2010年の修士研究座談会
2010年の修士研究のまとめ
松村草也,浦田淳司,樋口智幸,山川佳洋,北川直樹,藤井敬士,羽藤英二
羽藤:2010年の修士研究もようやく終わりました.今日は皆さんに2年間
を振り返ってもらおうと思いますのでよろしくお願いします.
羽藤:研究室はどうでしたか.
山川:楽しかったです(笑).3年生までは身についてなかったという
か単位取れればいいかじゃないんだけど,そいう感じだったのが,研究
室に入ってからの方が圧倒的に密度が濃いというか,そもそも毎日研究
室に来るっていうのが最初はマジかって感じだったんですけど(笑),
それが普通になっていって,でもまあ他所の研究室は来てないんですよ
ね.まあうちはまじめっていうのとも違うんですけど,そいうのもあり
かな.というかせっかく大学に来たから,みんなと仲良くなれたってい
うのは一緒にいた時間が長かったからでしょうし.他の研究室は苦しい
こともないけど,そのかわりにああいう楽しいこともないんじゃないで
すかね.ま,苦しいことも,まあ耐えられる人にはお勧めですね(笑).
羽藤:山川君のタイトルは「選択肢の認知-学習過程を考慮した都市空
間における経路選択機構の分析」っていう都市工には珍しい基礎研究だっ
たわけだけど.何が一番大変でしたかね.
山川:4年のときはプログラムすらわかんなくて,兎に角大変でした.
でもコンピュータ関係に就職しちゃうんで,まあ自分が言うのもなんで
すけど(笑),プログラムっていうのは,兎に角思わぬことでつっかえ
て,経験値がないときはバグとりで一週間くらいかかって,M2になる
とぜんぜん大丈夫なんですけど.それと,M1のときは5月に論文投稿
が続いて,3本書いたんですけど.あれはしんどかった.交通工学の論
文が一番大変でしたね.推定結果がぜんぜん出なくて,先生と一緒に徹
夜で,夜中の12時過ぎから結果がうまく出ないので,データから細かく
調べろって言われて,だんだん細かく元データまで辿って数値を調べ始
めたら,所要時間の分散が6万って,フリーザみたいな数値が出て(笑).
それはグラフにしたら,その数値を除くとペタンとグラフがちゃんと表
示されて.思わず,「先生,ペタンと!」みたいな,叫び声をあげまし
たね.
羽藤:一緒に昼くらいにタクシーで学会まで行って投稿したなあ.あの
ときのビールはうまかったね.
山川:最初の方は,卒論とかわりとすんなりいったんですよ.EBA
モデルまでは.でも,その後は迷走した感じがあります.最初は選択経
路が列挙できないっていう問題があって,n-GEVに行って,就活が終わっ
たらDDRに突入して,やってみたんですけど,よくよくやるとあんまし
たいしたことがなくて,バーチャルネットワークだって,アイデアが
出たときは盛り上がったんですけど,時間コストが正ででちゃうから,
参照点をベースに足し算引き算で差分方程式に近いモデルに変更したん
ですよね.で,選択メカニズムを掘り下げていった.なんでかっていう
と差分でみたから,差分っていうのは認知なんで心理的な機構に関心が
行った.それで通勤トリップの経路選択のday-to-dayの時間変化のメカ
ニズム分析をやったら,まあ結構おもしろくて,修士研究はそれをメイ
ンにやった.プログラムはいろいろ作ってトライしたんだけど,後輩に
バーチャルネットワークは歩行者なんかでやってもらいたいなあ.
▲欧州の研究旅行で広場や街路構成のデザインサーベイをシエーナのカ
ンポ広場で行った後の風景.都市寸法は奥が深い.
羽藤:国際学会はどうでしたか.
