■消費者とその行動仮説 ミクロ経済の主体は家計と企業だが、本章では家計の構造を消費者行動として 解説し、経済学の前提としての家計と、消費者満足度を表す効用の概念、そし て効用最大化により説明される需要の性質を扱う。 ミクロ経済学の立場は、人間の行動について仮説を立ててそれから導出される 式によって行動様式として捉える。利己的、合理的な人間像が仮定され、与え られた選択肢を全て熟知している、各選択肢への満足度をわかっている、最適 な選択肢を必ず選択するという前提の元で、制約条件付の最適化問題で消費者 行動を記述できる。 限定合理性(与えられた選択肢を全てわかっている訳ではない)、社会的選好 (世の中にいいことをしたいから消費する)、文脈に依存した消費など、行動 経済学では合理的利己的人間像への批判はある。ただ、利己的合理的人間像で 説明できることが多いことは事実。 消費者行動で捉えられているのは、どう所得を獲得し、消費と所得、そしてそ の組み合わせの問題などである。 ■消費者の嗜好とその定義 消費者の嗜好は選好関係の大小で表され、消費計画Xを消費計画Yより好む、ま たは好まない(英語的には「弱い意味で好む」)と表される。 消費者の仮定は6つある。 1. 利己性 消費者の選好関係は優劣がはっきりしている 2. 完備性・3. 推移性 消費計画は網羅的で大小が表現、XがYより好まれ、YがZより好まれれば、Xは Zより好まれる 4. 連続性 効用が非連続になるような選好は排除される 5. 単調性 消費計画の増加は単調的 6. 凸性 凸集合の嗜好の概念に対応している 1〜6の仮定を満たすとき、消費計画は無差別曲線で表される 選好関係は効用関数でも表すことが出来る、その効用関数は連続・増加・擬凹 な関数として存在。また、効用は順番には意味があるが、絶対値には意味がな いというのが前提。無差別曲線は効用関数の等高線となる。 ある所得のなかでどう振り分けるかが問題だが、まずN財でなく2財で考える。 代替率は、ある人にとっての1財を2財で測った代替率(リンゴ4個がバナナ2個 に該当のような意味)。無差別曲線上で消費計画が変化する時、1財の効用の 上昇分を2財の犠牲分で逐次割り算して表現したものが限界代替率。限界代替 率低減の法則は、量が多くなると効用の上昇分の変化も減少するという関係を 表す。 ■効用最大化と最適消費計画 所得と財の価格を考えたとき、予算制約を満たす消費計画の集合を予算集合と 呼ぶ。その予算集合の中で効用を最大化する問題が、消費者の効用最大化問題 。財の価格の変化で予算集合を表す予算線の傾きは変化する。予算線上が全て 最適消費計画である。内点が最適消費計画であるための条件は予算線と無差別 曲線のギリギリの交点で、数学的にはラグランジュ乗数法で導出される。 ■所得変化と需要 需要関数は、第i財の需要量は、全ての財の価格と、所得による関数で表され る。価格が変わらずに所得が変化するときの所得消費曲線(最適消費計画を結 ぶ軌跡の曲線)はエンゲル曲線という。エンゲル曲線はi財の需要と所得の関 係を表す。所得増加で需要量が増加する財を正常財、所得の増加で需要量が減 少する財を下級財と呼ぶ。所得弾力性が0以下が下級財、0〜1(需要増加率が 所得増加率以下)が必需財(食品など)、1以上(所得増加率以上に需要が増 大)を奢侈財(高級品、教育など) ■価格変化と需要 価格が変化して所得が変わらないときを考えると、所得消費曲線は需要曲線で 表される。価格上昇にともなって需要量が減少する財を通常財、価格増加にと もなって需要量が増加する財をギッフェン財という。単位に関係なく考えるた め、価格弾力性で、価格増加にともなう財の需要量変化で考える。2財で、両 方の価格変化と需要変化が同方向ならば粗代替材、逆方向ならば粗補完財とい う。 ■価格変化と需要の要因分析 価格上昇が与える需要量への総効果は、代替効果と所得効果の足し合わせで考 えられる。代替財が小さい場合として、代替財がないもの(電力など)や価格 差が極端で代替しないもの(高級・一般ピアノなど)。所得効果が小さくなる のは、所得弾力性が小さい場合(お米)や支出割合が所得に対して小さい場合 (文房具など)がある。 ■個別需要曲線と市場需要曲線 市場は個別の消費者の総和。個別需要曲線の和が市場需要曲線で、多くは右下 がり。 ■応用例 労働曲線(賃金上昇と労働供給変化)、貯蓄額の決定(予算制約と機会費用を 考慮した効用最大化)などがある。 □質疑など ・価格弾力性は価格が変わって需要がどれだけ変化するかということでいいの か その通り。どうしても必要なものは価格弾力性が小さくなる。価格弾力性に関 係するのは、必要性と所得に占める割合となる。 ・最適消費計画の出し方は無差別曲線と予算線の比較だと思うが、補足が欲し い ある消費計画については必ず無差別曲線が存在して、財の組み合わせでの最適 消費計画であり、無差別曲線と財の組み合わせによる予算線での接点が最適消 費計画の点となる。無差別曲線は右上ほど効用が高く、効用が等しい点の集合 が無差別曲線で、斜めの線が組み合わせを表す。