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2009年10月3日,4日にかけ,東京大学内で行動モデル夏の学校が行われました。神戸大学,東北大学,日本大学,京都大学,日本大学,東京工業大学,名古屋大学,山梨大学,愛媛大学,東京電気大学,東京海洋大学,東京理科大学,早稲田大学,東京大学から総勢約50名の学生が集まり,2日間の日程で講義を受け,行動モデルを用いた課題に取り組みました。

こちらでは当日の内容についてご報告しています。

概要

21世紀にはいってからしばらく時間が過ぎ,アジアの発展や高齢化社会の到来が私たちの都市社会においても本格的に計画の視座として据えられるようになってきました.社会的な諸相が大きく変化していく中で,パターナリズムでもリバタリアンでもない善き選択とは何か,計画を考えていく上で,都市における人々の選択行動に対するよりよい理解が今求められています.

都市や地域における未来の生活圏域の像を思い描くなら,都市計画,景観計画や交通計画を一体的に捉え,都市や地域の中で人々の善き選択のための条件をどのように整えていくべきかについて考えていくことが重要でしょう.こうした研究分野について,近年,NudgeやChoiceArchitectという概念整理が進められており,理論的には認知心理学や実験経済学,ゲーム理論の進展が,観測技術ではセンサーネットワーク 技術の急激な進化が,様々な政策の概念化とその評価を可能にしつつあります.本学校では,こうした選択理論の基礎となる行動モデルについて2日間の合宿形式でその講義と演習を通じて修得を目指すものです.全国各地から行動モデル的アプローチにより今日的な公共政策問題に切り込んでいこうとする学生諸君,若手研究者の皆さんの参加を,私たちはお待ちしています.

講義・演習発表資料

当日の講義資料などはこちらからダウンロードできます.

資料の参照を希望される方は,山田(yamada[at]bin.t.u-tokyo.ac.jp)までご連絡ください.解凍用パスワードをご連絡いたします.

プログラム

1日目(10月3日)

10:30-11:00受付
11:00-12:00ガイダンス 羽藤英二(東京大学)
12:00-13:00昼食
13:00-14:30基調講演1 "Overviwe of Discrete Choice Analysis" Moshe Ben-Akiva(マサチューセッツ工科大学)
15:00-15:30講義1 行動モデルの基礎 倉内慎也(愛媛大学)
15:30-16:00講義2 離散選択モデルの構造推定:レビュー 福田大輔(東京工業大学)
16:00-16:30講義3 モデル推定の方法 佐々木邦明(山梨大学)
16:30-17:00講義4 誤差相関の推定法について 山本俊行(名古屋大学)
17:00-19:00プログラム演習 演習説明 村下昇平(東京大学M1)
データ分析の方法
モデルの選択とパラメータ推定
Rのサンプルプログラムの説明

2日目(10月4日)

09:00-12:00演習エスキース グループごとにデータ分析・パラメータ推定
12:00-13:00昼食
13:00-14:30基調講演2 "Advances in Travel Demand Modeling and Discrete Choice Analysis" Moshe Ben-Akiva(マサチューセッツ工科大学)
14:45-15:45博士過程学生セッション
講演1 "Exproring Variation Properties of Activity-Travel Bevavior" 力石真(広島大学D3)
講演2 "Evaluation of Multimodal Sharing Service Using PP Data" 原祐輔(東京大学D1)
16:00-18:00課題発表&質疑
18:00-20:00交流会・研究室紹介・講評・表彰

ガイダンス

羽藤先生

ネットワークモデルの一部としての行動モデル研究と,センサーネットワークなどのデータ革命における行動モデル研究の,時間的変移・現状レビューを行った.社会の変容の中でのパターナリズムでもリバタリアンでもない善き選択とは何かを考え,計画を考えていく上で求められる,人々の選択行動に対するよりよい理解について講義した.さらに,都市計画・景観計画や交通計画を一体的に捉え,都市や地域の中で人々の善き選択のための条件をどのように整えていくべきかについても講義した.

