2010年の卒業設計の講評

日時:2010年2月16日(火),1400-1600
場所:東京大学工学14号館演習室
設計したひとたち:
毛井意子  ビオトポス  -都市が都市らしくあるために-
藤井望佐  間にある海
前川綾音  百軒店職人窟
宮本真栄  散学連繋-みちの学校、学校のまち-
村本健造  都市にひらく御禁止山(まちにひらくおとめやま)
安川千歌子 ひと+まち→再生
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設計の講評(羽藤英二):
自分がここ数年,駅や広場の設計に関わったり,あるいは海外の新都市
の設計コンペに参加しているせいかもしれないが,最近の学生さんがど
ういう空間をおもしろいと思っていて,何を解決しようとしているのか,
あるいは,自分たちの未来に向かってどういう絵を描こうとしているの
か多少なりとも気になるようになった.

普段自分自身が対象にするのは移動設計論とでもいうべき領域であり,
そこでは普遍性だったり一般解だったりが優先されることが多くて.
昨年の秋に磯崎さんや内藤さんと一緒に澳門ー珠海のコンペに臨んだ
ときも悩んだのだが,珠海デルタの人口爆発や経済発展に対して,いき
なり20万人の都市を出現させてよと言われてもなかなか難しいところが
ある.難しいながらもコンセプトはつめていくとしても,人口20万人規
模の開発なのでマストランジットを用意してという具合に一般解を持ち
出すことは可能だけれど,それではどこか違うのではないか.という気
が漠然としたのだ.

もう少しいうとすれば,もちろん,それはそれで都市を設計する上でオ
ーソドックスな方法だとは思うのだけれど,果たしてそういう境界条件
を抑えていくような方法でいいのだろうか.もっと与えられたコンペの
条件設定そのものを軽々と飛び越えていくような,審査する側の思惑な
んか知らんがなというような,そういう何かわけがわからない強烈な力
があの場で私たちに求められていたのではないかと思った.

卒業設計は敷地もテーマも制約条件すらも自分で設定できる.もちろん
丁寧に模型を仕上げるとか,そういう能力も大切だけれど,コンセプト
を決めるのは自分だし,細部にこだわるのも自分である.そうやってこ
だわった部分と全体が一体となって,自分が設定したハードルを果たし
て超えられたかどうかが試される.6人の設計をみていて,ああこうい
う問題設定があるのか,こういう飛び越え方もあるな.都市のあるべき
姿をこんな風に眺めているのだなと,いろいろ見ているだけでも楽しい.

あらためて俯瞰してみると,今回の卒業設計の大きなテーマは「関係性」
だったように思う.設計を選択した6人ともが,空間の造形で勝負する
とか,インパクトのあるテーマを選ぶというよりは,都市においてどこ
か調子のくるってしまった旧くて新しい「関係性」を再生しようとして
いるように見えた.もちろんその再生のためのプログラムの立て方,敷
地やモチーフの選び方,テーマの膨らませ方は6人6様でぜんぜん違うの
だけれど,様々な空間尺度をプログラムすることを考えたり,空間の成
り立ちに着目してみたり,地形に着目したりと,それぞれ異なっている
のがおもしろくもあった.

自分自身で設定した問題やその解き方について,満足のいく結果が得ら
れなかった人の方が多かったのではないかと思う.なにせ締め切り1日
前の朝演習室に顔を出したときには,誰一人としてそれらしい模型が姿
を顕していないほど追い込まれてもいただろうし(笑).それに先生の
講評は意図的に厳しいことも多いから.ただだからこそ,unbuildであ
るからこそ記憶に残ることがあるのかもしれないし,自分が卒業設計(
あるいは卒業論文でもいい)に際して持ちえた問題意識はそれをなんと
しても越えてやろうとする思いとなって生涯付きまとうものではないか
とも思う.そしてそのことこそが,いいかげんにやろうと思えばできた
卒業設計に真剣に粘り強く挑んだ成果であるといえるのかもしれない.

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毛井:ビオトポスって名前がどっかふわりとしていて,それとは裏腹な
東京オリンピック招致失敗の土地に何をつくるかというきわめて現実的
な背景があり,そのギャップをこの更地でどのように埋めようとしてい
るのかが気になった.更地に新しくも多様な関係性を,様々な構造体の
「間」から有機的に生み出すプログラムの提案.アルゴリズミックデザ
インを適用したかような不思議な多様な配置の妙はたぶん融通無碍にや
ったのだろうけれどセンスを感じた.ロジックは,敷地の西に向かい合
いような高層を集落させ,中心部には間を微妙にコントロールした低層
建築を配しており,無意識だったのかもしれないが,タイトルを聞かな
くとも,図面からは段階的に成長する有機体のような関係性をイメージ
させる不思議と生命感のあるデザイン.更地は難しい.難しい更地を選
んだことに,都市が都市らしくあるために何が必要なのか,何が喪われ
ていて,何が求められているのかというメッセージがあったように思っ
た.

藤井:海岸沿いの地域だと空に聖と俗をどのように空間として再生・表
現しえるのかということに挑戦した例.いや実際に江ノ島は俗なんだけ
ど(笑),それでも,3つの神社への道をエコトーンからつむいでいく
という江ノ島の古くて新しい価値を再生しようとしたデザインは秀逸.
ただし模型は1/300とスケールが大きく,このスケールでエコトーンの
微妙な取り扱い,たとえば海浜植物の自生をどのように促すのか,その
細かなプログラムとでもいえばいいだろうか,そういうものが少し分か
りにくかったかもしれない.京都の糺の森は欅や椋が多くて常緑針葉樹
の献木がない.神様は少し薄暗い奥が好きだとおもうのだが,明るいか
ら人が入りやすく若木がだから生えない.聖と俗を意識するなら,陸地
側の遊歩道の細かなプログラムまで配慮する必要はなかったか.生物多
様性,エコトーン(移行体)の思想を空間的に示すのであればそこまで
求めたい.とはいえ,エコトーンと道を中心に据えた大きな設計思想は
すばらしい.江ノ島の南向きの海岸の再生と参道へと続く道にこめたど
こか祈りのようなものを感じた.

