■論文タイトル Sociel influences on household location, mobility and activity choice in integrated micro-simulation models, Ettema D., Arentz T., Timmermans H., Transportation Research Part A, vol.45, p283-295, 2011 ■はじめに  土地利用や交通予測に関するモデル(land use transport interaction model :LUTIモデル)に,離散選択モデルやマイクロシミュレーションの導入は,意思 決定を考慮できる,モデルが動的になる点で効果的である.さらに,個人の居住 選択行動や交通行動パターン要因として,注目されているsocial networkの導入 を行う.  social networkは,居住行動選択や交通行動選択への影響要因と考えられてお り,本研究では,LUTIモデルのsocial networkと社会的相互作用の導入を行う. また,選択肢集合の生成においても,社会的相互作用を考えることは有効である.  既往研究では,そもそも居住地選択を扱っている研究は少ない.また,LUTIモ デルでは,既存のモデルと比較して,セルフセレクションや時間と予算制約,長 期要因と短期要因の相互作用を考えている. 全選択肢を認知しているわけではない <質問・意見> ・既往研究をみてみると,social networkの質までを追った研究は少ないことがわかる. ・なぜ,人と人がつながるのかという概念整理を行うには,利用できる既往研究の整理である. ・この居住地がいいからといううわさの伝達を考慮した居住地選択を考えたい. ・モデル化することによる問題点はある思うが,その中で何を知りたいのかを考えていくべきである. ■長期と短期の世帯の意思決定の効用定式化  世帯効用は,現住居の効用,商品購入(消費行動)の効用,活動従事の効用の3 種類である.この3つの効用を考えるには,世帯の予算制約,労働時間,世帯賃 金率,時間割り当て(活動従事時間)を考える. <質問・意見> ・他にどうのような効用がありうるか →家族との時間の過ごし方,時間と空間を他人とのシェアの仕方,個人の目標実現や仕事のやりがい ■social networkの定式化 ・social networkにより,消費・活動における時間利用によりよい選択肢を知ることができる. ・世帯間のつながりの強度は,世帯属性の類似性によって決まる. ・世帯属性は1年ごとに更新する. ・新規リンクやリンクの質は考えていない ■その他定式化 ・働く時間,消費時間などは,世帯のsocial networkの仲間のallocationの認識 から影響を受ける. ・現住居の効用は住宅タイプ,商品購入(消費行動)の効用は,活動従事の効用は 世帯員の自由時間と利用可能予算,トリップパターンの効用を考慮する ・social networkの世帯との類似性が高ければ,その世帯から受ける効用の影響 は大きくなる. ・つながりの強度の掛け算で定義,類似性が大きいほど大 ・就労状況・住宅タイプ・消費行動の入手可能な選択肢・魅力を取得 ・つながり強度の更新は動的に行う ■実装条件 ・PUMAモデルの一部を改善 ・居住地選択行動は,triggering,searching,negotiatingの三段階で, triggeringの際の情報をsocial networkからひきだす ・活動参加と消費行動,居住地選択のトレードオフに着目 ・10のランダムな世帯からペアをえらんで,social network形成を想定して, ペア世帯の類似性が閾値τを超えた場合にsocial linkが形成されるものとする <質問・意見> ・socail networkを選択・形成の準拠集団の考え方がいれられたほうがいい ■実装結果の考察 ・ライフイベントの発生数の変動をみると,転居数の変動他と比べて大きい. ・個別にみると,転居ではなく労働の変化(フルタイム→パートタイム)により, 収入と活動時間が減少し,allocationの変化が高い効用に結びついていないこと がわかる. ・また,頻繁に転居している世帯があり,これから転居コストや慣性力がモデル に入っていないことが課題となっているといえる. <質問・意見> ・離婚やパートタイム化などの変化に合わせて,消費などの変化も必要であると思う ■全体質問・意見 ・3つの効用を示したが,経年的にだんだん安定してきている.これは,模倣の ためなのか,学習しているからなのか. ・学習効果には触れていなく,実際,シミュレーション結果が安定しているわけ ではない.シミュレーションの初期設定が適切ではないので,経年経過に伴い, 安定してきているようにみえる. ・social networkを形成する準拠集団の考え方については議論されていないのか. ・議論されていない. ・住み替えと景観分析には結びつかない. ・住み替え検討時に地域景観や地域性が影響あると思う. ・そのあたりは,デザイナーが提供するのではないのではないか. ・居住選択行動の中で,普通の人にも意識されることがない.潜在的に織り込ま れたものが,実際の地域の評価になっている. ・研究上は,世帯それぞれの好みをうまく把握できるアンケート票が必要となる. ・アンケートというよりも,インタビューでとることになるかもしれない. ・電力の使い方の意思決定,世帯効用の考え方を取り入れたい. ・世帯全体の効用を考えることはあまりない.転居ではなく,普段の生活をする 中で,個々人のことを考えるのか,世帯全体の効用を考えるのか. ・世帯効用とは,弱いものを支える世帯効用(高齢者補助),強いものを強くする 世帯効用(父親をたてる)があると思う ・駅から遠いなど立地によって,弱者が現れたら,それを補助する世帯効用が生 じるが,弱者保護のような状況がないときに,世帯効用がどれくらい影響するの か.今回のように単純に外部世帯の真似することではなく,外のプラグラムの存 在と,家族の中での協調行動の存在はどう現れるのか. ・転居は荘だと思うが,普段の生活の中での象徴的なエビデンスがなにかまだわ かっていない. ・社会相互作用の話であれば,美術館にいくとか,周りと似た行動するとかの回 遊行動がある.真似というのは社会的規範であり,どのようなモデルに入りうる. ・行動選択,住居選択と相性がいいのは,パーソナルネットワークの分野ではないか. ----------------------- ■全体のまとめ  この論文では,居住地意思決定におけるsocial networkの役割に着目した. social networkのつながりの強度を世帯属性の類似度で定義し,そのsocial networkが選択肢や各選択肢の特徴は,social networkを通じて影響を受け,模 倣する.このsocial network導入により,世帯の意思決定のプロセス表現を記述 することができる.また,効用としては,現住居の効用,商品購入(消費行動)の 効用,活動従事の効用の3種類を設定している.  PUMAモデルの長期意思決定モデルの一部を改善する形で,モデルシミュレーショ ンを行った.情報検索の段階で,social networkの影響を受けているとする. social networkをランダムに類似世帯を探索して与えることで,モデルへの導入 が可能となった.詳細には,転居コスト等を考えていないため,頻繁に転居を繰 り返すという問題が把握できた.