の効用の3種類を設定している.  PUMAモデルの長期意思決定モデルの一部を改善する形で,モデルシミュレーショ ンを行った.情報検索の段階で,social networkの影響を受けているとする. social networkをランダムに類似世帯を探索して与えることで,モデルへの導入 が可能となった.詳細には,転居コスト等を考えていないため,頻繁に転居を繰 り返すという問題が把握できた.
(Ettema, D., Arentze, T., Timmermans, H., Transportation Research Part A, Vol.45, pp.283-295, 2011.)

● 発表資料
● 議事録

#1-6 福山

Correlated equilibrium as an expression of Bayesian rationality

ベイズ理論(プレイヤーがある戦略をとる予想に基づきそれが起こるとされる確率)とゲーム理論(ある事象が起こる確率は均衡に基づく)を合わせ, ベイズ合理性の結果としての相関均衡を考えることができる.ナッシュ均衡は全プレイヤーが他のプレイヤーがとる戦略と確率を知っているという限定的な 前提をおくが,相関均衡は,各プレイヤーが1)すべての「世界の状態」に対し主観的な確率分布をもつ,2) 与えられた情報から予測できる利得を最大化する 戦略をとる,ということが共有知識となるとき,各プレイヤーへの行動提案やシグナルに対して他のプレイヤーが従うときに自分の戦略を変えても利得が増え ない状態である.相関均衡分布における,相関戦略の確率分布がみたすべき式の提示とその証明,すべての事前確率 pi が等しいとした前提では, s(ω):=(si(ω),...,sn(ω))を状態ωで選ばれるn個の行動の組とし,各プレイヤーが世界の各状態において,情報に基づき利得を最大化する行動をとる =「プレイヤーiが状態ωでベイズ合理的である」ならば,n組の行動sの分布は相関均衡分布となることの定理としての証明,事例その他について論じている.
(Aumann, R. J., Econometrica, Vol. 55, No.1, pp. 1-18, 1987.)

● 発表資料
● 議事録

#1-7 柿元

The structure of random utility models

選択問題生成プロセスや意思決定ルール,個人属性,選択肢属性に関して,分析者 が観測できることは限定されている.本論文では,意思決定者が効用最大化理論に 従い,かつ意思決定者と選択肢集合を関連づけるプロセスが特定できる場合,選択 肢属性・個人属性に関する情報が不足する分析者に対して,ランダム効用モデルが 選択行動を説明できることを示している.また,提案したモデルを用いて,既往の 様々なモデルにどのような潜在的制約条件が含まれるかを明らかにしている.
(Manski, C., Theory and decision, vol.8, No.3, pp.229-254, 1997.)

● 発表資料
● 議事録

#1-8 植村

A general and operational representation of Genera-lized Extreme Value models

GEVモデルとはMcFadden(1987)が導出したモデル系であり,MNL、NL、CNL等のランダム効用理論に由来するモデル系の全体を定義したものであり, これらの系は4条件を満たすG関数によって定義づけられる.しかしながら,新しい構造をもつモデルを作る際のG関数の導出に関して,有効な研究が なされていないため,ここではGEVモデルを一般化し,発展可能な表現を提案することを試みた.理論的枠組みについて筆者らは,①GEV-inheritanceの証明, ②GEV-network表現の2つを提案し,GEVモデルを一般化し,直感的に複雑な相関構造の記述を可能にしている.この提案において特記すべきことはGEVモデルを 直感的に構築することが可能となった点である.筆者らは,モデラーのすべきこととして,①モデルの相関構造を適切に表現するようなネットワーク構造をデ ザインし,②このネットワークをGEV-heritance理論を用いて増殖させることで,常にGEVモデルを生み出すことが可能であると述べている.
(Daly, A., Bierlaire, M., Transportation Resarch PartB, vol.40, pp.285-305, 2006.)