前川:百軒店にインキュベーションを.敷地の読み込みについての説明
を聞いているときに,シエーナのカンポ広場が思い浮かんだ.サイズも
場所もぜんぜん違うのだけれども.いい敷地を選んだし,分析をもツボ
をついていたと思う.広場に2種類の建物を組み合わせて渋谷の文脈を
踏まえて設計を成立させていたのは見事.こういう場所の設計では,き
れいに,しかし俗なエネルギーを(いい意味で)喪うことなくまとめる
ことが難しい.職人窟というコンセプトでぽっかりと広場を設けて,細
かな抜け道を用意し,微妙な空間をたいへんうまくまとめていた(普通
は塩梅が難しいのだ,妙に無意味にキレイに仕上げてしまう).なので,
個人的に評価の高い設計.ただ惜しむらくは裏通りの取り扱いである.
車が入ってこれるという現実的な広場を提案しているし,それを町へと
しみ出すことも想定しているだけに,空間行動分析的な文脈からいえば,
ひとつ外側の街路に雰囲気の連鎖の可能性を見出してもよかったように
も思う.中は専門家がゆるくとどまり,外は回遊性があるという2層の
広場構造というシエーナ的な構成が空間分析から成り立つのではないか.
表と裏の使い分けと接続のアイデアも見てみたいと思わせる可能性のあ
る設計だったと思う.

宮本:散学連繋.通学路.「いらかの道」という言葉にストレートに惹
かれた.見えるか,見えないかのなんとも微妙な高さに道を設け町を見
渡せるという視点場のアイデアがいい.さらにそれを住宅地からの抜け
道と学校を貫通させ,生まれる街路の溜まり空間は子供の格好の遊び場
になるだろう.ややもすると,DSばかりしがちな田舎の子供に書を捨て
て町に出ようと胸をはっていえる町,子供と町の関係性の再生を目指し
たようにみえた.であれば,もう少し思い切った具体的なプログラム,
たとえばその町で大人は何をするのかという提案も欲しかったかもしれ
ない.と思ったら芝居小屋のプログラムもあったのか(笑).通学路の
大人への開放,そこから生まれるコミュニケーションまでよく考え抜か
れた設計だった.模型は友人たちの手伝いによるもので,でき不出来で
はなく,本人の思想を反映したものでもあったように思う.ひとつある
とすれば,僕が聞きたかったのは宮本の中にある設計思想.田舎はどう
あるべきか.答えが見えないながらも,部分で全体を解決するなどと思
考停止に陥らず,宮本君なりの答えが聞きたかった.

村本:町に開く御禁止山.庭園文化の象徴となる斜面に着目して緑の巨人
を生み出させようとする試みは,アイデアそのもののの着眼がよく,丁
寧に描かれた連鎖する緑の街路空間にも惹かれた.東京が誇る神田川沿
いの崖地をどう生かすか,湧水を生み出す仕組みに着目して,水と生き
る歩行者ネットワークの提案の有用性,時宜を得ているということも高
評価といえよう.村本君らしい粘って不器用ながらも(笑),丁寧に課
題に取り組んでいたのが読み取れる設計だった.湧水を生かした,町の
いたるところに取り込む循環型のシステム提案についても考えているよ
うだったので,かつての庭園文化における水の使われ方,遊び方を踏ま
えてそのあたりの説明があってもよかったのかもしれない.また緑を公
園からしみ出せることを考えるからこそ,そこで顕れる都市計画的な問
題とは何か.街路設計の工夫や交通規制について,もう少し詰めた精度
の高いプランを示す必要があるだろう.従前の公園設計にはないアイデ
アを具現化するための挑戦的で現実的な提案が欲しかった.修士に向かっ
て期待のできるテーマではないかと思う.

安川:富山のまちの魅力をよみがえらせる案.衰退していく地方都市に
何が必要なのかを提案しようとしていた姿勢に,都市工らしさ?を感じ
た気がした(笑).外部空間と建築の間に中間領域を設定し,立山連峰
などの遠望を意識した提案.回遊を生み出すような空間連鎖の仕組みを
生み出す上で必要な敷地の文脈を周囲との関係性から丁寧に分析できて
いた点も評価できる.ただ敷地の表と裏,結びつく空間の関係性を有方
向ベクトルで意識したデザインであったらなおよかったのかもしれない.
空間を抽象化して捉え,空間と空間の関係性をさらに抽象化することで,
回遊がデザイン可能なものになる.自発的な流れを生み出すための仕掛
けとして,図書館の造形と広場を組みあわせた空間設計そのものにはセ
ンスもおもしろみもあっただけに,もう一段大きなスケールで,車と歩
行者,LRTの駅と駐車場が結びつくことをどのように企んだのか,それ
によってどのような回遊が生まれるのかが聞きたかった.一貫のあるプ
ログラムは都市デザインには必ずしも必要ないのかもしれない.だとし
ても,個々の敷地はお互いにつながりあうはずだし,つなぎの部分,つ
なぎの外への合理的な配慮があるとなおよかったように思った.
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