2022年の研究座談会

修士で都市と交通を研究する

小川瑞貴×黛風雅×渡邉葵(M2)

▲研究室のみんなと




羽藤 三人とも他の分野、他の研究室から、うちの研究室にきたんだけど、経緯
を話してもらっていいですかね。

小川 建築から,ここにきたんだけど、学部3年の設計課題のとき,先生から君
の設計は鉄則に反しているといわれて,ルールがあるのはわかるけど,先生の講
評であって,使う人の側の評価ではないと思った。実際に都市を使う人の行動を
評価軸にして設計したいと思い始めて,建築学科にはそいう専門分野はなくて、
大学院で思い切って新しい分野をやりたいと思って探して,今の羽藤研に移って
きました。数理的に抽象度の高い議論だったとしても、最終的に空間の話をしな
いと、それはやっぱり空中分解する.最後は模型をつくったり、空間の話ができ
るのはこの研究室でも建築でも同じじゃないですか。建築は1人で考える。でも
都市と交通では、いろんな人が関わっていて,演習も複数人で取り組むし、ヒア
リングもたくさんやる、それは、かかわる規模が大きく,考える要素が多いから
ですよね。そいうことに素直に惹かれたんだと思う。
先生から渡されて入学当初から大山さんの歩行者回遊と都市設計の論文を読んで
いて、コードも組んでモデル化もした。研究として、まちの一部が変わったら人
の動きがどうなるのかを予測する、そういう研究フレームがあったと思う。でも、
COVID-19で入学と同時に行動が変わった.変わったんなら、豊洲のデータをと
って、データを見てみようと先生が言った。そこから、データを見ながら,モデ
ルを通してみれたらいいなと,で、実際にデータを触りながら考えて,その方向
性の中で,研究をつめていくことになりました。

羽藤 小川くんは研究が相性に合ってたよね。黛さんはどうでしょうか。

黛:僕は国際研から移動してきて、社会科学よりの中で,インターディシプリナ
リーな分野の切り口の限界というわけではないけれど、むしろ手法を高めていく
ことだったり学会だったりに関心が向いて、おもしろさの反面、それをちゃんと
やっていくには,やっぱりものたりなさが合ったんだと思います。自由に個性や
自分の頭で考えられる範囲の限界を感じていたし、ベンチャーでも働いてやって
みて、ちゃんとした研究だったり、技術的な基礎をもちたいと思った.地域や都
市計画に関心があったこともあります。

修論のテーマは,避難行動に興味があったんだけど,交通ネットワーク配分の基
礎をまずやってみようと言われて、確率解析の勉強をして,うまくいかないこと
もあって、迷っていたんだけど,そっちに興味が向かなかったのはなんでかはよ
くわからないけど,現場に行かない状態で何かのテーマをやるという感じになら
なかったんですよね。小川くんのように研究室の中では,特に再現したい行動が
あったわけではないんですが、地域の現実課題に対して働きかけや提案があるこ
とがよかった。その点、現実の日常感の中で地域のモノの輸送にも人の輸送にも
切実感があって、付知地区で貨客混載というテーマに取り組もうとなって、付知
にいくことになって動き出した感じでしょうか。

羽藤 インターディシプリナリーな研究分野は、社会基盤の中にもあるし、他の
分野にもあるけど、どうしても流行り廃りがある。枝が伸びるように新しいもの
が生まれても誕生だけに喜んでると衰退するときはあっという間だし、耳目を集
める難しさや分野の半減期もある。でもそれでいいと思うんだよね。都市と交通
は、交通固有の比較的強い専門性と都市の現場で感じ取れるテーマが、互いに未
分化なまま扱えるのが良さですかね。

渡邉:僕はもともと理学部で物理をやっていて、学部から社会基盤に入り直した。
物理は普通に面白いんですよ、でも高度になるほど,現実離れしていく感じもあ
って,実験も理論も好きなタイプなので,肉眼で確認できないのに対してはやっ
ぱりうーんというのがあった。現象として統計力学は面白いし、ミクロの積み上
げとマクロの特徴的な振る舞い、集団運動にも関心があった。一方社会基盤は、
土木っぽいと思ったが、交通には物理的な感覚があった。おまけに交通現象はみ
える.卒論のテーマは,最初B4で入ったとき、羽藤さんから論文を渡されて、
推定系よりもオークションのメカニズムデザインの論文が面白いと思った。駐車
場のジレンマの議論があって、そこで駐車場オークションをやろうとして、そこ
からは割と一貫して取り組んだ。修論でも駐車場の立地問題の延長で,空地のテ
ーマを扱うことになった。

羽藤 物理の中には交通の研究をしてノーベル賞をとった研究者も多い。渋滞や
プライシングの問題が、優秀な物理の研究者を集めて伸びてきています。Moshe
は土木ですが、Michelは元々数学ですよね。交通は外から人を受け入れて土着
化させるところがある。渡邉くんのテーマはさらに都市へとつながっていて、計
画やデザインとの関連もあってわそいうのが涵養されやすいんだよね。比較的固
有性があるのに閉じていない分野の風土は特殊なのかもしれません。小川くんは
修論どうでしたか。