● 発表資料
● 議事録

#1-9 戸叶

Economics of information and job search

職業意欲喪失者の問題を背景として,未就労者の職業探索について取り扱っている.職業探索は人々のスキルに対する賃金配分と, 職業探索のコストによって説明され,また職業提示は定期的におこなわれ,受けるか断るかの選択をする.このような条件下での最適な戦略は、ある 一定の値以下のオファーはすべて断り,一定の値以上の値のオファーを受けることである.この戦略部分について,職業提示xと探索コストcを用いて、 探索行動をしない人(就業意欲喪失者)と探索行動をする人(摩擦的失業者)の行動の区別や,職を見つけるまでの期間についての定式化を行っている. 更に,探索コストを下げる,職業訓練を施す,最低賃金を設けるといった各種施策を適用することによる失業者への効果や,自分のスキルに関する意識 のずれが,職業探索を長期化を招く可能性があること等について明らかにしている.
(McCall, J.J., The Quarterly Journal of Economics, Vol.84, pp.113-126, 1970.)

● 発表資料
● 議事録

#1-10 池田

The effect of social comparisons on commute well-being

社会的比較が移動満足度や交通選択行動にどう影響しているのかを定量的に分析した論文. ここで言う社会的比較とは,他人の選択との相違から生まれる幸福感や劣等感などの感情 のことである.つまり,通常であれば観測された説明変数や他者の行動(料金や他人の選 択等)が直接効用に影響を与え,それが各自の行動選択として現れるという枠組みで考え られることが多いが,この論文では説明変数が相対的幸福度に影響を与え,それが効用に 影響を与えて各自の行動選択として現れるという枠組みで考えるということである.この 相対的幸福度等の指標は直接観測できないので,構造方程式モデリングを用いて推定され ている.結果として,社会的比較や個人内比較が通勤満足度を向上させることが確認され たが,その影響は通勤時のストレスや通勤時の楽しみに比べると限定的であること等がわ かった.
(Abou-Zeid, M., Ben-Akiva, M., Transportation Research PartA, Vol.45, pp.345-361, 2011.)

● 発表資料
● 議事録

#1-11 大村

Mining Interesting Locations and Travel Sequences from GPS Trajectories

GPS機器の普及により,大量のトラジェクトリデータが蓄積されるようになった.複数人の行動履歴を共有することで,魅力的な場所や効率的な行動を知る ことができると考え,この論文では複数人のGPSログを用いて,場所の関連性と個人の活動経験を考慮したうえで,魅力的な場所とツアーパターンを提示する システムを構築している.スポットを密度によって階層的にクラスタリングするTBHG(a tree-based hierarchical graph)を用いて複数人の行動履歴をモデリングし, 場所に個人を紐付けすることにより,個人の活動経験(hub score)と場所の魅力(authority score)を推定するHITSモデルを提案した.またそれをもとに地区スケール に応じてツアーパターンを提示するシステムを構築し,実証実験においてモデルの有効性を確認した.スポットを階層的にクラスタリングする考え方は興味深く, ゾーニングや領域性の定義に応用できる可能性があり,情報構造の概念は都市における情報提供の在り方とその信頼性の議論に繋がった.
(Zheng, Y., Zhang, L., Xie, X., Ma, W., Proceedings of the 18th international conference on World wide web, Track: User Interfaces and Mobile Web, Session: Mobile Web, 2009.)

● 発表資料
● 議事録

#2-1 植村

The Costs and Benefits of Ownership: A Theory of Vertical and Lateral Integration

企業統合における契約について,それが不完備契約であると仮定し,最適な所有権構造を 分析した論文.例えば,火力発電会社と採炭会社との契約を考える.ここでいう不完備契 約とは,採掘した石炭に不純物が含まれているとうまく電力が得られないが,不純物を全 て列挙してその対処を全て契約の中に明記することは不可能であるので,その契約にはど うしても不確実な事柄が存在してしまうという状況のことである.モデルの構造は,「契 約締結(残余コントロール権の配分決定)→第0期・関係特殊投資→再交渉(投資情報の 確定)→第1期・生産活動→利得配分」とする.再交渉時には全ての情報が既知となり, その後の配分利得は常に最適な値が得られる.また,関係特殊投資,生産活動,配分利得 は事前契約が不能である.このモデルでは,生産決定によってあらわされる生産関数によ って,最適な先着を「非統合」「企業がその他企業をコントロールする」と分類できた.
(Grossman, S.J., Hart, O.D., Journal of Political Economy, Vol.94, pp.691-719, 1986.)