山川:学会っていうか,一人で海外旅行って感じですかね.先生がこれ
なくなったし(笑).準備はちゃんとしていったので,なんとかなりま
した.質疑もまあ一応なんとかなって.でも,一番よかったのは他の大
学の先生とか他大学の学生さんと仲良くなったことですね.それはおも
しろかったです.まあでもお金が足りなくなって,腹痛になったのが大
きかったんですけど.クレジットカード僕はもってなくて,もう詰んだ.
みたいな感じで,精神的にショックを受けてお腹いたくなって(笑).
それと先生やみんなで行った欧州調査は,まあ楽しかったですね.実際
調査やって,せっかく欧州きてなんでこんな調査やってとか思ったんだ
けど,街路ネットワークの調査で裏路地の方までいったのはおもしろかっ
た.ぱーっとツアーなんかで歩くんじゃなくて,じっくり広場とか街路
とかネットワーク構成も含めて測量していく.だんだん地図なくてもい
けるようになって,ああいうのはいい経験だったような気もします.ま
あそもそもシエーナとかバルセロナとか場所がいいってのが大きいけど.
羽藤:最後に後輩の皆さんに一言お願いします.
山川:最初はやれるだけやる.ですかね.で,先生との打ち合わせを全
力でやる.で,やっぱり最後はやれることやれないこと判断をしなくちゃ
いけない.だからプログラムやモデルの勉強を最初にやったほうがいい.
後だと時間がない.最初にわかんないこと,理解していないことは,後
の方で取り入れることはできないから.意外に時間が短かったかな.就
活のときに,3ヶ月くらい結構専念させてもらったので,あそこが大き
かった.M2になってからの時間が短かったか.研究自体は大変だった
けど,研究室で,適当に仲間と息抜きがてら,チキン南蛮とかつくって
自炊してたじゃないですか.あれよかったかな(笑).
羽藤:都市における基礎研究って,現場で本当にものを考えている人に
は案外役立つけど,茶番を演じている人には無価値なんじゃないかとか
思うんだよね.システムとしてコンピュータブルであることと,抽象化
した理解とをどう結びつけるかっていうのは,もうひとつ壁があって,
だけどプローブパーソンみたいな技術でやってるからそこの縛りははず
せない.まあでもその制約条件があるからバーチャルネットワークのア
イデアは出てきた(笑).マルタで国際学会デビューもしたし,システ
ムに落とす上でアルゴリズムでもう一押しあってもよかったと思うんだ
けど,ファクトファインディングがしっかりした研究になって立派だっ
たと思います.おつかれさまでした.
▲行きつけの本郷Kにて
羽藤:北川くんは「移動空間の更新に伴う歩行者と自動車の相互規範の
変化」というタイトルだっけ,修士論文どうでしたか.
北川:けっこう,僕は手抜きしたがりというか,引き算で効率的にやり
たがる方なんですけど,先生のチェックが細かいっていうか(笑),8割
わかっていればいいじゃなくて,全部わかったっていうところまで,あ
やふやなことを残さないで書くというのが大事なんだってことを学んだ
気がします.駄目なことは駄目っていうし,いいものはいいって言って
くれる研究室なので,そこもよかった.環境が変わったけど,なんとか
乗り越えられたのは,異動したりしたときもなんとかなるって自信にな
りました.
羽藤:空間と規範っていうテーマはどうやって決まったんだっけ.
北川:テーマそのものは,僕自身が最初は空間設計に関心があって,ちょ
うど先生が設計協議してたので,道後の広場はどうだってなって,スケー
ルは小さいんだけど,おもしろい空間を扱えたのでよかった.暫くする
とゲーム理論でアプローチできないかみたいな話になって,当時ゲーム
をやっている人が研究室にいなくて,econometricaとか自分で読んで,
原さんもいなかったし,まったくわかんないんだけど,研究室で自分の
得意分野が早いうちにできていった.しかも対象が興味のある広場になっ
ていって,研究がうまく続いたんじゃないかと思います.
羽藤:一番たいへんだったのなんですか.