小川 修論はネットワークデザインまでやりたかった。でも多様体学習は難しい
というのがあって,コーディングに時間をとられたという印象です。6月に不確
実性下のバンディットの関連論文を読んで、最初のアイデアは、訪問した敷地の
混雑が多いからリスクが高くてもう行きたくないという学習をしてるんじゃない
かというところから始まりました。モデルの根幹が固まり、次にバンディット問
題を使って目的地選択と組み合わせることは決まったけど,推定に持っていくと
ころで時間がかかった.勿論データの制約もあって、豊洲でやった調査は大規模
なモノでしたが、緊急事態宣言のデータがなくて,長期調査していた個人の移動
履歴のパネルデータで可視化すると、実際に緊急事態宣言中は、都心にいってな
いというその事実が観察データから出てきた。データを観察するのは〆切ぎりぎ
りでも、やっぱり大切だと思う.

羽藤 観測なくして理論なしというけど、見えることで理論は進化する。その一
方で、手が動かないとと何もできない。観測技術やコード、データの蓄積があっ
ても、それを使いこなすには、スキルが必要じゃないですか。修論を進めていく
上では、分野の知識、プレゼン力、執筆力、研究推進力のバランスが大切だけど、
研究論文を書く分野風土の中でしか身につかないこともある。M1の時に都市計画
学会の審査付論文を書いて基本スキルが身についたし、黛さんもTRBがアクセプ
トされたのはよかったと思います。

黛 僕の場合、最後、研究の位置付け、特に貨客混載サービスの最適化問題の中
でもZDDの位置付けに思考がロックしてしまったんですが、結局のところ数値計
算そのものに時間がとらわれるあまり、どうしても貨客の財の特徴から、記述す
べき新たな数理的な問題の性質として位置付けられなかった.トリップパターン
やモノの意思決定の多重性のような問題は、分野の中でもあまり語られていなか
ったから寧ろ考えられるところはあったかなと思う.羽藤研の博士課程で論文を
書いてきた吉野さんと早川さんからZDDのアドバイスは受けたが,データ構造か
らさらに発展させる,リサーチクエッションをたてることが難しかった.一方で
付知というフィールドでは貨客混載の社会実験もできて、利用者研究との接続は
なかなかよかったと感じている。6月頭から10月まで滞在型研究で付知に住み込
んで研究に取り組めた。現場で気づいたのは、地元の独自の流通慣行だっり、行
商スタイルです。道の駅に彼らは在庫管理を調整しながらダイナミックに出荷し
ていた。自分自身が現地にいて取り組んだ社会実験の意義は,ものに着目する目
線を感じることはできたことだと思う。だけどその先がなかなか難しかったです
ね。

羽藤 道後温泉本館広場の設計や花園町通りのプロジェクト、プローブパーソン
やライドヘイリングの実験は、理論と実装が結びついてますよね。田辺朔郎の南
禅寺のインクラインの設計も卒業設計ですよね。研究室には現場の設計やプラン
ニングに取り組んでるスタッフもいるから、気軽に相談して、あまり受験勉強化
させないで挑戦していいと思うんだけど、現場の問題を理論でという難しさは確
かにありますよね。

黛 物流の問題は,世間一般ではあまり論じられていないけど、最後は小売店.
確率分布を所与とした在庫管理になるじゃないですか。そこを人の動きと連動さ
せて,うまく組みあわせるのができてなかった.インプットにするためにデータ
を実験からとるだけでは,僕の中ではモノの動きと需要函数はまだ分離してるん
ですよね。特に、モノに纏わる意思決定の部分,いつ発送したいのか,いくらく
らい料金を払うのか、自分の行動よりよほど明示的な意思決定があって、それを
どう結びつけるか。

羽藤 都市と交通が、現象だけじゃなくて、価値の問題を含んでいるから大元か
ら考えることは面白くても結びつける難しさもある。でも、基礎的な理論と現場
の問題が結びついて解けたときは嬉しいからなー、笑。

渡邉 僕は研究の位置付けが難しかった。理論研究だからアイデア勝負なのはわ
かってるんだけど、アイデアは出ても、その先でジャーナル論文にするのは難し
かったという印象です。アイデアが先になっているんだけど,修論に関してのア
イデアはM1で出てきていて,交通量配分に待ち行列が使われているから勉強し
ておくかくらいの気持ちで、基礎を勉強しておこうというところから始まった。
基礎は大切だと思います。

羽藤 独創的なアイデアほど、屹立させるには知識がいる。佐佐木先生の追従理
論も留数定理知らないと解けないから、出てこない理論ですね。

渡邉 僕の修論では,都市内の空地や駐車場の立地形成を記述できるモデルを提
案しました.アイデアの話でいえば,空地が,利用を待っている状態とすること
で,待ち行列で書けることに気づいた.最初は駐車場をゲーム理論で書こうとし
ていて,暫定的に利用できる,その先の高度利用まで,考えたかった。実データ
をみると長期利用で駐車場として使われているから,駐車場としてまとめた.研
究の中では、その分布がどう時間発展するかについて,イジング模型で空間相関
を考慮して、相転移性を発見できた点,空地が自発的に集積するのがわかったの
はおもしろかった.理論で予見できたことに対して、そいう事例も実際に報告さ
れていて,発見的だったと思う。

小川 心のよりどころは、Lee, 2011だよね.笑.

