概要
都市生活学・ネットワーク行動学研究室で,確率過程の参考書の輪読ゼミを行いました.
開催日時:
2013年 5月 26日(日) 8:00~(各パート50-80分)
対象書籍:
・中川正雄,真壁利明, 理工学基礎 確率過程, 培風館.
・R.デュレット, 確率過程の基礎, Springer (訳:今野紀雄ら)
その他参考文献
・統計数理 特集「確率過程の統計解析」
スケジュール
発表時間 | 発表担当者 | 担当 | |
---|---|---|---|
08:00-08:20 | #0 | 大山 | はじめに |
08:20-08:50 | #1 | 芝原 | 確率論の基礎 |
08:50-09:40 | #2 | 若林 | 確率分布 |
09:40-11:00 | #3 | 伊藤 | マルコフ連鎖 |
11:00-12:10 | #4 | 大山 | マルチンゲール |
12:10-13:00 | 昼食 | ||
13:00-14:40 | #5 | 今泉 | ポアソン過程 |
14:40-16:10 | #6 | 伊藤 | 連続時間マルコフ過程 |
16:10-17:30 | #7 | 浦田 | 再生理論 |
17:30-18:40 | #8 | 斉藤 | ブラウン運動 |
18:40-19:50 | #9 | 浦田 | フィルタ理論・情報理論 |
19:50-20:00 | まとめ |
発表
#0 はじめに
確率過程では何を捉えるか.例えば,交通現象における「差異」と「変化」の関係を考える.「差異」は個体間の違い.「変化」は同一個体が方向性を持って変わること.変動を捉えるとき,従来では,観測において長時間の安定状態を調査してきた.しかし,社会における不確実性が増加してきたことなど,これを捉えることは必要であるが難しくなってきている.1断面だけでなく,繰り返しデータの集計を用いる.このときに確率論が必要になる.一義的には定義できない予測困難な現象を把握するときに,確率過程の理解が不可欠だと考えられる.
#1 確率論の基礎
ゼミのはじめに,確率過程の基礎を1)事象と確率,2)確率分布関数と確率密度関数,3)平均として復習した.1)では確率の考え方にはじまって条件付き確率、ベイズの定理を紹介し,2)では確率変数という概念を導入し,関数としての確率の記述方法を学んだ.3)ではモーメントの考え方を導入することで,分散・相関・共分散などの求め方を紹介した.
#2 確率分布
先の確率過程の基礎で取り上げた確率密度関数,確率分布関数の具体的な例を取り上げ,研究に対してどのように応用できるかを考える.まず離散型分布からはじめ,二項分布やポアソン分布を取り上げ,次に連続型分布として正規分布やガンマ分布を考える.これらに関する理論として大数の法則,特性関数,中心極限定理を取り上げ,最後は多次元の確率変数に応用し,分散共分散行列やコピュラ関数の理論 を取り上げる.
#3 マルコフ連鎖
過去のいかなる状態にも現在の推移は影響を受けないというマルコフ性の仮定の下では,推移確率は推移確率行列の積によって表すことができる.発表では停止時刻や定常分布といった概念を説明したのち,極限値での推移の挙動(無限状態空間)について考えている.最後に簡単なネットワークにおける交通量配分の問題をマルコフ仮定により表現し,説明した.
#4 マルチンゲール
マルチンゲールとは,n期までの確率変数の推移がわかっているときに,次の期の条件付確率の期待値はn期の値と等しいことを示す.この性質が成り立つ場合,いくらギャンブルしても勝つことはできない.また,任意停止定理もマルチンゲールの理論によって説明される.
#5 ポアソン過程
はじめに,指数分布を用いてポワソン過程を導出し,その概念と定義を紹介した.その際に重要な性質として無記憶性と指数的競争があった.次にポワソン過程の特徴として発生した事象の量を考え,シンニングやスーパーポジションという性質を説明した.最後にポワソン過程が現実の問題でどのように適用されているかを,幅の広い道路の交通流モデルとして紹介した.
#6 連続時間マルコフ過程
1章で扱った離散時間のマルコフ連鎖を連続時間へ拡張している.推移率を使って推移確率の行列をつくことができる.連続時間マルコフを用いた応用例として待ち行列があるが,発表ではその議論を回遊行動の記述に拡張している.
#7 再生理論
ポアソン過程を一般化した再生過程と呼ばれる確率過程について取り扱った.再生過程では事象の発生する確率が指数分布に限らない一般の分布に拡張される.リトルの公式を用いた待ち行列の状態記述や,平衡状態での寿命の極限値に関するパラッドクスについて議論が行われた.
#8 ブラウン運動
ブラウン運動をマルコフ性やマルチンゲールが成り立つと定義した確率過程とする.この考えを用いてヨーロッパ型のコールオプションの適正な価格を導いている.条件が与えられた時のオプション価格を求める方法としてブラックショールズの公式を用いた方法を導出している.
#9 フィルタ理論・情報理論
前半では,雑音の入ったパルス信号から必要な信号をフィルタによって取り出すフィルタ理論について,計算を行う上で必要な基礎的な概念の説明を行い,それらを用いて信号対雑音比(SNR)を最大化させる問題として定式化を行った.後半では情報を定量的に扱う情報理論について,エントロピーという概念を用いて,情報伝達速度を最大化させる問題として定式化を行った.