北川:ゲーム理論は兎に角当時は研究室で先生以外誰もやっていってな
かったので,推定問題で組み合わせ数も多くなるし,すごく困った.最
初はおもしろかったんだけど,そこで行き詰ってしまって,そこはゼミ
とかセミナーに参加して,参考文献を孫引きしての繰り返し.そのあた
りでなんとか突破したかなあ.
羽藤:よく突破できたね.
北川:福田さんの研究セミナーとかは,先生にセットしてもらって,完
全に僕ためにやってもらっているような感じで,だから質問もすごくし
た.最初3次元とかいっていてあまり研究としては駄目で,でまあゲー
ムおもしろいし,ゲームで行こうという感じは揺るがなかったですけど
(笑).
羽藤:学会はどうでしたか?
北川:ちゃんと外向きに発表するって機会は大事じゃないかと思います.
ポスターもいいんだけど,やっぱり長い時間,みんなが見てる前で話し
て質疑応答してって,いい結果を出せると自信につながるかなと思います.
羽藤:おもしろかったのは?
北川:行動モデル夏の学校とか,即日設計みたいな感じっていえばいい
んですかね.グループワークっておもしろいです.研究って個人で行わ
れるんだけど,みんなが同じデータを眺めて,方針決めて,分析でそれ
ぞれの観点でやって,データをどう料理するのか.ってのを味わえたの
はよかった.こうやってモデルをやるんだっていうのを原さんにRを教
えてもらえたし.あとは昨日おもしろかったです.思いつきでレンタカー
借りてみんなでIKEAとか(笑).あとわりと最初のジュリーでアイ
デアを一緒に面白がってもらえたのは大きかったかも.怒られもしまし
たけど
羽藤:まあ駄目なことは駄目だからなあ.でもあのペイオフマトリクス
で広場の行動を書いてゲーム的に表現って,均衡解として解釈できるっ
ていうのわかったときはおもしろかった.後輩に一言お願いします.
北川:わからないことは,わからないとちゃんと言うことがまず大事じゃ
ないかと思います.M1とかのうちはプライドとかもあると思うんです
けど.最初はゼミでぜんぜんわからない.わからないことをそのまま放っ
ておくと伸びない.だからそれを捨てて,みんなに尋ねると教えてくれ
るし,そこから広がっていった.数式とプログラミングが最初は使えな
くて(笑),周りからは飲み込みが早いみたいに言われたんだけど,文
献紹介してもらったり,サンプルプログラムもらったり,そいうのがあ
るとやりやすい気がします.(笑).
羽藤:時間と空間が生み出す規範というところから出発して,実際にあ
の頃は,僕が委員長で道後温泉の駅前広場の設計協議をやっていて,そ
こめがけてゲーム理論的なアプローチで空間かえたら規範がどうなるみ
たいなことを考えようとした研究だった.実際にシミュレーションやっ
て設計協議でも見せたりしたし.だけどそいう直接的なモデリングの使
い方はそれなりに成果をあるんだけど,よく空間で起こっていることを
眺めて,そこから理解できることを丁寧に理論的に積み上げていく,そ
ういうことによって初めてわかることもある.そうやって空間と行動の
関係を理解することが,大切な場合もあるんじゃないかと思いました.
▲行きつけの本郷Kにて
羽藤:樋口さんもようやく修士研究終わりましたが,どうですかね.タ
イトルは「ハバナ旧市街・密集市街地における二層の街路空間システム
の再開発とその評価」だっけ.
樋口:なんか,まだ一区切りついたかなって感じもしないですね.キュー
バとの関わりは続いていくんでしょうね.これはそいうことなのかな,
自分自身続けていきたいなあとは思っているんですけど,どんな形にな
るにせよ,やりのこしたこと,やれてることがまとまっていないので,
都市計画学会なんかでまとめて行きながら考え続けていきたいな.と思っ
ています.
