■論文タイトル Walker, J., Ehlers, E., Banerjee, I., Dugundji, E., Correcting for endogeneity in behavioral choice models with social influence variables, Transportation Research Part A, Vol.45, pp.362-374, 2011 ■はじめに  心理学や行動経済学において,行動選択における社会的影響の重要性が注目さ れている.個人の選択は内生効果,文脈効果,相関効果等,他者から影響を受け る事が考られるが,離散選択モデルは個人の行動選択に基づいている為,多様な 意思決定者間の相互作用を扱うのは難しい.(ネットワークの範囲や受ける影響 の度合いをどう定義するか等の問題が生じる)  本研究では,ネットワークを厳密に把握せず,総体としての社会的影響を示す 「field effect変数」を用いて,行動選択における社会的影響を離散選択モデル に取り組み,社会的影響の度合いを示すパラメータを推定したい.  しかしここで生じる課題として「内生性」が挙げられる.(自分の選択は他者 に影響を受けるが,同時に他者の選択にも影響を及ぼしている事に起因する.) このような相互作用をfield effect変数としてモデルに取り入れるには,この内 生性の修正を行う必要がある. ■研究の目的 離散選択モデルにおける内生性の修正法を提案し,内生性バイアスが修正された 社会的影響を示すパラメータを求める. (1)BLP法の提案 内生変数を定数で置き換えることで内生性をなくす.定数で置き換えると,これ だけでは内生変数のパラメータを推定できない.ここで提案するBLP法では,マー ケット単位での影響を扱うことを仮定している. 手順としては,1. 誤差項の分割,2.内生変数をマーケット定数への置き換え,3. 推定 →これにより,社会的影響を示すマーケット定数αim(=γFim+εim)が推定可能. しかし本来はFの内生性バイアスが修正されたパラメータγを求めたい.そこで 次に以下の操作変数法を扱う. (2)操作変数法 内生変数Fimを操作変数Iimとパラメータθ,誤差項νimで,示すことで,γの推 定が可能となる. ■モデル  通勤手段選択を扱う.ある個人の通勤手段選択は,類似した属性を有する他者 の行動・心情・嗜好に依存するものと仮定する.意思決定者を準拠集団に分けて, 変数を取り入れると,内生性によりパラメータにバイアスがかかり,推定値が過 大になる. (1)field effect変数の導入  ここで定義する準拠集団は「空間的近接性に基づく集団」と「社会経済的属性 に基づく集団」の2種類.意思決定者は,自身の属する集団によってのみ影響を 受け,他の集団からは影響を受けないとする. (2)BLP法の適用 車・公共交通・自転車の各選択肢の望ましさをマーケット定数で置き換える. ※アドレスコードが近ければ相関があるはず.なのでネストとか. ※目的地選択でサイズが小さくなればなるほど,隣接エリアと相関が出る.領 域性が重要になる.収入・社会的階級 (3)操作変数の定義: 空間的近接性:隣接した郵便番号区のFim平均値 社会経済的属性:1つ下の収入階層のFim (4)操作変数法の適用 これによって,内生性バイアスの修正されたγFが求まり,field effect変数が 選択モデルの中でどの程度影響を及ぼしているのかがわかる. ■推定結果 field effect変数を入れると有意になった. 仮定は証明されたが,BLP法の適用だけでは,内生性は取り除けるが必ずしも精 度は上がらない. model3種類を比較し,Hausman検定により,内生性によって本当にバイアスがか かっていたのかどうかを検証した.その結果,修正前後での推定値の差は有意で あり,確かに内生性によってパラメータの推定値が課題になっていたことがわかっ た. ■まとめ 空間的・社会経済的に近い属性をもった意思決定者集団の中では,集団全体の選 択傾向が個人の選択に影響を及ぼしている(=field effect). このような影響を説明変数として,内生性を考慮せずに推定すると,その影響の 大きさが過大に評価されてしまう. BLP法により内生性を取り除くだけでなく,操作変数法を用いた2段階の修正を行 うことで(修正された)field effect変数のパラメータの推定値を求め,集団の 選択傾向が個人の選択に及ぼす影響の度合いまで示し,モデルの精度向上を図っ た. ■質疑  内生性の問題と準拠集団の問題を扱っている論文.