第13回行動モデル夏の学校2014は,東京都・文京区の東京大学本郷キャンパスにて,2013年9月27日(土)~9月28日(日)の2日間,講師10名,参加者94名(うち若手研究者セッション講演者3名・TA3名)によって行われました.以下にその内容をまとめます.
基調講演 Keynote Speech
Stability analysis of Activity-Based models : case study of the Tel Aviv Transportation Model Shlomo Bekhor (Technion, Israel Institute of Technology)
Activity Based Model(ABM)の実装についての講義をした.内容は,主に2つにわかれていて,1つ目のトピックでは四段階推定法と行動モデルによる推定法との比較をし,BowmanとBen-Akibaによって提唱された階層型の行動モデルを用いてTel-Avivで実装した結果を説明した.二つ目のトピックでは,ABMの確実性について焦点を当て,配分・トリップ発生段階でのランダムな要素・人口サンプルが誤差を生み出しているという説明をした.(PDF) |
講義 Lectures
講義1 行動モデルの基礎理論と応用事例倉内慎也(愛媛大) / 佐々木邦明(山梨大) / 柳沼秀樹(東京大) / 山本俊行(名古屋大)
離散選択モデルと選択肢集合の特定化(倉内先生) 多項ロジットモデルや多項プロビットモデルなどの離散選択モデルについて講義した.前半では,多項ロジットモデルと多項プロビットモデルの特徴を説明し,後半では,離散選択肢モデルにおいては選択肢集合の特定が重要であり,選択肢集合形成過程のモデリングアプローチについて考える必要があるという説明をした.(PDF) |
パラメータ推定の理論と実践(佐々木先生) ロジットモデル等のパラメータ推定についての理論と実践について説明した.最尤推定法やベイズ推定の推定方法についてのアルゴリズムの考え方や代表的にな繰り返し計算について講義した.また,推定がうまくいかない際に,よくある間違いを紹介した.(PDF) |
行動モデルの応用事例+α -首都圏鉄道需要予測を例に-(柳沼先生) 行動モデルの応用事例として,首都圏鉄道需要予測にも用いられた構造化プロビットモデルについてをメインに講義をした.構造化プロビットモデルは従来のMNPモデルの誤差項を構造化したモデルであり,高い予測精度を可能としたモデルである.また,最後にMXLについて説明し,演習で学生が利用できるように指導した.(PDF) |
行動モデルの類型と発展(山本先生) 行動モデルの類型と発展についての講義をした.アクティビティモデルでは,近年では生活満足度(SWB:subjective well-being)などの指標などにも用いられているなどアクティビティ分析の特徴から,モデルの拡張まで包括的な講義を,また複数時点の状態のモデル化の必要性から動学化の発展についても説明した.(PDF) |
講義2 ネットワークモデルの基礎と応用井料隆雅(神戸大) / 福田大輔(東工大) / 円山琢也(熊本大)
モデルの解法にまつわる話(井料先生) モデルのパラメータ推定でも交通の配分理論においてモデルの定式化は手続き的な側面からできるのではなくて満たすべき条件のせいでそうなっていることが多い. 条件を満たすまで計算を続けるということになる.問題を定式化しても解けないと使えないので解法は重要であるため,モデルの解法にまつわる話をした.(PDF) |
経路選択モデルの動向(福田先生) ポスト18号答申での鉄道需要予測において,経路選択モデルの最新の研究動向が着目されている.経路の選択肢集合設定においては,明示的に定める手法と,経路列挙を必要としない手法に分かれる.前者では確率的に選択肢をサンプリングする方法やベイズアプローチによって列挙された経路をランダムに修正する方法がある.後者においてはDial(1971)をはじめとして,GEV-ネットワークの構築,さらに経路群に対する利用者の認識を表現するHyperpath型の経路選択モデルの導入を紹介した.(PDF) |
混雑課金評価モデルに見るネットワーク上における行動記述(円山先生) ネットワークモデルの基礎とその応用方法を発表して頂いた. 需要サイドと供給サイドの均衡を解く利用者均衡配分を基礎としたネットワークモデルは,OD交通量が変化する他集団ネットワークの混雑現象を表現することもできる(NLSUE).混雑課金領域の最適化について,課金領域の設計方法を形の制約と中心位置の最適化で行おうと考えている.2段階最適の下位ではネットワーク均衡配分を解き,上位問題として現実的な課金領域の最適設計と社会的余剰の上昇率を比較検討した.(PDF) |