羽藤:何がおもしろかった?
樋口:現地調査行ってからですかね,最初仮説をたてていたのと話がぜ
んぜん違っちゃったんで(笑),まあそれはそれであの国らしいので,
その中で,歴史を調べて始めて,結構おもしろかった.今まで,歴史を
しっかりやったことはなかったので.それを現代まで引っ張る力がまだ
足りていなかったかもしれない.
羽藤:現地調査の印象は.
樋口:現地調査は商売柄いろいろいってるんだけど,一箇所にあれだけ
とどまって,あれだけいろんなことをやったことはなかったし,今まで
知ろうとしなかったことが見えた気がしています.
羽藤:研究なんかでもテンプレートがあって,そこに当てはめていくよ
うな拙速な研究があるんだけど,それだと届かない領域があって,長い
時間を経て始めて見えてくることがある.普段,記者さんやってて,締
め切りがあって,記事にしないといけないといけなくて,取捨選択をし
ながら次の質問を考えて,次の取材ソースにアポをとっていく.そうい
うと違うかな(笑).
樋口:うーん,違うとこもあり,同じところもあり.研究なんかで,何
もかも自分で決めるというのは,本業とは違いますよね.仕事は自分で
決めているようで,自分で決めていないので,そこが大きく違う.現地
では,なるようになるというか,出てきたもので,向こうも精一杯対応
してくれるので,その中で料理法を考えた.そういう反射神経みたいな
ものが,あの国で生きていくには大切な能力なんじゃないかなって感じ
ますね.予定通りにいかないからってないものねだりしてもしょうがな
い.
▲ハバナにて2週間にわたるフィール調査を行った.歴史家事務所での
ヒアリングを中心に,広場や街路調査を実施.
羽藤:キューバ,なんでキューバだったんだろ.
樋口:なんででしょうね.縁があったとしかいいようがないんですけど
ね(笑).調査にはずっといきたいと思っていた.(先生と浦田君と西
夏さんの)4人は最強の布陣でした.一番印象に残ったのは「Se puede
descansar cuando muerte(死んだら休めるさ)」アジアの家博物館の
専門官の言葉ですけど,生の対話が本当に印象に残っています.修士論
文で引用しました.
羽藤:働きながら研究やることのつらさとかどうですかね.
樋口:全部の時間が使えないっていうのは織り込み済みだったんだけど,
でも,そこそこ納得できています.でもフルタイムの学生さんに比べる
と見劣りしちゃう感じがするかなあやっぱり.言葉の壁もあったかな.
脳みそが週末二日だけ切り替えるっていうのがなかなかしんどかったで
す.
羽藤:僕も会社時代は週末研究者をやってたんだけど,他の人と同じこ
とをやっちゃいけないのかなってのが漠然とはありました.研究は個人
的なものなんだけど,1週間に2日だけ研究をやっていて,それでも5年
くらいやるとなんか核になるようなものができてくる.で,その核がしっ
かりしてると,他人が関心を示してくれて,国際学会なんかで喋ると関
心をもってもらえるし,つながりができてきて,だんだんおもしろくなっ
てきたかな.
樋口:限られた時間でどこまでできるか.ってことですかね.
羽藤:建築の志村研究で一定の成果をあげていたハバナ研究に正面から
切り込んで,建築から都市へとまなざしを向け,キューバが選択しよう
としている人の暮らしを支える仕組みの改変に着目したんだけど,正直
職業を持っているのによくあれだけの期間ハバナにいたと思います(笑).
そして歴史家事務所恐るべしでした.一緒にキューバまで行って,ふと
眺めた夕暮れのMalecon通りの美しさが忘れられません.スペイン語は
難しい.西夏さんに感謝ですね. おつかれさまでした.
▲九州横断卒業旅行のときの写真.白水ダムや草千里にいった.
