2014年の研究座談会
デザインと数理の間
大山雄己(M2)
▲ 修士設計では均衡の概念を適用して都市空間の「際」を設計提案しました.
羽藤:修士設計終えてどうでした. 大山:とりあえず設計と理論(論文)両方最後までやれてよかったです.ちゃん と結びついたかというとあれですけど,論文だけやってると,理論と設計のフィ ードバックの流れでこうやって動かせるんだっていうのが見えた気がします. 羽藤:具体的には? 大山:最初歩行者を考えて,去年の今ぐらいに松山の都市計画マスタープランを たてていって,そこから駐車場と施設が近過ぎて,現実的には町を歩いてくれな いという現実に対して,都市空間の滞在時間を延ばすために,きれいな街路を設 計するのもいいけど,駐車場を都市空間の中でどうにかすべきだと感じた.PP データによる行動履歴の分析をはじめて,そこから均衡配分で目的地の距離と駐 車場と空間のモデリングをして,活動領域をモデル化した.で分散している駐車 場を集約することで,人が歩くようになることを(単純なネットワークで)理論 的に示した.修正設計の敷地でプランニングした活動領域は,街路空間の質や駐 車場の配置で変わっていくというコンセプトで,ひとつのまちなかではなく,界 隈の単位がそれぞれ設計理論でそれぞれ設定できるという仮定を置き,そこから 都市のエントリーポイントとして駐車場と商店街の街区を設計したというのが修 士設計の内容になります. 羽藤:修士から羽藤研にきたわけだけど. 大山:震災があって,先生から頼むと言われて10月からBRTの計画を山崎た ちと一緒に黒子的に始めて,卒計が終わってから,すぐにまた被災地の資料をつ くることに関わった.僕は小学校と中学校を考えたんですが,小学校をまちの中 心に考えて,避難動線を日常生活の中で考えて,街路が建築という卒計だった. 被災地では学校の統廃合の動きがある中で,敷地設定して,最初のプランを考え て,アップルロード沿いでは車をどういれるか,アクセスさせるか,道路に面し ているところと,海に面しているところを二つの島の機能を考えて,建築計画を 考えた.あの議論から,内藤さんとも一緒に現地に行って,現実のコンペになっ て,今学校が設計されている.▲伊藤君と一緒に頑張りました. 羽藤:女の子が東北に関心持たないから,男子も復興にいかないんだとか.は 名言だったな.笑. 大山:修士1年の4月に街路や広場デザインやりたくて羽藤研に入ったというこ とで,柿元さんが修論でやっていた渋谷の回遊行動分析をまとめてまずは都市計 画学会に投稿した.5月はレモン展と風景づくりの松野の蛍の畔道をやって,何 をやるかという,研究テーマがなかったので,どこにつなるんだというのはなく 参加していました.街路空間の改編事業に加わって,実際に現場でデザインWS に参加していくような入りでしたね. 羽藤:やることを決めた後に見る風景と,目的を決めないうちにみてきたものと では,後者の方が地力につながるような気がする.現場ではいろんなことが起こ るから. 大山:実務に関わる中で,うまくいかないのが実務という気もしたんだけど,あ そこは特殊だった.地元の声があがってこない中で,歩いて東と西が違うと感じ たわけですが,WSに入るとそのことが議論の対立を生んでいたように思います. 空間に対してどう思っているかが顕れていた.東は汚い,でもそれは住んでいる 人がいるから生活景がにじみ出ているからで,街路に結びついて暮らしていると いうこと.だからWSで反発もする.西側のような人たちだけなら事業は進むけ ど,味気ないことになる.街路空間の難しさを感じることができた. 羽藤:トップダウンで変えてしまう方法もあるけど,一人ひとりと合意を重ねあ わせて庭のような一本の街路つくりたいというところから出発してるから.ドブ 板デザインのがしんどくてもあの場所にはいいと思っている.欧州調査はどうで したか. 大山:研究室の欧州調査も参加させてもらって,あの調査も伝統的に研究室でや っていて,中身はすごいんだけど,カンポ広場だって,10日もいると慣れちゃ うんですよね.でも振り返ると,思いだす.ストラスブールの空間構成だって, トランジットモールを2つつくっていて,二つのLRTをエッジにしてオムドフ ェール広場にためて,路地に流す.そういう空間構成の妙はボローニャやシエー ナの面白さにもつながる.歩いた体験と,俯瞰する秩序が欧州調査の体験の中で 出来あがって行くのが面白い.日本で西洋を真似ろっていうのは単純だけど,や っぱり一定の真理があると思う.カンポ広場は美しかった. 羽藤:欧州の空間構成からは行動原理に沿った秩序が学べる.日本の地方都市に 関心があるけれど,柳川や近江八幡,福井や松山,地形的な制約や歴史が大きく て,欧州との違いはあっても揺すって抽象化することで日本の風景論の骨の太い ところにつながって行くと思う. 大山:僕自身,何も知らないのに,人のやっていないことをやりたいというのが 強いタイプです.研究も研究室入って,やり方がまずわからなくて,データも扱 えないし,しんどかった.勿論デザインと数理双方をやりたくて研究室に入った んですがそんなことは当然ですけど難しい.流動を分析してデザインに展開する みたいなのは,始めたばっかの頃はぜんぜんできるわけないんですよね.道具が 皮膚感覚になっていないし,それでデザインも硬くなってしまって,卒業設計や 陸前高田に取り組んでいた頃の柔軟性が喪われていた気がして,すごく悩んだ時 期もありました. 羽藤:得意なことばっかしやってると得意じゃなくなるってのがあるんだよな. 丹下さんもそうだけど,徹底的にスキルを取り込んで身体化させていくことで, 残る違和感みたいなものが本当の個性につながる気がする.そういや,グラウン ドでよくキャッチボール一緒にしてたな(笑.