若手研究者セッション Early Bird Session
Transportation system monitoring method by using probe vehicles that observe other vehiclesToru Seo (Tokyo Tech)
ラグランジュ型のデータからは旅行者の連続的な行動を観測できるものの,交通量に関する情報が得られない.それに対して,前方車両との距離を計測する技術を搭載したプローブカーを用いた交通状態の推定手法を提案した.実際に首都高で実験を行い,連続する2車両の移動軌跡から交通状態を推定してtime-space図に表現することで,混雑や渋滞長などの動的特性について良い再現性が得られた.(PDF) |
The built environment-travel behavior connection:A propensity score approach under a continuous treatment regimeGiancarlos TRONCOSO(The University of Tokyo)
クロスセクションデータにおいては,標本の背景因子によってセレクションバイアスが発生するため,正しい因果関係を説明できない.この問題を解決するために傾向スコアという,背景因子から処理を割り当てられる傾向を求めた数値が用いられる.通常傾向スコアは処理の割り当ての有無に対して適用されるが,連続的な処理変数に対して緩和することが可能である.ケーススタディでは福岡市を対象に,世帯調査データから傾向スコアの推定を行った.そして,モンテカルロシミュレーションを用いて,傾向スコアにより通常のOLSと比べてバイアスを減らすことができることを示した.また,実験により都市レベルが高いほど自動車の利用率が下がることを示し,コンパクトシティの施策の有効性を示した.(PDF) |
Departure time choice modelling for evacuation including a household interactionJunji Urata(The University of Tokyo)
災害時のinteraction形成は,その後の避難早期化につながり,有効であるが,既存モデルではinteractionの形成自体は扱われていない.そこで本研究では,集団内でのinteraction形成モデルを構築する.interactionの形成効用は二者の組合せから定まり,またリスク等の空間指標の影響が大きい.そのため,空間的に近接したinteraction同士で誤差相関を持つ.そこで,interationの誤差相関を考慮したNetwork-GEV型のモデルを構築する.結果,空間リスクの差や距離などのパラメータが有意となった.質疑では,モデルを適用する場合の誤差相関の与え方やスケールパラメータの構造化などについての議論を行った.(PDF) |
演習 Group work
課題:プローブパーソンデータを用いた行動モデル推定
プローブパーソンデータ(ロケーションデータ,ウェブダイアリー)・土地利用データ・交通ネットワークデータを用いて,離散選択モデルをはじめとした行動モデルの構築と推定を,4~7人での班ごとに行い,成果を発表しました.
Aチーム(愛媛大学チーム) 自転車に着目した交通手段選択モデル
発表概要: 自転車のネットワークに着目した分析を行いました.分担率と走行距離の関係を見たのち,5km未満の移動に対して交通手段選択モデルを推定しました.結果として徒歩,自転車は移動距離の抵抗が大きいことがわかりました.
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Bチーム(東京工業大学チーム) 平日の労働が休日のトリップ数に及ぼす影響の考察と数値実験
発表概要: オーダードロジットモデルで休日のトリップ回数を表現するモデルを推定しました.勤務時間が長く通勤時間が短いほど休日のトリップ数が多いことが分かりました.職場と住居を近くすることや,非正規雇用者を正規雇用させることで休日の活動を活性化できると考えました.
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Cチーム(熊本大学チーム) 買い物行動に着目した交通手段選択モデル
発表概要: 買い物施設と交通手段との関係に着目しました.目的地ダミーを入れた手段選択をMNLではアクセス・イグレスが大きく影響しており,イグレス短縮の施策を考えました.また,店舗種別-交通手段選択のNLモデルを推定して若者がコンビニに徒歩で行く傾向を確認しました.