羽藤:浦田君は計画研から修士から移ってきたんだけど,テーマの経緯っ
てなんですか.「豪雨災害避難時における微視的な相互協調作用とネッ
トワーク複雑性」ってタイトルですが.
浦田:最初はソーシャルネットワーク分析っていう話で,M1の最初か
ら言っていて,それとゲームを平行してやっていました.最初にまちづ
くりを研究していた(愛媛大の)先輩の論文をよんでいたからだと思い
ます.
羽藤:いやそうじゃなくて(笑),確か,スポーツクラブのマネジメン
トについて卒論を計画研でやってて,ああいう研究は,一応資料を漁っ
て書けるのは書けるんだけど,外から調べてもちょっとピンとこないみ
たいな話があって,根岸くんの卒論みたいに自分で活動の中に入って皮
膚感覚をもって,そこから何か考えられないかみたいな話だったんじゃ
ない?人と人とのつながりみたいなこと.
浦田:でそこの解析ツールはSN分析,ゲームみたいな話ですかね.
羽藤:でボーズアインシュタインだよね.
浦田:金沢の学会があって,その準備でとびついた感じだったんだけど,
すごく難しくて,しんどかった.最初はネットワークの話とボーズの話
がなかなかつながらなくて,そのうちだんだん見えてきて,中間発表,
修論で悩んでるうちに,だんだんわかってきて,おもしろくなっていき
ましたね.物理とぜんぜん関係ないところで災害時の人のつながりのネッ
トワークが(理論的に)つながってくのがおもしろいなと思いました.
羽藤:一般の人に話すのは難しいですかね?
浦田:式だから,明確にわかる.っていうのはある.でも言語化するの
が難しかった.かみくだくのが難しかった.ミクロモデルは話せるけど,
ボーズ・アインシュタインの話はやっぱり難しい.
羽藤:修士論文の反省だけど,今だったらどうする.
浦田:最後はまとめるだけになっちゃったのでもったいなかったなあ.
12月以降新しいことをできなかった.夏,8月,9月のキューバで調査し
ちゃったから仕方ないんですけど.fitness modelのレビューがもうひ
とつできなかった.でも,京都の学会の前に擬似ノードを思いついてで
きたから,よかった.手法論としてはSN分析は変わらないので,テーマ
は人だと思っています.
羽藤:印象に残ったことはなんですか.
浦田:風景づくり夏の学校2008ですかね.一番印象に残ってる風景
は,竜神社と八木邸の間を歩いているときに仙九郎さんの歌声が聞こえ
てきたり,造船のライトアップ.最初行ったときの余所者扱いされるん
じゃないかって緊張感ですかね.
羽藤:これからの予定は?
浦田:今は,もう少し研究したいなあって感じがありますね.今までは
1年,2年スパンでしか考えられなかったので,5,6年スパンで考えた
い.
羽藤:後輩の皆さんに一言
浦田:あんましそいうの言いたくないほうなんで.まあ楽しく元気にや
るのが一番ではないかと思います.積極的にやるのは案外,週報ひとつ
とっても送るのが消極的な理由で難しかったり,そういうのは,何にも
進んでないから送らないみたいなことは,循環しないし,もったいない
んじゃないかと思う.先生と接する時間が重要なので,うまくそういう
時間を大切にしたほうがいいんじゃないかと思います.どっちみち怒ら
れるんだったら(笑),質問したほうがいい.研究室なので,研究が進
んでないとやっぱりどこかで負い目になっちゃうし,いい論文にめぐり
合うかどうかも運だけど,大事じゃないかなと思います.
羽藤: ボーズアインシュタイン凝縮からηを引っ張り出して確率分布
をn-GEVタイプでモデリングするアイデアまではよかったと思います.
パラドキシカルな現象に集約させて現象を確認するところまで追い込ま
ないと普通の人があーそいうことかと理解するには至らないので,でも
こういう研究を最後まで攻めきったのはよかったと思います.おつかれ
さまでした.
