7章「外部性と公共財」 ■外部性 【外部不経済】 工場が生産活動に伴い汚染物質を出していると、漁民はその影響を漁業の不利 益として受ける。しかし、工場は汚染物質を出すことに対する対価はないため、 利潤を大きくするように排出してしまう。さらに排除することで得られる対価 よりも、その排除に費用がかかるため、結局は排除をせずに社会は外部不経済 をうけいれざるを得ない。 漁民の被害を考慮した場合の生産量は工場の利潤最大生産量よりも小さいため、 その分の過剰生産が社会的になされていることになる。 そこで両者の間の削減交渉を次のように考える。 【コースの定理】 「外部性の出し手と受け手が交渉自体に費用がかからない、情報の非対称性が ない、交渉が守られるという前提条件の下で行われる場合、常にパレート効率 的な資源配分を実現する。」 このとき、受け手が出し手に削減交渉をする場合と、ある地域に新規工場を建 設するときに出し手が受け手に削減交渉を行う場合とでは最終的な生産量は等 価(x*)となる。 しかしこれは先に挙げた条件の下での話であり、実際には交渉がうまくいく事 はまれで、外部費用の内部化といったものが行われる。 【外部費用の内部化】 1)排出割り当て 各工場に排出量の上限を割り当てて排出を規制するものだが、実際には多くの 企業に適切な排出量を割り当て、さらに、それを立証、遵守させることは困難 である。 2)ピグー税・ピグー補助金→2点セット政策 汚染物質の発生源に課税、または削減に対して補助金を出し、経済的なインセ ンティブを与える政策である。 短期的な問題では、両者はどちらも同様に最適解(x*)となるが、長期的な 問題では結果が異なる。 ピグー税を課す場合を考えると、限界費用の上昇により企業の退出が起こり、 社会全体の汚染物質排出量が削減されるのに対し、ピグー補助金を与える場合 では、平均費用が課税時より下がることで、社会全体の排出量が増加すること が起こり得てしまう。したがってピグー税の方が社会的に望ましく、これを汚 染者負担の原則という。 ここで、削減ではなく汚染物質の除去作業に補助金を与えることを考えると、 工場は財の生産量に影響しないためこれを受け入れ、社会全体の汚染物質量は 減少する。したがって、ピグー税による排出量削減と補助金による除染作業を 同時に行うことが望ましく、これを2点セット政策と呼ぶ。 ■公共財 公共財の性質としては、排除不可能性、非競合性が挙げられ、排除費用が高く 混雑費用が低い財として位置づけられる。混雑費用が低いというのは複数の主 体が同時に財を消費してもそれ自体の効用がそれほど影響を受けないというこ とである。 【サミュエルソン条件】 公共財Gを生産するために私的財cG(c:限界変形率)の投入が必要であるが、 消費者は財の投入に関わらず消費することができると考える。パレート効率的 な配分は、各消費者の効用関数の傾きである限界代替率の和が、公共財の生産 関数の傾きである限界変形率と等しいことであり、これが公共財の最適供給の 条件となる。 【リンダールプロセス】 公共財の供給は過小となり、多くは政府が供給するが、最適な供給量と消費者 の費用負担の関係はどうなるだろうか? 消費者iについての公共財の価格ti円(リンダール価格)を決めるとし、効用最 大化問題をとくと、解は公共財需要量がすべての消費者で一致、かつ政府の収 支均衡という解になる。ここでは、 1.政府がリンダール価格の組を提示 2.価格に応じた需要量を政府に対して消費者が報告 3.需要量が不一致の場合はリンダール価格を改定 というプロセスを通して、消費者の需要量が一致するように均衡を定めるが、 実際には消費者が嘘を言って過小な報告を行う可能性が考えられるため、嘘を つくインセンティブを与えないためにクラークメカニズムという制度設計が行 われる。 【クラークメカニズム】 ここでは、各消費者の費用の負担額が公共財供給費用から自分以外の人の公共 財に対する評価を差し引いたものとして与えられる。このとき、虚偽申告をす ると誠実報告の時よりも消費者余剰が小さくなり、嘘をつくインセンティブが 働かない。なお、この時は消費者余剰分の費用は税金を使うなどして政府が負 担するという形になる。 この設計理論はオークション理論にも応用される。