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Dチーム(名古屋大学チーム) 通勤時の交通手段における自動車からの転換
発表概要: 通勤時の交通手段を自動車から転換することでCO2を削減できると考え,交通手段と通勤時間帯のNLモデルを推定しました.スケールパラメータが有意で,ツリー構造は妥当であることが確認できました.渋滞エリアに課金を行い,CO2を計算したかったが時間ぎれでした.
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Eチーム(芝浦工業大学チームA) 滞在時間とトリップチェーンに着目した交通手段選択モデル
発表概要: 個人の滞在が手段に与える影響を考慮した分析を行い,トリップ数と手段の関係性があることを発見しました.モデルは滞在時間(離散)-交通機関選択のNLを考えていましたが,なかなか推定がうまく行かなかったです.
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Fチーム(芝浦工業大学チームB) 短距離移動時における交通機関選択モデル
発表概要: 短距離の移動に高低差や同伴者など様々な要因があると考え,短距離移動時の交通機関選択モデルを推定しました.所要時間のパラメータがプラスになっているが,移動手段のほとんどが徒歩で時間にほとんど差がないからと考えられます.
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Gチーム(芝浦工業大学・道路計画混成チーム) 日々変化する人々の働き方に関する分析
発表概要: 個人の行動の日変動に着目し,定時退社選択モデルを構築しました.全サンプルの平均勤務時間である10時間56分を閾値として残業を定義して推定しました.残業に立地特性を考慮したところ,モデルの精度を上げることに成功しました.
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Hチーム(山梨大学チーム) エコな行動に着目した目的地・交通手段モデル
発表概要: 年齢と徒歩移動距離の散布図より,40代以降から健康を意識して歩き始めると推測し,交通手段選択モデルを推定しました.また,車を利用する場合としない場合の消費カロリーの差やCO2削減効果について計算しました. |
Iチーム(神戸大学チーム) 固執される交通手段
発表概要: 交通手段に対する固執に着目し,効用関数に選択割合を入れた交通手段選択モデルを推定しました.選択割合は昨日の議論をもとに業務トリップから算出しました.自動車に課金政策をかけたところ,他の手段に転換が起こることがわかりました.
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Jチーム(広島大学チーム) モビリティ階層説の提案
発表概要: 移動とは必要や欲求の結果であると考え,移動にも欲求があると考え,質の高さに着目した分析を行いました.実時間/代替時間の比の妥当性について重回帰分析では重相関係数が0.37と低かったので,k-Means法によるクラスタリングを行いました.
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Kチーム(東京大学チーム) 自動運転車導入時の交通手段選択モデルと交通量配分
発表概要: 自動運転車に着目し,通勤トリップにおける鉄道との2項ロジットを旅行時間のばらつきを変数に入れて推定しました.旅行時間のぶれが小さくなると仮定してシミュレーションを行ないました.車間距離の縮小による容量増大などの効果を見ようとしました.
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Lチーム(東京理科大学・東京海洋大学・東京大学混成チーム) 出勤時の気象条件が及ぼす交通機関の選択
発表概要: 出勤について天候の影響に着目し,雨天ダミーを加えた手段選択の推定を行いました.推定結果では,雨の影響はほとんどありませんでした.政策としては雨期割増を設けることで雨天時の鉄道利用者についての混雑緩和を図ることが考えられます.
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Mチーム(個人参加混成チーム) 猶予時間と休前日に着目した寄り道行動モデル
発表概要: 平日アフター5の自由行動に着目しました.会社発の行動を時間帯別に集計すると,猶予時間が長いほど直帰する人が少なく,また休前日には食事が多い一方で退社時刻自体には影響がないとわかりました.寄り道の2項モデルを推定し,猶予時間に対する政策を考えました.
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表彰 Award
行動モデル夏の学校には例年,数理的にモデリングをつめられていたグループには,故・上田孝行先生にちなんだ香住賞が,行動分析によって興味深いfact findingを実現したグループには,故・北村隆一先生にちなんだDavis賞が送られます.今年度の受賞チームは以下の通りです.
香住賞:該当なし
Davis賞:Gチーム(芝浦工業大学・道路計画混成チーム) 日々変化する人々の働き方に関する分析
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