▲竹内さんと野末さんにはお世話になりました. 大山:状況が変わったのは,デザインコンペをやって,〆切があるからデザイン をちゃんと考えられた.それから芝原くんが研究室に入ってきて街路空間の再編 プロジェクトをやり始めて,仲間が増えたこと.それでも自分の研究がはっきり しなくて,卒論を終えたM1も進みはじめて,悩んでいた時期に論文を兎に角読 んだ.都市構造の仮設が最初にあって,最適化や確率過程のゼミがあって,夏に 研究計画書つくって,先生に見せて,離散連続のコンセプトをたてた.で,秋大 会に向けて準備を始めた.Lamさんの変分不等式で,赤松さんの論文と,均衡 配分の教科書を読んで勉強しました. 羽藤:プログラムも勉強してたね. 大山:Javaは楽しかった.変分不等式なんかは,もともと数学が好きっていうの はあって,答えが出るっていうのが好きだったんだと思います.他人が解かない 解き方でやる.それまでRで,Rは研究室に蓄積されているリソースが使えちゃ うんだけど,Javaだとスクラッチで組んで,デバックもあるけど,いい書き方を すると速くなる.数理とデザインっていうのは,数理側から言うと何時間だみた いな答えが出てくるのが,それがそのまま使えるというのが大きい.歴史も生活 も過去から積みあがってきたものでいろいろ言える.でもじゃあ現代の人はどう すればいいかと考えるには説得力がないですよね.それだけじゃ.そこで最適値 はこれっていうのが数値でいえることに意味がある.そのことが印象に残ってい ます. 羽藤:ゼミはどうだった? 大山:ゼミが一番,自分の考えを一から組み立ててやるっていうトレーニングに なった.何度もそれを徹底的に鍛えられた気がします.未だに難しいんだけど, 論理構成をいつも気にしている.僕は伝えたり,しゃべるは苦手だから,考えを ぱっと言えないから,逆にちゃんと論理をつくらないといけないと,大切にと考 えている.でも先生があるとき,大山の発表はまだダメだなみないな話を言われ て,ヤバイと感じたことがあった.それ自分ですごく自覚的になった.心がけと して,今でも意識的に気をつけています.
▲土木計画学の公共政策コンペに応募して受賞しました. 羽藤:研究室でやってるデザインやプランニングについてはどうですかね. 大山:うちの研究室は,社基の景観設計でもないし,都市のようなまちづくりで もない.なんて言ったらいいか,,空間の構造や配置を理解して再編集して自分 たちで動かそうしているという感じがする.そこがよそと違って面白いと思うん だけど,建物設計というより,広場や街路,駅舎といった公共空間と都市そのも のをやっている点が決定的に違うと思います.行政と一緒にプランニングから考 えてるところも強い.交通を専門としつつも,個人的な興味として,街路設計を 考えたり,建築家と組んでやっているように見える.その反面,牧野富太郎の道 づくりや松野目黒の蛍の畔道のように地域に根差している活動もあって,兎に角 現場があって動いている.建築との違いは,敢えて自分は表に立たないというこ とだと思う.被災地では先生はそれが徹底してる.無名で名なんて残らなくてい いという姿勢が印象に残っています. 羽藤:これからはどうですかね.春から博士課程で学振特別研究員ですけど. 大山:街路設計で現地で社会実験をやることで,現場で計画して設計してデザイ ンによって変化した街路空間を体験できた,大きくはない社会実験ですが,自分 たちの関わっている空間計画が実現した体験に感動した.そいう中で,まずはモ ノを作りたいと思っています.まちなか広場も考えていたことに近いので,ちゃ んと関わって,現場で担当の人と話してやりたいなと感じている.空間をつくる のは夢なんだけど,やれそうな研究室で,大学でやるってことを決めたから,空 間をつくるってことを決めたところで,ひとつひとつをちゃんとやっていかなき ゃいけないなと感じています.ありがとうございました.