岩手県気仙郡住田町
「みんなの舞台」の建設
1.はじめに
東日本大震災後、本活動の対象地である岩手県気仙郡住田町は、いち早く木造仮設住宅を町の判断で建設し、大船渡市や陸前高田市から被災者を受け入れている。本活動は、震災後3年が経過し徐々に被災者が自力再建するなどして仮設住宅から転居し、空き家が増えていく中で、その空地を活用しながら住民の方が日常的に利用できる憩いの場「みんなの舞台」のデザインおよび建設を行ったものである。本活動は、建築学科計画系研究室/復興デザイン研究体が、米国マサチューセッツ工科大学(Japan 3.11 Initiative)、住田町(田町役場、下有住公民館、仮設団地自治会、住田住宅産業株式会社、邑サポート)が共同で実施した。
2.中上団地について
住田町内には3か所の仮設住宅地があるが、中上団地は63戸と最も規模が大きい。住田町は、役所の位置する世田米地区、上有住地区、下有住地区の3つの地区から成り、中上団地は下有住地区の廃校となった小学校の校庭に建設された応急仮設住宅地である。住宅は木造戸建てで、路地に向い合せに配置されている。復興が進む中、既に約半数が転居しており、一部警察用住宅として転用されているものの、空き家も増加している。戸建であるため、1住戸からの撤去が可能となり、中上団地では冬場の雪置場確保のために既に2013年までに3戸を解体していた。また、住民の方による、隣家との間を屋根でつなぐ、庇を設置するなど住戸への改変が行われている。また、地面には草花が植えられ、豊かな屋外空間が創出されている。
一方、団地内には「呑兵衛横丁」と名づけられ、夜になると提灯を吊るして住民の方たちが晩酌をする路地がある。また、日中に団地に訪れるとお母さんたちがベンチを出してお茶を飲みながら談笑する姿が多くみられるなど、屋外での活動が活発な団地でもある。現在は、廃校となった小学校を集会室として活用して利用しているものの、より住戸の近くにオープンエアの東屋を建設することで、気軽な集まる場とすることができると考えた。
3.みんなの舞台の設計
本活動にあたっては、2014年4月より東京大学と住田町役場、下有住公民館、仮設住宅団地自治会、邑サポートの方々との話し合いを重ねた。特に、仮設住宅地内のどの場所に建設するかについては様々な意見が出て出たが、最終的には団地の中心の人通りの多い場所に建設し、より多くの住民の方がアクセスしやすい敷地が選定された。
設計にあたっては、学生らが自力建設できる構法とすることを第一条件とした。一方、設計にアドバイスいただいた住田住宅産業株式会社の佐々木社長からは、気仙大工のこの地域でつくるからには、木材の接合に金物を使用せず、継手仕口加工とすることが提示された。試行錯誤を重ねた結果、柱は木レンガに穴を開け、重ねながらボルトを通して6-7段ごとにナットで締め付ける構法を採用した。一方、土台や梁については在来工法を用いた。壁は作らず、垂木には竹を、その上に葭簀を架けて屋根とする簡単なつくりであるが、床に段差を設け、ここに腰掛けられるように工夫した。尚、建材には基本的には気仙杉を使用し、垂木には地元の七夕祭りで使用した竹の廃材を住田観光協会から譲っていただいた。
4.夏のワークショップ(8月4日~12日)
夏のワークショップは、2014年8月4日から12日までの9日間で行い、東京大学からは体験学習プログラムを通して参加した学部生10名と教員2名、TA(修士)3名が参加した。一方、マサチューセッツ工科大学からは神田駿教授を併せた7名が参加し、共に建設作業を行った。また、住田住宅産業株式会社の大工さんには木材加工や施工に全面的なサポートをいただいた。
特にワークショップ5日目以降は、予定していた建設作業に加え、建設を行いながら気づいた必要な設えの設計を開始した。具体的には、スロープ、小上がりに上るためのステップ、転落防止のための手すり、庇、ベンチなどが新たに設計され、その場で材料調達を行い、施工を行った。ここで全面的にご協力いただいたのが下有住公民館の館長である金野純一氏である。ご自身の竹藪から竹を提供いただいた他、大きな切り株、撤去した仮設住宅の廃材などを提供いただいた。
途中台風にも見舞われながら作業を行い、なんとか最終日までに完成させることができた。最終日のお披露目会には、団地住民の方をはじめ、住田町長、住田町役場の方、その他ご協力いただいた多くの方々に参加いただいた。
5.みんなの舞台の使われ方とその後
完成した「みんなの舞台」は住田町の多くのステイクホルダーの方々のサポートの下で建設された。現在は、仮設住宅住民の方によって、主に「お茶っこ」の場として利用されている他、夜の飲み会の会場として、あるいは子どもたちの遊び場としても利用されており、新しい居場所となっていることが伺える。また、メンテナンスのためワークショップ後にも現地を訪れている。9月27日、28日には有志で再度訪問し塗装を行った。この際、住民の方からは雨漏りのしない屋根を設置したい旨の意見をいただいていた。現状では、屋根材には取り外しのできる葦簀を使っているため、雨天時の利用ができない点に課題を抱えているほか、降雨後には住民の方がボランティアで床の拭き掃除をしてくれている状況にある。また、積雪時の荷重に耐えられない可能性もあることから、11月22日に再度訪問し、一旦葭簀を取り外した。12月23日は同じく雪対策のため床を養生する作業を行う予定である。
以上のような形で、刻々と変化する復興の状況、季節の変化、地域のニーズに合わせて、現地の方と共に「みんなの舞台」と付き合っていくことが大切と考えている。