■論文タイトル The structure of random utility models, Manski, C., Theory and decision, vol. 8, No.3, pp. 229-254, 1977 ランダム効用モデルの配分構造の分析を行う. 選択行動を予測するプロセスでモデルの配分特性がどのように決まるか? 選択肢集合の不確実性を考慮したモデルを構築する. 1. The General Model 選択問題生成プロセスや意思決定ルール,個人属性,選択肢属性に関して,分析者 がわかることは限定されている. この不確実性を考慮した上で,どのようにモデルと選択確率が導入されるかを説明. A. Primitive Concepts and Definitions  有限の意思決定者集合T  有限の選択肢集合a  集合aの要素=選択肢  集合aの空集合でない部分集合=選択肢集合  選択肢集合全体=選択肢集合空間Γ B. The Decision Rule  意思決定者は効用を最大化する選択肢を選択すると仮定  効用は,選択肢空間の属性と意思決定者空間の属性の関数となる C. The Generation choice problems ・古典的な選択行動は2段階の再帰的処理の結果として説明される.   1step: 外生的に選択問題が与えられる(意志決定者と選択肢集合の発生)   2step: 意志決定者が利用可能な選択肢を選ぶ   2段階目に関する研究が多いが,ここでは1段階目にも焦点を当てる. ・選択問題: Γ×Tから「選択問題生成プロセス」に従って(C,t)を抽出する問題. ・選択問題生成プロセスは,意思決定者生成プロセスと選択肢集合生成プロセスに  わけて考えることができる.  意思決定者集合Tに対する選択集合の生成は,それに先立ち選択肢集合をコント  ロールする意思決定者の集合TTによってなされた意思決定の結果だと考えること  ができる.  意思決定者生成プロセスは,ランダム効用関数推定では分析者が意思決定者集合  Tから行うサンプリングのプロセスを表すものとして,心理学でのランダム効用  モデルでは選択に直面したときに各個人が採る意思決定ルールの分布として解釈  される. D. The Observer’s Information Base  仮定:分析者は、選択プロセスに関し限定的な情報をもつ  選択肢集合の属性と意思決定者の属性は,それぞれ観測可能なものと観測できな  いものに分けられる.  E. The Random Utility Model  以上の議論を踏まえてランダム効用モデルを定式化 F. The Outcome of the Choice Process  選択プロセスの結果ある選択肢が選択される確率を定式化 以上により,意思決定者が効用最大化理論に従い,かつ意思決定者と選択肢集合を 関連づけるプロセスが特定できる場合,選択肢属性・個人属性に関する情報が不足 する分析者に対して,ランダム効用モデルが選択行動を説明できることを示した. 2 Special Models 3タイプの異なる分布特性をもつランダム効用モデルを解説. 一般的なランダム効用モデルにおいて,効用関数の形,選択問題生成プロセスの特 性,観測データの情報量という3つの条件がどのように配分構造を規定するか, また既往の様々なモデルにどのような潜在的制約条件が含まれるかを明らかにする. A. The Independent Random Utility Models ・このモデルは以下の仮定を必要とする. (i) 各意思決定者の選択肢集合は, aから独立的にとってきた選択肢の集合である   (選択肢をとってくる行為に相互依存性がない) (ii) 属性が等しい意思決定者の選択確率は等しい (iii) 意思決定者の個人属性が全てわかっている ・属性が異なる選択肢集合におけるIRU特性のみを実証している. B. The Independent and Identically Distributed Random Utility   Models ・このモデルは以下の仮定を必要とする. (i),(ii),(iii)が満たされている (iv) 効用は観測可能な属性による効用と観測されない属性による効用の和で表さ    れ,観測されない属性による効用は個人属性によらず選択肢の属性のみに依存 (v) 観測されない選択肢の属性は個人属性によらず分布している  vを満たしたかどうか分析者が判断するのは難しい. ・IIDRU特性を大きく弱めたモデルとして,  conditionally independent and identically distributed random  utility models  がある. C. The Random Coefficient Models ・モデルに必要な仮定は以下のとおり.   (vi) 意思決定者tの選択肢集合はtの観測されない属性に無関係  (vii) 観測されない意思決定者の属性の存在が,唯一の確率的な要因となる まとめ U=V+εのVの関数形にばかり注目が寄せられ,εの確率分布に関する実証的分析がおろ そかにされていることに対する疑問から本研究が始まった. 古典的な選択プロセスは帰納的であり,はじめに選択問題が生成されてから意思決定 者が選択肢集合から選択する.これに対し本研究のモデルでは,効用最大化理論を意 思決定ルールとして仮定した上で,選択肢生成プロセスはΓ×T上の確率分布のみで表 される. ------------------- ■議論 羽藤)観測には偏りがある.その中で選択肢集合をどのように設定するかは重要. 浦田)回遊行動の場合はツアー単位で考える. 羽藤)それはこの論文とどう関係するか. 斉藤)場所だとその場所における,ということがある. 羽藤)データ数が少ない場合は全体で考えるがデータが多ければ空間に結びつけて    考えることができる.選択肢集合の考え方によって結果が全く違う.    國分さんの研究でも選択肢集合がどのような形で選別されているのかを考え    ることが重要.選択肢集合は100個から1個の場合と3個から1個の場合では    パラメータが全く変わってくる.    大村の研究にはどう関係するか. 原) 外出することを想起しているかしていないか,など. 羽藤)想起しているというのはどうやって確認するのか難しいが・・.ずっと家に    いる人もいる.どちら方向には出かけるけれどどちらには出かけないという    ことを分析すると,空間が及ぼす影響を把握できる.    この論文はかなり上流のところを扱っている基礎研究なので,多くの人の    研究に関係する.ソーシャルネットワークについても同様. ------------------- ■論文要旨 選択問題生成プロセスや意思決定ルール,個人属性,選択肢属性に関して,分析者 が観測できることは限定されている.本論文では,意思決定者が効用最大化理論に 従い,かつ意思決定者と選択肢集合を関連づけるプロセスが特定できる場合,選択 肢属性・個人属性に関する情報が不足する分析者に対して,ランダム効用モデルが 選択行動を説明できることを示している.また,提案したモデルを用いて,既往の 様々なモデルにどのような潜在的制約条件が含まれるかを明らかにしている.