▲行きつけの本郷Kにて
羽藤:藤井くんは修論はどうでしたか?
藤井:やろうといっていたことよりはいけなかった感じですかね.まで
もやっぱし,自分としてはやるところまではやったって感じかな.自転
車共同利用は,とにかく分析の視点がいろいろあって,うまくいかない
から,変えて試すみたいな感じで進めたのが印象に残っています.
羽藤:4年生から,M1,M2と3年やったんだけど,なんか変わりまし
たか?
藤井:これやったらどれくらいかかるかわかるようになった.研究作業
そのものをちゃんと見積もれるようになったのは大きかったと思います.
学会は5回も発表して,毎回もう一週間あったらって思うんだけど(笑),
までも,それがデッドラインがあって,そこで精度が高まってくところ
もあるんじゃないかと思います.和歌山の学会のときに,早稲田の浅野
先生から,自転車の立ち寄りが少ないことについて質問が出て,回遊性
が自転車は高いと思っていたし,フロアにいる人もそう思っていたよう
だったんですが,実はプローブパーソンで分析すると回遊性はストップ
数ですけど,車の方が上回っていて,回遊性は車っていうモビリティの
方が高いと,でそれはなんでわかったかというと,プローブパーソンみ
たいなので,位置データを細かく計測するとわかった事実なんだけど,
実際にちゃんと一回一回自宅に戻っているんですよね.自転車は.たぶ
ん荷物を戻していると思うんですけど.って答えたら,へーとフロアが
なって,あれはちょっとおもしろいなと.そういう自分とは違うところ
でおもしろいと思う人がいて,反応してくれたのはおもしろいと思いま
した.あと,学会は多く参加したので,知り合いができて,一緒に飲み
会したのも楽しかったです.
羽藤:研究室で,一番印象に残ったのは何?
藤井:大学院試験に受かったあと,白山の太郎寿司に行ったじゃないで
すか,あの後さらに幸楽苑って焼肉に行ったことですかね(笑).それ
と札幌のゼミ旅行は思いつきでどんどん動いたんですけど,楽しかった
です.モエレ沼公園は本当に楽しかったですね.ソリで滑ったりしてオ
レはフレンチ食えなかったんだけど,楽しかったなあ.いや関係ないで
すけどね.あとは研究旅行で,最初,ローマに泊まって,先生と同じ部
屋で寝たのは受けたなあ.電車でシエーナに行って,只管広場と街路の
動画と写真を撮影しまくって,ボローニャに入って,広場の測量をして,
街路の調査をしました.最後はバルセロナだったかな.自転車の共同利
用はバルセロナのシステムとストックホルムの調査をみて,オランダの
アムスで実際に借りたり,いろいろしましたね(笑).
羽藤:海外の自転車はどうでしたかね?
藤井:兎に角,運転マナーが違うのが印象に残りました.自転車は手信
号が一番違うんですよね.実際に自転車を借りて走ってみたんですが,
やらないと怒られたりしてびっくりしました(笑).あと鍵がでかいで
すね.2つもロックしなくちゃいけなくて,日本だとあまり問題になら
ないんだけど,共同利用システムの実装を考える上で,セキュリティの
問題は大きいと思います.
羽藤:日本での普及の課題はなんですかね.
藤井:自分でシミュレーションしておいていうのもなんですけど,パリ
のように大量なポートを用意するのは難しいんじゃないですかね.コイ
ンパーキングのような場所との連携などが必要じゃないでしょうか.土
地をもってる人とのうまい連携が必要不可欠だと思います.あとは,自
分のシミュレーション結果は総量の予測になっていないので,PT調査
の結果と組み合わせて評価する必要があると思います.自転車の複雑な
行動をシミュレーションではツアーモデルにして簡略化してしまったの
で,重要な部分を捨てている可能性があるんじゃないかと思っています.
