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2007年9月20日、21日にかけ、東京大学内で行動モデル夏の学校が行われました。名古屋大学,山梨大学,岐阜大学、日本大学、慶應義塾大学、中央大学、愛媛大学,東京工業大学,東京海洋大学,東京大学から総勢約50名の学生が集まり、2日間という時間を使って、講義受け、行動モデルを用いて課題に取り組みました。

こちらでは当日の内容についてご報告しています。

プログラム

1日目(9月20日)

10:00-10:30受付
10:30-11:00ガイダンス 羽藤英二(東京大学)
11:00-12:00基調講演  兵藤哲朗(東京海洋大学)
12:00-13:00昼食(研究室紹介)
13:00-13:50講義1 効用最大化理論と確率的意思決定モデル 倉内慎也(愛媛大学)
14:00-14:50講義2 パラメータ推定のテクニック 佐々木邦明(山梨大学)
14:50-15:00休憩
15:00-18:00演習1 コンピュータ演習 牛尾龍太郎(愛媛大学M1)
GAUSS/Rのサンプルプログラムの説明
各人データ分析
モデルの選択とパラメータ推定
18:00-19:00中間発表
19:00-立食(交流会)

2日目(9月21日)

08:30-10:00演習2 グループごとにデータ分析・パラメータ推定(プログラムの提出)
10:00-12:00演習3 発表準備 (途中昼食,講師陣によるプログラチェック)
12:00-13:00昼食
13:00-14:30博士コースセッション
講演1 交通エコポイント制度のサービスレベルと評価意識構造に関する分析 佐藤仁美(名古屋大学D2)
講演2 ゲーム論的交通均衡モデルとパラメータ推定手法 柳沼秀樹(東京工業大学D1)
講演3 ITSにおけるプローブカーデータを活用した統合型交通情報提供システムの開発 薄井智貴(名古屋大学D3)
14:30-15:20講義3 異質性と動学化へのアプローチ 山本俊行(名古屋大)
15:30-17:00プレゼンテーション&質疑
17:00-18:00講評・表彰・交流会

講義、ガイダンス

ガイダンス 羽藤英二(東京大学)資料

概要:ネットワークモデルの一部としての行動モデルとセンサーネットワークなどのデータ革命における行動モデル研究における研究課題の現状のレビューを行い,交通行動モデルの今日的価値についてに概説する.

講義1 倉内(愛媛大学)資料

概要:離散型選択モデルについて効用最大化理論の基礎を説明した後,2項選択モデルとネスティッドロジットモデルの基礎をわかりやすく概説する.さらにMXLモデルの概念を説明した後,行動モデルの構築で留意すべき点を考察する.

講義2 佐々木(山梨大学)資料1,資料2

概要:パラメータ推定のテクニックについてclosed-formの内容についてとくにわかりやすく解説する.ニュートンラプソンと準ニュートンラプソン法について多峰性を有する尤度関数の場合に起こる推定上の現象について解説を加え,離散型選択モデルのパラメータ推定を見通しのいいものにする.

講義3 山本(名古屋大)資料 論文

概要:行動モデルの応用編として,動学化と異質性に関するトピックスの紹介を行う.パネルデータ研究に関する分野で進展した動学モデルにおける差異,変化,変動の3つの概念をわかりやすく解説し,異質性についても説明を加えることで,行動モデルが取り扱い可能な多様な研究トピックスについてのアプローチを見通しのよいものにする.

博士課程セッション1 佐藤(名古屋大)資料

概要:エコポイント関連の行動原理に関するSPデータを用いて,利己的フレームと利他的フレームに関する反応パラメータの推定結果についての報告.行動モデルとしてはLISRELを援用.

博士課程セッション2 柳沼(東京工業大学)資料

概要:相互作用を考慮したパラメータ推定の提案を行う.Viauroux(2007)のモデル構造をPseudo Maximum Likelihoodを援用して実際に解きましょうという内容.繰り返し計算に特徴があり,one-to-manyのゲームの枠組みでモデルを構築している点に特徴がある.

博士課程セッション3 薄井(名古屋大)資料

概要:プローブを使った情報サービスに関する研究.情報提供が交通行動にどのような影響を与えるかという古典的なトピックスをプローブ情報ならではの個別情報配信によって明らかにしようとしたもの.

