都市空間政策特論第3(担当:羽藤英二)

概要

この講義では,移動シミュレーション,空間構成シミュレーション, Choice Architecture,モビリティクラウド,景観分析を題材に情報シ ステムの基礎を学び,情報サービスを設計するという課題に取り組む中 で,都市を情報という側面から切り取り,よりよい理解を得ることを目 的としています.
第一回「都市情報システムとは何か」: 情報システムの基礎を日本で最初のサーチエンジンの開発者である南山 大学の河野氏から解説いただき,都市における情報サービスをどのよう にして設計すべきかについて,学生を交えて提案・討議を行う. 1.都市空間情報概論(南山大学 河野浩之)1830-1950 2. 都市情報サービスの課題:twitterと東大Subwayを例に(東京大学 羽藤英二)1950-2120
第二回「シミュレーションをまちづくりに生かす」: まちづくりの中で活用されつつあるシミュレーション技術について,大 規模小売店の出店や観光社会実験の現場で用いられている交通シミュレー ションと,空間設計の現場で用いられている空間構成シミュレーション を題材に,埼玉大学の坂本氏とスペースシンタックス社の高松氏から概 説いただく.シミュレーション技術の利用シーンとまちづくりへの活用 について討議を行いたい. 3.まちづくりのための交通シミュレーションと社会実験(埼玉大学 坂本邦宏)1830-1950 4.空間構成シミュレーション(スペースシンタックスジャパン 高松 誠治) 2000-2120
第三回「対話を科学する,交通を科学する」: ワークショップをどのように可視化すべきか,都市の中の交通行動をど のように科学的に理解しサービスを設計すべきか,具体的な事例を交え ながら,その最先端を,山梨大学の佐々木氏,日産自動車の原氏から概 説していただく. 5.ワークショップの科学(山梨大学 佐々木邦明)1830-1950 6.モビリティサービスの今(日産自動車 原加代子)2000-2120
第四回「まちなみを読む,サービスを提案する」: 「京都」を題材にとり,景域のなりたちとその見方について第一人者で ある京都大学の川崎氏から講義をいただき,学生が関心ある都市情報サー ビスについての討議を全体で行う. 7.景観分析の基礎理論(京都大学 川崎雅史) 1830-1950 8.都市情報サービス設計に関する討議(東京大学 羽藤英二)2000-2120

課題講評

都市と情報を めぐる問題はますます進化のスピードを増してきています.20世紀に出現した様々な矢鱈に 大げさな都市装置は今さまざな新しいテクノロジーによってアンビエント化しよう としています.そこではより本質的な価値が問われ,そして経済やコミュニティは哺乳類化して いくのかもしれません.そういうまだ見えない世界をしっかり見据えて,変わらないものと, 変わっていくものを峻別し,都市やコミュニティ,そしてその中で暮らす人々の姿を意識しなが ら,やわらかな情報サービスを構想することが求められているといってもいいでしょう.

そう考えたとき,バーカーの行動セッティング理論って僕は意外に好きなんですけど, 日本語でいえば考現学なのかな,人を集めるんじゃなくて,人が集まるためにって 視点で,時にはいろいろぼんやり空間と人の行動を眺めことで,何か本当に大切なことが 思い出されたり,あるいは思い当たることがあるんじゃないかと思います. で,ただそういってもなかなか,そういう機会もないと思いますし,漫然と空間を眺めることも 難しいので,情報サービスを考えることで,人ってやつが都市空間の中を動き,佇み, 会話する,そういう生活空間の連続性をある程度論理的に明確に意識しながら, よりよい都市の理解に結びつけてもらえたらと思い,この課題を出しました.

なので,この課題はあくまできっかけにすぎない.たとえば鈴木さんの提案は, 位置をキーにしたコミュニティビジネスのオークションアーキテクチャです. こういうGovernment2.0的なサービスは,米国ではすでに動き始めているものですし, Twitterの位置情報と#タグを使った集計システムでも比較的安価に実装可能なもの だと思います.が,しかし日本でこういうサービスは立ち上がっていない.どちらかと いうと,アノニマス度の高い2チャンネルやニコニコ動画のようなサービスか,少し 重たい感じのmixiのようなユーザーサービスが主流であって,現実空間やコミュニティ までは迫れてないという印象があります.なので,ちゃんと生きた仕組みにしていく上 で一体何が必要なのか,ただの思いつきを超えて,社会システムとして掘り下げて 考えていく必要があります.

その一方で,蛭田さんのモビリティクラウドの提案を聞いていて思ったの ですが,物流や人をどう運ぶかをオープンなシステムで考えるというのは, 人の面でもお金の面でも可能性があるプランに思えました.東京に限って みても,2050年を予想すると65歳以上の世帯主は今の3倍になります. 一言でいえば独居老人が増えるということ.いったいどうやってそういう コミュニティを維持していけばいいのか.もう一度コミュニティのサイズを 思い切って見直す.そして地域に必要な人を置くという視点が大切だと思 います.コミュニティ指向な物流システムと一体的に考えていくことも重要 でしょう. 案外情報サービスのことなど知らなくとも,コミュニティをしっかりと眺める, コミュニティでしっかり生きるという覚悟を持った人,皮膚感覚のある人から 生まれてくる気がします.そして,そいう感覚こそが,情報プラットフォーム の中でいきていくような気がしてなりません.

自転車の共同利用のようなサービスが日本発で海外に展開されていく.という話を そろそろ聞くことも多いように思います.その逆に米国のスマートグリッドのような 都市パッケージの展開が,サーシャージとして電力料金に上乗せされクリーンエネルギー 全種全量買取という形で大きく都市のありようを変えていこうとしています. 最適化理論やオークション理論,情報の非対称性やChoice Architectureの基礎理論 などを下敷きに,この主の技術は都市パッケージ化としてどんどん 都市にインストールされていくでしょう. 東アジア共同体(という言葉で語られることが多いのでしょうか)のような国際的な都市圏域の 経済共同体をどう構築していくかを考えたとき,治安がよく,公共交通中心で 環境負荷の低い日本の都市はお手本になりえる.女性の社会 進出が続く以上,高齢化はどんな国であろうが避けられない必然です.だからこそ, 相互扶助をうまく取り入れた日本流の旧くて新しいコミュニティのあり方,そういういくつもの コミュニティの連鎖によって成立する自律的な都市を支える新しいOSとしてもう一度 都市を丁寧に読み込むことでパッケージにして考えてみるべきだと思います.

パッケージ化は,矢鱈に場当たり的で複雑なカスタマイズをしては難しい. ハイビジョンのような特殊解はその場はよくても,一般解には勝てない.どのよう にして汎用性が高く,しなやかなコミュニティを支え得る情報プラットフォームを 構築すべきなのか.単なる思い付きでは覚束ない.直感を思い込みに変え,思いや りにまで昇華させていくだけのセンスと力が必要になってくるでしょう. 先に技術ありきでもないし,システムありきでもない, バナキュラーなものに対するまなざしであったり,人や空間というものへのよりよい 理解というか,そういうものから素直に出てくるアイデアの実装に期待したいと 思っています.

というわけでレポートの結果です.