もちろんモデルだからすべての要因を全部モデルの中に入れれるわけじゃ
ないけど,モデルで表現する部分,捨てる部分の選択が重要で,もう少
し吟味しなくちゃいけない.それが課題だと思っています.
羽藤:後輩の皆さんにひとこと
藤井:どの期間で,自分がどれくらいできるかをどう見積もれるか.自
分で考えることが大事だと思う.その上で,自分で決めたことを頑張る
のが基本だと思います.高度なことをやってると思いがちな人が多いと
思うんですが,そんなことはない(笑).研究やってる中でわかんない
ことがあるのは当然ですし,そんなに違いはないので,わかんないこと
をわかんないって聞くことが大切だと思います.
羽藤:「都市空間における移動-活動類型に着目した自転車共同利用事
業の評価分析」ということで3年取り組んだんだけど,最後まで回遊を
どう記述するかが難しかった.次の課題かもしれません.おつかれさ
までした.
▲ゼミをやめて,レンタカーを借りて,IKEA行って,中華街までみんな
でドライブした.夜の首都高速はキモチよかった.
羽藤:松村君のタイトルは「まちづくりにおける対話の研究-風景を媒
介とした動的言語モデルを用いて-」どでしたか.
松村:気づいたら,やってる途中はどれくらいで終わるんだろうと思っ
てましたが,終わってしまうとさびしいかんじですね(笑).
羽藤:テーマはどういう経緯で決まったんですかね.
松村:トータルでのテーマは観光だった.それはまず最初卒論で目的地
選択にしていたんですが,日常的な行動はアルゴリズムであてられるん
だけど,そうじゃないところはどうやってモデルであてることができる
のか,みたいなことで,どうやってそれを予測できるのかというのがテー
マだった.で,じゃあ観光行動でも自分も関心を持っていたということ
もあって,やりますかということになって,M1のときは観光研究のレ
ビューをしたりしていました.
羽藤:実際に地域に入って観光計画をしたりしていましたよね.
松村:レビューよりも,現地に入って観光まちづくりを実践してました
ね.確かに.M1のときは三原村,大月町でやって,M2ではしまなみ
で観光計画の実践活動を行っていた.あの頃は,マップをつくるとか,
そういうことが行き着く先だったのかなと思っていて,実際にM1は三
原村の牧野マップとか,M2の最初のころまでは発話地図のようなもの
を想定して研究をしていましたし.
▲しまなみアーティストインレジデンス2010の,黒田育代さんのステー
ジ(松村くんやみんなと泊り込みで姫内山荘のリノベーションを実現
スティールパンの演奏もよかった.データはこの活動のものを利用)
羽藤:ベイジアンネットワークとかモデルでもそこそこの成果は出てい
たから,そこからテーマを考えるとそうなったってことなのかな.
松村:井上先生の多次元尺度法を使った時間地図のような研究もレビュー
して,そういう可視化の方向性で考えていた.自分の中だと,原宏のよ
うな港のコンペできれいな絵を描いて,広告できれいな写真でキャンペー
ンするのと同じようなことして,問題が起こっているのだとしたら,き
れいな絵を作っていいでしょは違うんじゃないかと思ったんです.
羽藤:なるほど.
松村:現地の人にきれいな地図みせていいでしょで,アンケートをとれ
ば確かに結果は出る.ジュリーでも褒められるかもしんないけど.なん
か違うんじゃないかとは思っていた.
羽藤:広告代理店で技術で何ができるか,みたいな分野でやっていこう
としているのに,不思議なんだけど.将来やろうとしてることとの間に
齟齬はないのかね.どやって折り合いつけようとしたんですか?
松村:今のいろんなマーケティングのやり方は行きづまっている感じが
するんですよね.だとすると,じゃあ観光ってそもそもなんなんだ.み
たいな話に戻ってしまう.結局,歴史とか文化とかが大切だという話が
あって,それがじゃあどれくらい語られたか,あるいは語られなかった
のか.そこが基盤になるんじゃないかと思った.昔は今よりも語ること
を地域が大事にしていたし,歴史の語り部であることに価値があったけ
ど,ウエブがこういう状況になって,しゃべることは容易になった.