コンピュータ演習課題 牛尾(愛媛大学)資料

概要:RとGAUSSを使った行動モデルのパラメータ推定演習.データは松山プローブパーソン調査データのうち買物場所選択と経路選択データ.

演習課題発表

東京工業大学チーム 柳沼(発表資料プログラム(Gauss))/M1(発表資料:プログラム)

評価:
柳沼:初めて扱うPPのN数にわくわくするも,ワーキングメモリオーバーの設定変更を忘れる.交通機関選択慣れしているのか,個人属性や異質性に関心がいくあたりで勝負は決したか.選択肢集合の解析を丁寧に行えばあるいは勝機も見えたが,連覇散る,無念(羽藤),
M1:パラメータ数21個と全て固有変数という勇敢な行為にでて,Kの罠にはまり自由度調整済尤度比は0.148に.うーん,残念(羽藤)

適合度が低い,という結果については,経路選択モデルでは選択肢集合が大きい事や,経路間の重複が大きいことなどから良くある事かと思います.もともと交通手段選択モデルと同程度の適合度は期待できません.男女別に推定した時点で女性のモデル適合度が男性に比べて低いのは,女性に対する観察力の無さか?車線数を経路の幹線性と見なして説明変数に追加しても面白かったのではないか.メモリオーバーフローの件は,後進のためにどのような対処をすれば回避できるかまとめて主催者に提出してマニュアルに追加してもらって下さい.私は昔,gauss.cfgファイルを書き換えたような記憶があります(山本).

敷地面積や営業時間を説明変数に導入したのは良い目のつけ方だと思います.ただし,パラメータを選択肢毎に変えると定数項が同定できないことに推定結果をみて気付くともっと良かった(山本).

愛媛大学チーム3班 (発表資料:プログラム(r)1,2,3, データ)

評価:間違ったt検定をやるくらいなら最終尤度-191+-156=-357のχ2検定があればよかったわけだが,ともかく検定をやろうという丁寧な意識がある点は買い.(羽藤)

稀な選択肢を削除したのは適切な判断だったと思います.出発地からの距離を示したグラフでは,並び順に意味がないため,最近施設までの距離の順に並び替えるなどした方が良いと思います.平日セグメントの推定結果で定数項と30代ダミーのt値があやしいと思い,プログラムを見ましたが,30代ダミー,40代ダミーではなく,30才ぴったりダミー,40才ぴったりダミーになっているのではないでしょうか.(プログラムに読み込ます前にデータ自体を書き換えていたようで,問題ないことが分かりました.しかし,平日のフジグラン重信選択者は4ケースとサンプル数が少なく,4ケースとも40代であったため,推定値が不安定になったのではないか.)(山本)

愛媛大学チーム1班 (発表資料プログラム(r))

さらさらとした基礎集計の結果を反映したt値の高い説明変数を備えた推定結果は手堅い.他店からジョープラへの流れという点に着目し,都市内回遊の視点からの政策分析が加わると面白いと思います(山本).

愛媛大学チーム2班 (発表資料プログラム(Gauss))

出発地からの距離を示したグラフでは,並び順に意味がないため,最近施設までの距離の順に並び替えるなどした方が良いと思います.1班と同様に,手堅い基礎集計と推定結果は問題ないと思います.推定結果そのものには特徴がないので,何か政策分析を考えてもらいたかったですね(山本).

名古屋大学チーム1班 (発表資料プログラム(Gauss))

最終尤度-401.簡単にもやれるところを平日,休日の同時推定でスケールパラメータありとはなかなかシブい構造でかつ定石を踏んだ変数選択は手堅い.しかし,,サプライズがない,いやサプライズがないのは仕方がないが,味がないといえばいいのか,いや意味なら十分ではあったのだが,,惜しくも2位に沈む.(羽藤)

平日休日をセグメント分けして同時推定しており結果もまずまず.推定結果を用いて駐車料金施策等の政策分析を試みてほしいところ(山本).

名古屋大学チーム2班 (発表資料プログラム(Gauss))

時間が足りず発表資料の作成が間に合わず残念でした.基礎集計では,最寄りか否か,という点に着目して分析していたようで結果が見たかったです.介在機会モデルのような発想のモデルが出来上がっていたことでしょう.「最寄り地以外選択ダミー」も考えていたようで,生アウトプットを見ると正値のようですが,どのように解釈するつもりだったのでしょうか.基礎集計結果を見て,ダミー変数を作成する前に,原因をちょっと考えてみてほしかったです(山本).

