Akerlof, G.A., The Market for "Lemons": Quality Uncertainty and the Market Mechanism, The Quarterly Journal of Economics, Vol. 84, No. 3, pp.488-500, 1970. ■はじめに ・レモン=不良品(ここでは不良自動車) ・高質な商品の利益は売り手個人よりも売り手集団全体に及ぶため,品質の悪い商品を扱うインテンシブ.  →平均的な品質は下がる. ・より多いものをより多くという仕組みが働かず,本来生まれたはずの社会的余剰が失われる. ■中古自動車市場を例としたレモンの原理 ・市場には優良新車,不良新車,優良中古車,不良中古車があるとする. ‐新車市場:その車が優良か不良かは買い手にはわからない(確率はわかっている) ‐中古車市場:所有者(売り手)は質がわかっている.売買時に売り手と買い手に情報の非対称性. ・グレシャムの法則との比較 不良中古車は有料中古車を締め出す,どんな品質でも価格は同じというのは共通.レモンの原理では情報の非対称性を仮定. グレシャムでは売り手も買い手も価値を知っていると仮定. ・中古車市場 売り手と買い手とで価値が違う.(買い手にとっての価値の方が高い) ‐売り手:売り手にとっての価値より価格が高ければ売る,低ければ売らない. (価格に応じて,どんな車でも売るor不良品だけ売るor何も売らない) ‐買い手:市場で供給される優良と不良の割合だけ知っている. それに基づいた期待価値と価格を比較し買うか買わないか決める.このときの均衡状態は不良品ばかり出回っている状態. ・需要は価格の減少関数,市場での平均品質の増加関数.供給は価格のみで決まる. ・価格が下落すると普通は質も落ちる→→どんな価格でも商品はまったく取引されなくなる.  この間の仕組みはどうなっている? ・中古車保有(グループ1)・非保有(グループ2)の2つのグループ ‐G1:保有している中古車の品質についてある一定の確率分布 (G1の中の個人は自分の車については知っているが市場については知らない) ‐均衡状態:価格と,市場での中古車の平均的な品質によって表される →情報が非対称な場合,総需要量(G1の需要量+G2の需要量),供給量(G1からの供給量)について, どんな価格でも均衡状態が成り立たない(0台で均衡)=取引が行われない. →情報が対称な場合,市場での中古車の平均的な品質という概念は取り払われ,均衡状態が生まれる.=取引が行われる. ■他分野でのレモンの原理具体例 ・保険市場:ここでは供給者ではなくユーザーの方が有利.保険申請者は自分の健康状態をわかっている.リスクを把握しやすい. 保険料の上昇に伴い,平均的な健康状態の申請者は減少.結果,どのような価格でも売られなくなる. (どのような保険価格でもレモンを引き付けてしまう.) ・労働市場:少数民族は学歴が不明確.このとき労働市場において企業は,優良な労働者とレモンの労働者を見分けるのは困難. 学歴は潜在能力の良い指標となるが,これを指標とすると少数民族を雇うとき企業は不利となる. →少数民族が(差別や偏見の結果ではなく,企業が損をしないための戦略として)就労機会を得られないということになる.  →政府の介入が必要. ・不正取引:不正な取引は正直な取引を市場から締め出してしまう.市場規模は縮小. ・金融市場:(インドの例)地域特性やカースト制度に基づいた企業が多く,他の地域の人々(特性を知らない)は投資に失敗しやすい.  対応策:品質保証制度,ブランドネーム,チェーン店,ライセンス ■結論 ・信頼の重要性:保証が不明確なとき,取引に苦労する. ・非対称情報下では,異なる品質の財が同じ市場で取引されることになり,市場の完備性は損なわれる.  市場均衡を通じた効率的配分の実現が困難に. ・不確実性の議論は囚人のジレンマとして探索されている.物々交換的な話だと,相手が何を出そうと自分がレモンを出す方が得.  結果レモンしか取引されないということになる.両方とも供給者の場合,まじめにやっている人は損をするという論理. (取引はされるが市場への信頼は下がる?) ■補足・議論 ・良いものも悪いものも混ざっている市場の中で,品質の分布を一様分布と仮定している(分布が違えば話も変わる).  平均的な品質というのは真値ではなく期待値. ・信用の問題:何度も取引を繰り返せば情報が更新されて信用の度合いも変わる? ・信用についてのリスクをカバーしようとすると取引コストが高くなり取引が行われなくなる.  ここをケアする必要がある.リスクを大きく見すぎている場合も. ・情報の非対称性により取引が円滑に行われない例は他に何がある?  ‐不動産系に多い.賃貸で大家は借りる人が部屋をどう使うか完全にはコントロールできない.(敷金,外国人お断りなど) ---------------------------------------- ■全体のまとめ レモンの原理では市場における売り手と買い手の間での財の質に関する情報の非対称性に着目し,品質の異なる財が混在している場合には市場 均衡を通じた効率的配分の実現が困難となり,結果として質の低い財ばかりが出回るような状態になってしまうということを示している.具体 的には中古車市場を例に対称・非対称情報下での市場均衡について分析・比較し,非対称情報下で買い手が商品価値の(真値ではなく)期待値 に基づいて行動することによりどのような価格でも取引が行われなくなってしまうということを検証した.ここでは売り手が自分の所有する財 の価値を知っているのに対し,買い手は優良・不良の割合しか把握できないと仮定している.さらに,他分野でのレモンの原理の具体例として 保険市場や労働市場など,取引対象物の質の不確実性というリスクの想定と各々の利潤最大化行動の結果本来望ましいはずの取引が困難となる 例を紹介し,正直者が損をしてしまうという論理,取引相手への信頼や品質の保証の重要性と難しさが論点となった. ----------------------------------------