2012年の修士研究座談会

2012年まち大修士研究のまとめ

野末遥


▲修論提出(まちへの愛着と回遊行動に着目して神戸の街路空間デザインについて考えました)

羽藤:修士研究ごくろうさまでした。どでしかたね。
野末:楽しかったです(笑)。

羽藤:それは何より(笑)。つか修論のテーマってどうやってきまったんだっけ。
野末:修士研究のテーマは結構悩んで、ゼミを3回くらいやってく中できまって
いきました。先生の研究室に入りたいという希望を出したときは、行動圏域と施
設の最適配置と言っていて、その後、なぜだか幸福論の話がでてきて(笑)。モ
ノがあっても楽しいわけじゃないみたいな先生との話の中で、ローカリティとか、
人と人のつながりとかが重要じゃないかとなった。マックとスタバは何が違うか
という雑談めいた話の中で、店を訪れたとき、人が覚えてくれているのが重要じ
ゃないかということを議論しました。チェーン店は強い力を持っているけど一般
化されすぎてると。で、そこからお母さんの話になりました。私の母がやってい
る未就学児童向けのコンサートがあるんですが、そのままでは、行きたくても行
けなかった人がコンサートに来れるようになった。そこで新しいネットワークが
生まれていた。もちろん母自身のネットワークも広がっていった。場が成長して
いる。それがおもしろいと思って、修士研究のテーマが決まっていきました。

羽藤:わりと時間をかけてテーマ決めていったんだけど、そこからコミュニティ
FMの人間関係の分析で学会発表して、、学会はどうでしたかね。
野末:学会では、緊張したんだけど、先生からは見えないとか図太いとか言われ
ますが、緊張しました。学会で話す前は、自分が面白いと思っていることを、他
人がどう思うかが私には正直わからなかった。でもいろんな研究者が、私が提示
した紐帯の質という視点に関心をもってもらえて、質問が沢山でたんですよね。
着眼点は間違っていないとわかって嬉しかったです。

羽藤:その後は、、
野末:そこから、人と人のつながりや、つながりの質が、まちの空間移動にどう
いう影響を与えているのかを分析したいなということになっていきます。神戸を
対象にしようと先生と話して、神戸は実は研究で初めていったんですが(笑)。
横浜に近いという感じで行ったんだけど、まず海が見えないんですよね。高速道
路で分断されているし、歩ける距離なんだけど全然歩けない。海も山もあるんで
すけど。そこを研究対象に出来ないかと思いました。商店街ひとつとっても、元
町とセンター街で同じように見えても人の量が全然ちがう。そこがおもしろかっ
た。で結局東京から神戸に4回通いました。

羽藤:戸叶とか伊藤くんとか一緒に現調するとおもしろいよね。
野末:アンケートとプローブパーソン調査を自分で手を動かして調査票もつくっ
て、私は最初モデルがなかなかできないということもあって、ライフヒストリー
をやりたくて、神戸で暮らす人たちの価値観を丁寧に聴けたのでよかったです。
あとはメンタルマップですかね。それと神戸の人は神戸にプライドがあるんだな
というのもおもしろかった。私が東京から来たということがわかると、神戸はき
れいでしょと言われて、、きれいなままでいてほしいとか、こういうデザインを
貫いてほしいとか、いろいろ要望をおっしゃられるんですよね。観光地としての
位置づけもあるんだなと気付かされた。あとは、おじいちゃんが山の方に住んで
ると大変とか(笑)。

