2015年の研究座談会

物流を研究する

今泉孝章(M2)

▲ 忘年会です.先輩の皆さんお世話になりました.
羽藤:最初はどういうことで,オレのとこになったんだっけ?

今泉:B4のときは、都市計画のふわふわした感じが苦手で、交通がやりたくて、
でお世話になることになりました。研究室に入った感想は、入る前から難しそう
という印象で(笑、部活ばっかしやってたので、どこまでやれるかなと正直思い
ました。

羽藤:研究のはじめはどうでしたか?

今泉:最初はプログラミングを身につけろということで,京都のKRPで合宿でサ
ポートベクターマシンの実装を1週間やりました.先輩の伊藤さんの指導をうけ
て、なんとかコードが組めるようになって、そこから研究が進むようになりまし
た.なので,手が動くのは大切だと思います.卒論のときのテーマは健康医療福
祉都市における歩行行動モデルに取り組んで、移動負荷の概念をBCLASのセンサー
データから明らかにしていくということで、公園などのオープンスペースや街路
ネットワークといった都市の歩行環境によって歩く距離がどれくらい増えている
のかを研究しました。

羽藤:修士でテーマを大きく変えたわけですが.

今泉:研究室で外部の研究者を招いて毎月行っているBinNセミナーがあるんです
が,B4の夏に海洋大の兵藤先生の物流研究の話が心に引っ掛かって、2年間修士
でやるなら、そういテーマをやってみたいと思いました。

羽藤:未知のテーマだったわけですが。どう取り組んで行きましたか.

今泉:最初は、先生からShefiのUrban Transportを読んで最適化問題とネットワー
ク研究の作法勉強しなさいといわれて,その後,とにかくロジスティクスに関す
る論文を読んで、好きにやってみなさいということで始まりました.ネットワー
ク上の物流に対して研究としてどうアプローチするかについて,BinNセミナーを
もう一度ロジスティクスの関連でやったとき,維持管理というテーマについて議
論して,ネットワーク上の大型車の挙動と維持管理の最適化を組み合わせるとい
うテーマになりました.

羽藤:具体的には?

今泉:物流事業者の車両選択が維持管理に与える影響を交通ネットワークのダメー
ジという観点で捉えなおし、過積載を軽減し,脆弱な道路を通過するのを抑える
ために通過点制御をというアイデアを考えた.2段階最適化問題で、上位は政策
決定者、下位問題は事業者のネットワーク上の挙動を記述して、最後は首都圏に
適用しました。

羽藤:研究は手法論が大切だけど,どこが大変でしたか.

今泉:手法論的には、自分の研究では、メタヒューリスティクスを使った最適化
を用いたことが重要だと思っています.ロジスティクスの問題でどこに施設を配
置するかは離散的な問題なので、計算規模が大きくなります.ですから、現実的
な計算方法が必要になるわけで,メタヒューリスティクスでどう解くかに落ち着
きました.実装のポイントは近傍をつくらなくていいということです.結局クロ
スエントロピーに挑戦したわけですが,近傍の作り方によって解の精度が全然違
います.一般的な専門書でもそこは省略されていて,研究上のノウハウになって
いる.でもJounal paperでは、そもそも近傍そのものをどう作るかが重要な研究
になっている。CEは近傍の問題を,投げて、投げて(笑,で解決している。シミュ
レーテッドアニーリングは、理論系の研究者からみれば,何かしらの近傍があっ
て、確率的に解の改悪を許すことで無限解繰り返せば収束が保障されているわけ
ですが,実装側からみると,結局効率的な近傍をつくるのが課題ということにな
ります.


▲行動モデル夏の学校では,全国の院生の皆さんと一緒にモデル推定しました.

羽藤:アニーリングの実際は現実的な計算手続きの煩雑さがあるから.

今泉:パラメータの数も初期温度や温度の遷移、解の受理確率、同一温度の計算
打ち切り条件などとにかく設定パラメータが多いわけです.でそこまでは,本に
もいろいろ詳しく出ていてる.だけど,実際に危険物輸送の研究にM1の前半取り
組んでいて,神戸大で発表した内容で試してみたんですが,ネットワーク規模が
小さければ総当たりに近いので解けるわけですが、実際に実ネットワークで計算
可能かということについては実感が最後までなかった。この点クロスエントロピー
では,マルコフ過程で工夫することで問題の性質を取り入れるという意味で面白
いし、最適解の近さの評価も可能なので、チューニングパラメータもないので、
一番やりやすいと思って挑戦しました.

羽藤:とはいえ首都圏の実装は計算規模があるから工夫も必要だったわけですが.

今泉:計算規模については、首都圏へ適用して、まず解の候補集合を小さく絞っ
てるんですが、そもそもコードの書き方で並列化とかいろいろあるわけです.当
然CEを適用する上でもコードの工夫が必要になってきます。各ODに対して解の候
補を一個与えるわけですが、現実的な解を求めるということと、規模の計算を実
現する、その際の工夫という点では、そこにはまだ解決すべき課題がたくさんあっ
て到達していないと感じています.

羽藤:研究でおもしろかったのは。

今泉:先生と話していて,ネットワーク上のチェックポイント配置という研究ア
イデアが、政策決定者の意思決定と物流事業者の積載重量と通る経路の選択の按
分で、維持管理コストを誘導していく政策だと気づいたのは面白かった。従前の
研究では、単純に道路構造を強くするとか、ダメージ軽減のコンクリートの仕様
をどうするみたいな話はあったわけです.でも,過積載という現実の問題に対し
て、複数プレイヤーの意思決定問題としてネットワーク上の行動を現実的に制御
するというアイデアそのものはすごく面白いと思っています.特にコストと遵守
率、道路管理事業者と物流事業者の双方にとって現実的な施策としてのチェック
ポイントというのは研究の途中まで正直考えていなかった。過去の発表の中でも
通過点を義務付けることの意味はなんだとか、そんなのに従う業者がいるのかと
いうところがずっと引っかかっていたんですが,最後の修士の発表でもこの部分
を理解してもらえた感触があり、実現可能性のある施策として聞いてもらえたの
はよかった。

羽藤:研究でしんどかったのは?