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● 議事録

#2-2 福士

Correcting for endogeneity in behavioral choice models with social influence variables

総体としての社会的影響を示す「field effect変数」を用いて,行動選択における社会的影響を離散選択モデルに取り組み, 内生性バイアスが修正された社会的影響の度合いを示すパラメータを推定する.内生性バイアスを修正するためにBLP 法と操作変数法の2段階で推定を行う. まずBLP法を用いて,内生変数を定数で置き換えることで社会的影響を示すマーケット定数を推定し,次に操作変数法を用いて,本研究の目的である内生性 バイアスが修正されたパラメータの推定を行う.これを通勤手段選択モデルに適用した結果,field effect変数を入れると有意になるという結果が得られた. またHausman検定により,内生性によって本当にバイアスがかかっていたかどうかを検証したところ,修正前後での推定値の差は有意であり,確かに内生性に よってパラメータの推定値が課題になっていたことがわかった.
(Walker, J., Ehlers, E., Banerjee, I., Dugundji, E., Transportation Research Part A, Vol.45, pp.362-374, 2011.)

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#2-3 大村

The Market for "Lemons": Quality Uncertainty and the Market Mechanism

レモンの原理では市場における売り手と買い手の間での財の質に関する情報の非対称性に着目し,品質の異なる財が混在している場合には市場均衡を通じた 効率的配分の実現が困難となり,結果として質の低い財ばかりが出回るような状態になってしまうということを示している.具体的には中古車市場を例に対称 ・非対称情報下での市場均衡について分析・比較し,非対称情報下で買い手が商品価値の(真値ではなく)期待値に基づいて行動することによりどのような価格 でも取引が行われなくなってしまうということを検証した.ここでは売り手が自分の所有する財の価値を知っているのに対し,買い手は優良・不良の割合しか把握 できないと仮定している.さらに,他分野でのレモンの原理の具体例として保険市場や労働市場など,取引対象物の質の不確実性というリスクの想定と各々の利潤 最大化行動の結果本来望ましいはずの取引が困難となる例を紹介し,正直者が損をしてしまうという論理,取引相手への信頼や品質の保証の重要性と難しさが論点 となった.
(Akerlof, G.A., The Quarterly Journal of Economics, Vol.84, No.3, pp.488-500, 1970.)

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#2-4 斉藤

Learning, Mutation, and Long Run Equilibria in Games

一回の試行だけではなく,何回もゲームを繰り返し各プレイヤーが自らの利得を上げる方向に行動を調整する動学的過程の進化ゲームの始まりともいう論文. 一定条件下でゲームにおける安定な状態(ナッシュ均衡)に収束するが,通常だと局所安定な均衡が複数存在し,その局所均衡のうちどれが実現しやすいかが明ら かではなかった.また最終的な均衡状態は初期分布に大きく依存してしまっていたためそこも考慮できる方法として,ある均衡点が支配する領域である誘導領域か ら別の領域に移動できるような微小なランダム性を与える(ランダムショック).これを繰り返すことで他の領域に一番移動しにくい領域に落ち着かせることが できる.以上より,ゲームの長期的な結果は適応過程に寄らず,また確率的ショックを与えることで確率的に安定な戦略を示すことができた.初期状態によらず に均衡状態をあらわせることで,複数回の計算に寄ることなく,もっともらしい解が得られる.誘導領域間の移行について,遷移コストが異なることに着目した 点が興味深く議論の余地があった.
(Kandori, M., Mailath, G.J., Rob, R., Econometrica, Vol.61, No.1, pp.29-56,1993.)