基調講演1

Overviwe of Discrete Choice Analysis

Ben-Akiva先生

離散選択モデルの基礎についての講義.意思決定における効用最大化仮説,ランダム効用モデルについて説明したのち,ロジットモデル,ネスティッドロジットモデル,クロスネスティッドロジットモデルについてモデル構造とともに順に講義した.また,誤差項に正規分布を仮定したプロビットモデルや,ロジットモデルとプロビットモデルを混合したミクストロジットモデルなど,その他の選択モデルについての講義を行った.最後に,それら選択モデルの特徴.長所,短所の整理で講義全体がまとめられた.

講義

講義1 倉内先生(愛媛大学)

行動モデルの基礎

予定していた講義内容が基調講演1と重複したため,普段我々が行っている意志決定プロセスについて講義した.意思決定プロセスを,荷重加算型,連結型,辞書編纂型などに分類し,それぞれの例を示した.また,単純な効用のみによる比較は明快だが,効用最大化仮説がいくつかの点で見落としがあるという脆弱性を考慮して,プロスペクト理論,メンタルアカウンティング理論,時間選考など,効用関数が機能しない具体例を示した.

講義2 福田先生(東京工業大学)

離散選択モデルの構造推定:レビュー

最近の土木計画学や計量経済学の動向として,同調行動(社会相互作用)やオークション理論,個々の戦略的意思決定の実証などが注目されている.離散選択モデルにおいては,他者の意思決定を考慮した上での戦略的意思決定行動に注目していく必要がある.そうしたモデルにおける推定手法としては,BLP法などの構造モデルから直接パラメータを推定する構造推定や,選択確率を入れ子構造にしたNPL法などの擬似最尤推定法などがある.これらの推定法や適用例についての講義.

講義3 佐々木先生(山梨大学)

モデル推定の方法

ランダム効用モデルにおける推定アルゴリズムについてを主眼に置いたに講義.最尤推定法で,用いるアルゴリズムとしては,最急降下法やNewton-Raphson法などの方法があるが,初期値依存性やヘッセ行列が推定できないという問題が起こりえる.次に,数値積分による手法では,乱数をうまく発生させることができれば精度の高い推定が可能になる(回数・時間に依存).最後にMCMCによるベイズ推定では,パラメータの分布を推定することで,初期値に依存せずに推定することができる.また,モデル推定の作業は,パラメータの推定が目的ではなく,交通行動を理解することを常に意識する,という話で講義がまとめられた. 

講義4 山本先生(名古屋大学)

誤差相関の推定法について

離散選択モデルにおける選択肢間の相関を考えるための誤差相関を考慮した推定手法についての講義.シミュレーションを用いたMSLよりも簡便な推定法として,Copula-based approachとその適用例((桑野ら, 2008),(Bhat and Eluru, 2009))を紹介.Copula-based approachでは複数変数の同時分布を規定した関数を用いることで,誤差相関を表現する.また,質疑では,複数種類のCopulaの中から適用するCopulaを決める基準についての質問があり,それには最終尤度から決めるという回答が述べられた.

基調講演2

Advances in Travel Demand Modeling and Discrete Choice Analysis

Ben-Akiva先生

活動内容の連続して一連の移動をTourとして捉えるActivity-Based Model,および活動の上位概念としてのプランの選択を隠れマルコフを用いて記述するPlan-Action Modelに関する説明,そして,これらのモデルをベースに実装されたDynaMITと呼ばれるアプリケーションのNYやLAにおける適用例を紹介.基礎的な概念やフレームワークを考案した本人から,その応用例までを聴講できる貴重な機会となった.