今泉:プログラミングが大変だった。最後の修士研究の中間発表の12月が終わっ
てから、計算をやり始めたんですが、やりたいことはわかっていて、小さな計算
だと全然できるんです。そこまでは仮想で計算してたから出来てたんだけど、実
ネットワークはCじゃないと実装できなかった。で最後はできるようになってよ
かったです.

羽藤:将来は?

羽藤:物流がやりたいと思って、最初はBinN研究セミナーでおもしろそうとなっ
たんですが、本なんかを読んでるうちに、ロジスティクスの分野に進みたいと、
サプライチェインマネジメントで全部をやれるところがいいと思うようになった。
海運もおもしろいんですが、最後は船の話なので、荷物預かってこうですよじゃ
なくて、倉庫を持って在庫管理と輸送の付加価値をつけていくということで,船
も航空も鉄道も車もトータルでやっていけそうというのが面白いと感じています.

羽藤:学会発表はどうでしたか?

今泉:大学院では5本の論文発表を行いました.1回が国際学会です.国際学会
は発表は練習を何べんも付き合ってもらって指導してもらったので、なんとかなっ
たんですが、質疑は難しかったです(笑。ただ国際学会で発表して感じたのは,
計算が簡単な理論的な研究を発表したんですが,理論だけではあまり受けなかっ
た(笑.修士研究でやった実ネットワークの計算規模があれば、関心を持って聞
いてもらえたんだと思うのですが,ネットワーク管理事業者にとっても、物流業
者にとっても難しい問題という設定を理解してもらうことが、研究発表では
重要だと思います。


▲ゼミ旅行で長崎から島原,阿蘇,別府,道後,今治を縦走して,チーム今森で釣りしました.



羽藤:勉強の仕方で工夫は?

今泉:修士研究を終えて思ったのは、プログラムやるなら,最初にがちっと勉強
したほうがいい.最適化も同じです.ひとつのことを打ち込んでやったほうが身
につくし,大事ではないでしょうか.Shefii本を先生から渡されて,Urban
Transportは読み込んだので,ちゃんと身についた気がする.修論の最後にも使
えたのでよかった。終わって初めてわかるというのは確かにあるんです.でも、
やっていくうちにちょっとづつ、わかってくる、わかる部分が増えてくるという
のもある。たとえば,最初はVRPと配分の切り分けがよくわかんなかった。計算
のフレームがこんなに違う、みたいなことがわかんなかった。それがわかるよう
になったのは、結局最後に実際に計算してそこがわかった。手を動かすことが大
切だと思います.

羽藤:考えてわかった気になってるのって,薄い理解だから.体でわかるみたい
のはわかる気がする.大きな計算をすると,計算するためのアルゴリズムの工夫
が重要だったりするんだけど,そこまでやると.初めてここのリンクをきると,
何が起こるみたいなことが計算しなくてもパッとわかったりする.

今泉:勉強の仕方は、がっとやる、ちゃんとやるが大切で、僕の場合、M1の最初
にゼミを集中的にやるということで、自分の発表として,ゼミの準備をちゃんと
して,ゼミに備えてやったのはよかった。発表するためには自分が理解しないと
いけないと思って集中してやれたように思います.

羽藤:印象に残ってるのは。
今泉:羽藤研のゼミはヤバイ(笑。修士1年の夏学期のゼミ数とトータルの時間
が信じられないブラックさで、朝7時から、休憩して夜11時までやったじゃない
ですか。確率過程、メタヒューリスティクス、論文ゼミ.本当にヤバイ.でも,
国際学会に参加して気づいたんですが、キーノートセッションでアジアでは人材
が育っていないという話があった.欧州ではそんなことはないという話があった
んですが,なんでかというと.

羽藤:MITはCivilの中でplanningの半分はORで,数理得意な人はORに行くんだよ
ね.実装も理論も基礎からやってて,頭でっかちでもないし,現場主義というだ
けでもない.知的ゴロツキが多い(笑.

今泉:ORの学科が海外にはあることが確かに大きいのだと思います.アジアはこ
の点が弱い.国際的に分野の発展過程は確かに様々ですが,日本はバブルの3K
から情緒的なイメージに移行していってる印象です.欧米は学科があって、理論
づけされてて,ちゃんと実装まで取り組んでいる.日本はそこが弱い。

羽藤:最後に一言。

今泉:後輩の人には、やるなら自分が面白いと思ってやれるものがいい。自分が
打ち込んでいることで,周りの人にもいい刺激を与えられる。どうせやるなら集
中してやったほうがいい。僕自身が停滞した時にまわりの人が一緒に考えてくれ
た.勉強しているのは自分で楽しい、輪読もそう。でも研究は難しいなあという
印象が強かった。だけど集中して取り組んだとき、何かできなかったことが,出
来てく感じがあって、自分で手を動かすと感じが変わってくるのかなと初めて思っ
た。停滞していると気も進まないんですが(笑。研究は3年やって、もっとたく
さん手を動かして、やればよかった。進まない時期があった。穴をあけたところ
とかは心配かけて、自分勝手で、同期の若林や先輩に迷惑をかけたと思います.
社会に出たら、そのへんのことは大きな課題かなと思います。本当にありがとう
ございました.