羽藤:斜面地の生活感とか、インタビューで向き合うといろいろみえるというか、
修論はちゃんと書けましたかね。
野末:修士論文そのものは、最初は一文字も書けなくて、1章、2章は書けるん
ですが、結果をみても全体の流れからどう結論づけるかが難しい。そこで、まず
一個一個得られた結果について文章を丁寧に積み上げていって、最後に提出2週
間前にやっと、ああ私の研究はこういうことだとわかった。でも、最後のジュリー
のときに、結果が出ていないところに何かあるんじゃないと言われて、わかった
と思っても、まだ自分が理解していないけど隠れたおもしろいところがあるんだ
ろうなと思いました。わかりやすいところがわかっただけなんですよね。勿論今
まで、普通のアンケートでこうだと言われていたところの検証が統計的にちゃん
とできたことは大きい。でも、それ以外のところで、新しい仮説が出そうだった
から、おしかったというか、結論のところで、新しい提案が出てくると、、北川
さんの論文なども初めに読んでおけばよかったと後で気づきました。

羽藤:疑似最尤推定、回遊行動の方だっけ、まち大では何が大変でしたか?
野末:働きながらだったので、体力的に大変でした。だけど、私の中では会社と
大学の間でいいリズムがあって、私は歩くのが遅くて本郷三丁目から30分かか
るのですが(笑)、その間にうまく切り替えができたように思います。学校はす
ごく楽しかったです。研究のことなんかでとりとめないことを考えていられるこ
とがとても楽しかったですね。私の場合学生時代の専門が違っていて、まちづく
りについて何も知らない状態で入学したので、講義のたび、こういう考え方があ
るんだなというのがわかっておもしろかったです。

羽藤:おもしろい講義ってあったですかね。
野末:羽藤先生の講義でビビっときったんだけど(笑)、下水道の講義はおもし
ろかったですね。表面的なデザインだけではなく、見えないところの都市構造が
分かった上で実務をやりたかったので、下水道がおもしろかった。あと観光の講
義はよくわからなかったですね。個別ケースの紹介はあるんだけど、どうやって
汎用性のある答えにつながっていくかが見えない。

羽藤:ツーリズムデザインでは、場そのもののデザインが大切なんだけど、現場
でツーリズムデザインをいくらやってみても、こうやればいいという一般解がみ
つからない。広報や整流化するための紐帯のデザイン、イベントの設えといった
部分には定石みたいなものはあるけど、量ではなくて、質の議論をしようとする
となかなか難しいように思う。野末は運動神経がいいから向いている気がするけ
ど。
野末:まち大はいろんな分野の人がいるので、演習が楽しかったです。鉄道を走
らせたくも、そういうアイデアの現実味がわからない。鉄道会社の人がいればそ
の議論ができる。学生の時は、遠慮なくこんなに言わなかった。会社でも言わな
い。何でも言えるかんじがまち大はよかったように思います。研究室では羽藤研
を志望して先輩から説明をうけたとき、自力でプログラミングを勉強してくださ
いと言われた後で、福山さんが私も最初はできなかったと言ってくれて、せっか
く研究室に入るのだから、ちゃんと勉強したいと思った。何かやりたいと思った
んですよね。

羽藤:そんなもんかね。これから何がしたいですか。
野末:まち大に入ろうと思った時、自分がお客さんに住宅を提案するのに、高齢
化社会でいつまで住み続けられるのかと考える機会があった。日本は震災が多く
て、資源が少ないじゃないですか。震災の前から、復興なのかなと思って。復興
の過程を観ていて、海外でも起きていて、建築家の人は入って行くけど仮設住宅
だけじゃないはずで、まちづくりの観点で入っていけるといいのではないか。そ
いうのは海外や、都市の改変の応用ができるのではないかと考えています。

野末:最後に逆質問ですけど(笑)、先生はまち大生に何を望んでいますか?
羽藤:えーと、フルタイムの学生と実はあんまし変わらないんじゃないかな。旧
いレガシーのシステムにすがるよりも、今この世はない新しい職業を作っていっ
てほしい。アメリカでは65%の小学生は今この世にない職業につくっていうから、
そいう新しい職業をつくってほしい。あと自分のために、ささやかでいいから、
都市に対する個人的な理解を深めてほしい。研究は楽しいから。一緒に楽しめる
といいなと思う。これからも頑張ってください。
野末:はい、ありがとうございました。

▲しまなみに調査旅行:コミュニティFMで仙九郎さんとラジオに出演。