博士課程学生セッション

博士課程学生セッション1 力石(広島大学)

交通行動は様々な変動成分によって規定されるが,取得されたデータを用いた分析では,これらの影響を十分に表現できていない.そこで,変動要因を個人内,世帯間,経日,空間,個人間の5つに分類し,マルチレベルの線形モデルとMDCEVモデルを用いて各説明変数の分散に対する説明力を分析した.分析の結果,全ての変数が個人内変動の影響を強く受けており,特に非日常活動において顕著であることを示した.

博士課程学生セッション2 原(東京大学)

自転車共同利用サービスにおける利用権オークションシステムを実装し,利用者の利用権取引行動を離散選択モデルによって表現する.利用者は自身の持つ利用権に対し,利用,販売,放置の3つの選択肢を持っており,これを利用権日時の滞在エリアによる時間配分をアロケーションパラメータとしてCNLモデルで推定した.推定結果から利用権日時と意思決定日時の差で表すスケジュールコストがマッチングミスの問題の要因となっていることが明らかとなった.

コンピュータ演習課題 村下(東京大学)

Rを使った行動モデルのパラメータ推定演習.データは松山プローブパーソン調査データのうちの買物目的地選択データ.

演習課題発表

Aチーム(神戸大・日大・東北大・広大・京大)

Bチーム(東工大)

Cチーム(名古屋大)

Dチーム(山梨大1)

Eチーム(山梨大2)

Fチーム(愛媛大)

Gチーム(東大・東京電機大・東京海洋大・東京理科大)

Hチーム(東大)

Iチーム(東大・早稲田)

Jチーム(社会人)

講評に代えて~モデル推定について~(倉内先生)

モデル推定がうまくいかない班がいくつかありました. 考えられる主要なケースとしては,

  1. 選択実績がない(あるいはごく少ない)選択肢を含め,かつそれに定数項を入れて推定している
     →この場合,定数項が無限小になるように推定されてしまうため,結果として収束しない.
  2. 特定化の誤り
      (1)定数項が余分に入れられている.
      →NLやCNLも,最大でいれることのできる定数項は要素選択肢-1個.例えば,鉄道,バス,自動車の3つの要素選択肢の選択において,上位に公共交通vs自動車,下位の公共交通のネストでバスvs鉄道のNLを推定する場合,上位と下位それぞれ2項ロジットモデルになるが,2つの2項ロジットに含まれる定数項の合計が2個以下でなくてはならない.ただし,入れ方は任意で,下位の鉄道とバスの効用関数にそれぞれ定数項を入れ,上位のモデルには定数項を入れない,というパターンでも,下位ではバス(または鉄道)のみに定数項を入れ,上位で自動車(あるいは公共交通)のみに定数項をいれるパターンのどちらでもよい
      (2)説明変数間,あるいは説明変数と被説明変数間に極めて高い相関がある.
      →前者については多重共線性の問題が発生し,パラメータ推定値のt値を計算するときに必要なヘッセ行列の逆行列を計算することができない.後者については,ある説明変数が選択結果を表す変数になるため,そもそもモデル推定が不要.
      (3)パラメータのノーマライゼーションがなされていない.
      →単純なロジットモデルでスケールパラメータを1に固定するように,NLなどの誤差相関を考えたモデルでは,少なくとも1つのネストのスケールを1に固定する必要がある.
  3. 効用関数以外の部分での誤りの例
       ・ロジットモデルの分母が0になってしまう
       ・尤度が0
       ・対数尤度やNLのログサム変数においてln(0)のケースがある

対処法として,1.や2の(2)については,データの基礎集計で誤りがあるかどうか調べることができます.それ以外については,まずは定数項だけのモデルを推定し,ちゃんとモデルが推定できるかどうか確認する.それでうまくいかないのであれば,2(1)や2(2)の後者の問題,あるいは2(3)や3.の問題が生じている可能性があるため,さらに定数項を減らしたり,基礎集計に立ち戻ったり,サンプルプログラムとの比較を行ったりする.また,定数項だけのモデルはうまく推定できても,その後,説明変数を加えてうまくいかなかった場合は,加えた変数に問題があることになりますので,原因の特定がしやすくなります.