東京大学チーム (発表資料:プログラム(r) 1,2,3)

Halton使ってMXLをRで計算できるように移植した唯一の班.相変わらずの仲野くんの解釈なんて知らんがなというアルゴリズムの理解に徹した割り切りにつきる.恐れを知らぬ変数の合成とスケールパラメータ推定の解釈はあまりにも大胆.ゆえにインパクト賞.(羽藤)

3つの異なるモデルを推定したのは良いが,モデル間の比較も行ってほしかった.距離のパラメータを施設毎に変えるのはどのような理由からか仮説が必要.距離を営業時間で除するのはやや強引.まずは営業時間も別の説明変数として導入するのが普通.MXLに挑戦するなら,ネスティッドロジットモデルでは推定できない相関関係を仮定してほしかった(山本).

慶應・日大・岐阜合同チーム (発表資料プログラム(r))

t固有変数の使い方に巧さが光る,大胆だが,割り切って解釈まで持ち込み,同じく政策シミュレーションには院生らしくない経験値の高さが感じられる.詰めが十分になされた上に自由度調整済尤度比第一位の値を叩き出した.よって優勝.(羽藤)

出発地(自宅/自宅外)によるセグメント分けは独自性があり面白く,結果も伴っている.適合度0.36は立派.「自宅以外から「ついで買い」をする時、公共交通は利用しずらい」という解釈は少し微妙.自宅以外からの場合はこだわりが無いから近場にいく傾向がより顕著になる,という感じか.また,自宅からの場合のパラメータの低さが目立つので,自宅から公共交通の場合は距離抵抗は少ない,という解釈も可能か.立地条件のシミュレーションは若干強引だが面白い(山本).

東京海洋大学チーム (発表資料プログラム(r))

仮説の作成がきわめて丁寧に行われていたあたりに,パラメータ推定は初めてながらも,日ごろの鍛錬の成果を感じさせる.しかしパラメータ推定結果の解釈に必ずしもつながらず無念.(羽藤)

計分析の段階では,立地,駐車料金によって交通手段が異なるのではないかと仮説を立てているが,推定には徒歩と自動車の2つのダミー変数が入るのみで残念.もし,目的地によって手段を変更するのであれば,使った交通手段を説明変数に導入することは内生変数を説明変数に入れることになりパラメータ推定にバイアスを及ぼす.このような場合,「交通手段×目的地」を選択肢にした分析も考えられる(山本)

山梨大学チーム (発表資料:プログラム(Gauss)1,2)

大胆不敵に強い仮説を最初に絞り込んで,そこに焦点をあてたクロス集計,さらに独自のパラメータ推定結果の解釈を展開,一見説得力のある結果を得たものの,最後にB14パラメータ投入で識別不能の地雷を踏むも,S氏のアドバイスのせいと判明し(ぷぷ),見事インパクト賞.(羽藤)

中心市街地に無料駐車場の希望多いという現実のニーズに立った実践的な分析となっており,結論も目的に沿った形となっている.無料駐車場は自動車利用者のみに有効だが全てのサンプルに共通のパラメータを仮定している点で,(分析目的の中心だけに)もう少し検討がほしかった.自動 車利用は目的地に依存するから内生変数だが,「交通手段×目的地」を選択肢にしたり,instrumentalvariable法によって交通手段モデルを先に推定して自動車利用確率を説明変数に用いるという方法も考えられる(山本).

中央大学チーム

初日だけ受講して結果を出したのはさすが.結果の吟味もしっかりしており,ネスト構造を巧く仮定して尤度比も高い.(羽藤)

高い決定係数を導けたことは評価に値すると思います.何が最も重要な要因だったのかも明らかにできれば他の班に対しても有益かと思います.ただし,敷地面積を説明変数に導入しているが,三越の敷地面積は全員にとって共通なので,定数となります.よって,定数項と識別できないため両方は推定できません.また,開店時間についても全員にとって共通なので定数となり,ジャスコ,ジョー・プラの定数項と識別できません.三越,ジャスコ,ジョー・プラの定数項の絶対値がいずれも非常に大きくなっているのはこのためだと思います(山本).