内生性はオーソドックスで, 皆の研究でも生じる問題.しかし内生性が出やすい場合とそうでもない場合があ り,希釈されるなら,「あるけどまぁいいや」みたいになる部分もある. ●リファレンス →職場の話はある.あの駐車場良いよとか.情報がそこでまわってそこに集中し てしまうようなこと.それに対してどう働きかけたらよいのか,意味があるのか, ということを扱うのが戸叶さんの研究. ●準拠集団  グルーピングして,他の集団の効用を入れてやるみたいなやり方がある. 日産と横浜市で取ったPPデータがあるので,それを使ってグルーピングして,入 れ子にして内生性・リファレンスを分析する,ということは出来る.居住地につ いてもある.この論文ではリファレンスは聞かずに扱っているので,プローブパー ソンを扱っているもできる.  明らかに準拠しているってのはある? →浦田さんみたいなソーシャルネットワークの研究をやっていればある. 日産と横浜市みたいな職場ごとの分析はやってもよさそう. 社会的階級に対する理解があまりない.外国にいると気になる.向こうは日常生 活で分けられている部分が見える(中村さん) 東京だと公共交通を皆が使う.貧乏人が使うもの,という感じはしない. 東京の金持ちは意外と細かいとこまでみたりしていて驚き.貧乏人の方が大胆に 使うとか.金持ちの人の選択肢集合は広い.価値観も広い.(國分さん) 交通に反映させると,東京ではすごく難しい.居住地の階層設定はありそう. zipcodeでやったときにそれがリファレンスというのはわかる. 二層のものがある.準拠してるものがmultipleだと仮定すると面白くなってくる. 「一人十色」:一人の中に準拠のクラスが幾つかある.メンバーシップファンク ションで幾つかあるみたいな観点でbuild denvironmentに考えられてるとか面白 い. アクティビティダイアリーのパターンから金持ちとかわかる? →金持ちとかは難しいが,時間の余裕度はわかる.パターンで識別はできる. 地方と都市:待ち合わせ場所の考え方が違う →電車の使いこなしは何年か経つと一定 実空間のメンタルマップ.駅の概念で捉えないでそういうエリア感 通学によってメンタルマップがもたらされる.広がる.広がったのちに駅ネット ワークが消滅するといった流れがあった. →歩いているエリアを落としたり,歩行距離のエリアを考えて,フレームでセグ メントしたら面白いことがいえそう PPをしていると,東京で駅自体が目的になってるようなことが多いことに気づい た.目的地が駅というパターンがとても多い.今まで気にしたことなかったが. 「買い物=駅で買い物」みたいな. 人の行動が何によってきまっているかは,歩行速度は身体性かもしれない.より 速く着くとかばかりやっているが,根源的なとこからみると文化的規範が選択 に影響を及ぼしていると考えるのが自然. ●ソーシャルネットワーク 集まりやすい駅近くに居酒屋が発展するとか. withwhomと場所選択:ライフスタイルの選択といえる 金持ちは視点が違う.この辺じゃなくてアジアをみていたり. 知り合いのマッピングみたいなモデルの方が面白いのかもしれない. ライフサイクルステージのほうが依存している:幼少の頃は近所と会って,中高 になると会わなくなって…居住の中でまた知り合いができて…. 自分のライフヒストリーの中でなにがあったか.その関係性はどう変化している のか.に着目すると面白い. 文化人類学.東京の郊外論が好きな人が多い.言語できてない.都心郊外で皆が やってた時は面白かった.今は,モチベーションなく,何かみつけられるみたい な感じ.まだ言葉に出来ていない. ----------------------- ■全体のまとめ  本研究では,総体としての社会的影響を示す「field effect変数」を用いて, 行動選択における社会的影響を離散選択モデルに取り組み,内生性バイアスが修 正された社会的影響の度合いを示すパラメータを推定する.  内生性バイアスを修正するためにBLP 法と操作変数法の2段階で推定を行う. まずBLP法を用いて,内生変数を定数で置き換えることで社会的影響を示すマー ケット定数を推定し,次に操作変数法を用いて,本研究の目的である内生性バイ アスが修正されたパラメータの推定を行う.  これを通勤手段選択モデルに適用した結果,field effect変数を入れると有意 になるという結果が得られた.またHausman検定により,内生性によって本当に バイアスがかかっていたかどうかを検証したところ,修正前後での推定値の差は 有意であり,確かに内生性によってパラメータの推定値が課題になっていたこと がわかった.