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#2-5 伊藤

Efficient Computation of PageRank / The anatomy of a large-scale hypertextual web search engine

ページランクとは,親ページの重要度(importance)に基づいて、子のページの重要度を決めるアルゴリズム.ハブとその重みによって子の重みも決定される. ここで,rankとは全ページの重要度を並べたベクトルのことを表し,Rank(i+i) = M×Rank(i)をが固有値Rank*になるまで反復計算することで求める.Mとは, リンク構造を表す行列を表す.重要なページからリンクされているページは重要である,といようにリンクされている数だけではなくリンクそのものの重みを考慮 している点が特徴といえる.また,外向きリンクが存在しないページについても確率的に訪れることを表現するため,リンク先の中からランダムに選択する項と, webページ全体からランダムに選択する項をそれぞれ定式化することで,リンクされていないページにもある確率で到達する現象を表現した.計算コストが膨大と なることに対する方策として,ブロック分割法を用いて効率的なメモリ管理を考案し,18,922,290程度のノードを持つwebページに対しても通常コンピュータで計算 可能とした.
(Haveliwala, T.H., Stanford Univ.Technical Report, 1999. Brin, S., Page, L., Proceedings of the 7th International World Wide Web Conference, 1998.)

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● 議事録

#2-6 瀧口

Mixed MNL models for discrete response

Mixed Multinomial Logit Modelは嗜好異質性や係数相関などの制約を全て緩和したモデルであるが,オープンフォームであるために簡単に計算で推定ができない. MMNLモデルはスケールパラメータを操作することによってIID誤差項を無視でき,Rundom Utility Maximizationモデルと選択確率を近似できる.MMNLモデルでは, パラメータの確率分布について乱数を用いて繰り返し抽出して積分するシミュレーション最尤推定法によって推定を行うことができ,実データを用いた実験によって もMMNLの説明力の高さと妥当性が示された.
(McFadden, D., Train, K., Jounal of Applied Econometrics, pp.447-470, 2000.)

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● 議事録

#2-7 柿元

The Learning Behind Gmail Priority Inbox

Gmail優先トレイは,ユーザーのメールに対する行動(開封するか・返信するか・ゴミ箱に送るか)をもとにその重要度を確率的に予測し,ランク付けしている. 「重要度」というのは個人性が高いため,ユーザーごとにモデル化するのと全体でのモデル化を合わせて,ユーザー毎の統計モデルの学習によってこの予測を試みた. ここでは,100万ものモデルのオンライン学習とそれらの効率的な構築を試みている.結果としては,メールを開くことは重要度が高いことを示すとしたが,実際は 「重要だから」開くのではなく「興味を惹かれて」開くことの方が多いとされるので,メールの重要度の判断基準に関しては研究の余地が残される.都市の現象を 観測するのに様々なデバイスが使われ,大量のデータから文脈を読み取る必要が出てきているので,将来的な適用範囲など個人で考えていくのもおもしろいのでは ないか.
(Aberdeen, D., Pacovsky, O., and Slater, A., In LCCC: NIPS 2010 Workshop on Learning on Cores, Clusters and Clouds, 2010.)

● 発表資料
● 議事録

#2-8 戸叶

Congestion Theory and Transport Investment

道路の容量を拡大するようなハード面の渋滞対策が間違った効果を生むことがある.本論ではこの問題に対して渋滞のメカニズムを定式化し,その対策―ハード的 な容量増加やソフトな課金対策―等について評価を行うことを提案している.渋滞に関して2つのコスト(渋滞待ちのコスト,到着時刻のずれのコスト)を挙げ, これら2つのコストを渋滞待ち時間と渋滞抜け時刻のグラフから算出することで,課金方法について分析を行った.ボトルネックでの渋滞のメカニズム,容量を増加 させる効果,課金の効果などを定量的に評価することを試みている.
(Vickrey,W.S., The American Economic Review, Vol.59, pp.251-260, 1969.)

● 発表資料
● 議事録