羽藤:確かにそうだよね.沈黙ばかり増えてしまう語りのデフレーショ
ンもいやだけど,語りがインフレをおこし気味なのかもしれない.
松村:技術が先行して,twitterなんかで語りが増えて,だけどそいう
のじゃ軽々しくて何にも残らない.だから地域と向き合おうとしたとき,
ここの人たちはどうしていきたいのか,が大事になってくる.でも,そ
れをアンケートでネットでっていうのは違うんじゃないかって思うんで
すよ.
羽藤:なるほどね.
松村:だけどじゃあ何があるんだ.自分の職業も含めて,よく考えてみ
たい.そこが研究のモチベーションになっていった気がする.携帯なん
かじゃなくて,面と向かって人と人が喋っている言葉をどう拾い上げる
かが大事じゃないかと思ったんです.
▲工学部14号館にて,MJを偲んで(笑)
羽藤:苦労した点は?
松村:研究としてのファクトファインディングというか,落としどころ
を見出せなかったのが反省点.ていうか,
羽藤:論文にならない(笑)
松村:レビューですかね.方法として細かく分析することに意味はある
んだけど,対面コミュニケーションのデータをとって気づいたんですけ
ど,前提としているルールによるものが大きい.そこで文字には出てき
ていないけれど,決まっている,与えられている役割がある.分析すれ
ばそれは出るんだけど,それは研究の方向性としては違う.
羽藤:ひっぱがした先のことが知りたかったってことですかね.
松村:直交性のあるインタビューというか対話みたいなものがあれば,
くりぬくようにその人の背後にあるものが見えたんじゃないか.そいう
ことをやるためにレビューが必要だったんじゃないかなと思います.
羽藤:今やるとしたらどういう方向性が考えられますか.
松村:インタビューをとにかくとる.それとある異なる状況でデータを
とって共通するものは何かみたいなことを出してみるといいんじゃない
かと思います.
羽藤:ウィトゲンシュタインのパラドクスについてはどうですか?
松村:彼がいっていたのは,言語で言語を説明することの不可能性なん
だけど,共通性,無名の質みたいなものを抽出することは本当に可能な
のかというと,すごく難しいんじゃないか.
羽藤:今やるとしたら何に気をつけますか?
松村:まずレビュー(笑).レビューしたものからストーリーをつくる,
そこからストレートにつながっていないと研究としては危険なので,僕
はスタディ派だった.見えないものを只管鉄砲で撃っていただけど,ガ
チガチにレビューをっていう研究,そういうものとのバランスも大切じゃ
ないかと思いました.
羽藤: 松村君のは関係性の研究.言語と空間をひっくるめてインタラ
クティブな景域をくりぬくように記述しようとしていた.結局はウィト
ゲンシュタインの言語ゲームを取り扱おうとした研究だったと思います.
でもやっぱりそいうのは,実践しないと見えてこないことがあって,そ
れは言葉に出てこない部分,そういうのを掬いとらないとわかんない.
24時間ラジオやったり,ステージ作ったり,姫内山荘のリノベーション
作業をやる.そいう中で見えてくることがあったんじゃないですかね.
でもそれやってたら修士研究としては時間が足りなくなった(笑).
まあでもよかったと思います.僕は.では最後に後輩の皆さん,に一言
お願いします.
松村:僕らが4年だったころは,先生が一人で研究室をつくるので,み
んなで,自助,共助,公助って一言から始まるのが,おもしろかった.
先生が単純にしかっているんじゃなくて,一緒にやっているチームみた
いな感じ.自分が研究室をつくっているということを自覚して頑張って
いってほしいです.ありがとうござました.