羽藤 自分の研究を位置付ける論文が見つかると、同じように研究してるヒトが
世界中のどっかにいるってわかると、嬉しい、笑。

渡邉 物理だと実証をしなきゃやっぱりダメじゃないですか。行動モデル夏の学
校でGian先生もおなじことを言っておられて、反証可能であるのが重要だと思
う。経済モデルにはそれがないわけじゃないけど。

羽藤 観測スケール一つ取ってみても物理だとくりこみ理論みたいなのがあるよ
ね。経済はどちらかというとシングルスケールで、それぞれの分野で観測の伸張
をどのように理論が受け止めてきたのかが、理論の発展の違いに顕れてる。工学
は現実の観測がないと壊れちゃうから真剣に数式を吟味する。観測をベースにし
た首都圏鉄道の需要モデルの予測は経済の人ではなくて、工学の交通の人が精度
に責任を持とうとしてるのは象徴的だと思います。それぞれ違いがあります。

小川 僕が研究室に入って、一番印象に残ってるのは、復興デザインスタジオや
ってよかったなーと思うんですよ。自分自身が被害者として、当時者として、身
を乗り出して懸命に取り組めた。入学が決まって、最初からCOVID-19で、、東
大には僕が所属するコミュニティは当時はなくて,名古屋大の建築の人たちと
ZOOMで話して、でも、あんまりCOVID−19で建築が変わるみたいな感じはしな
かった。そこで温度差を感じたんですよ。復興デザインスタジオで、どんな人が
困っているのか,あの頃,1日のうち8割くらいそのことだけ考えていた。デザイ
ンハブの展示もしたし、みんな真剣だった。温度差がここまであって,今目の前
で起こってる問題に対して自分たちがあそこまでまじめにとりくめた、そのこと
で、ここにきてよかったと思えた.研究もその関心で最後までやれた.

羽藤 同時代性って大切ですよね.復興デザインスタジオ立ち上げてよかったで
す、笑。今、理論で考えられそうですか。

小川 理論で示せればいい。でも理論でわからない人にみせてもわかってもらえ
ない。学生は専門知識がないから理論じゃ押し通せなくて,結局,定性的な議論
に終始したのがデザスタだった.でも修論を終えて、今3人で考えろと言われた
ら違う.建築学科では学べなかった.大学院で学ぶ時間は同じでも、幅が広いこ
とを学べたと思う。今なら、変えれそうだという実感がある。

羽藤 修士の頃に海外都市のマスタープランや駅前広場の設計とかやったんだけ
ど、実務と研究の間に確かに距離を感じて、だから就職して近いところで考えた
かったのを思い出しました。博士課程はどうですか。

黛:僕は博士課程の進学するんだけど、ひきだしは増えてきていると思うんです
よ。人の話も技術的な話も確実に聞けるようになって,現場でも理論でできるこ
とは,増えてきていると感じている.振り幅がもてるようになってきている。で
も、研究以外の知識も重要じゃないですか。そこは今後の課題かなと思う.知的
体力がまず必要.学んだことをそのまま実装に生かす,そこからさらに踏み込ま
ないとできないことがあると思う。でもそんなテーマに対する自信まではつなが
っていない.3年の中で,どんなことができるか楽しみです。

渡邉:僕は民間の研究機関で研究をするわけですが,テーマについては,関心が
広いから,決まっていないのが楽しみというのはある.研究室だと、実は蛍の畦
道が印象にのこっています、笑。あとはうちのゼミは面白かった.M2が7人+B4
が2人で9人でゼミをやってて,他人のテーマにも関心をもって聞けて,それぞれ
が面白かった.自分の研究で気づくこともあるし,深い理解につながることもあ
って、とてもよかった。

黛:僕は、石垣のときのゼミが楽しかったな。誰かに自分の研究の関心をもって
もらえるかは大切だと思う。

渡邉:研究室に入って、研究は面白いと思えたのもよかった.生物物理の研究分
野の先も見えないなか、実際に目で観測できないなかで、結局社会基盤にきて,
研究をやることになるとは思わなかった.でも今は研究は面白いって思える。

羽藤 研究はいいよね。オレは研究がなかったら生きてないと思うくらい好きか
な、コンペとかコード書くのも楽しいけど、笑。

黛 1月は論文読むの楽しいなと思えたんですよね。そいう感覚になっていって,
その前に論文を読み込んで,そういう感覚に至ったことで,自分が変わったん
だなと思った.

羽藤 嬉しい瞬間だよね。最後に小川さんから一言どうぞ。

小川:最後にこのまま、会えずに終わるかと思った。7人みんなが学校にきて,
修論に一緒に取り組んで、仲良くできて,それはとてもよかったと思う。修論
の戦友.笑。彼らの誰一人欠けても終えることができなかった,一緒にやって
くれた仲間に心から感謝します。ありがとうございました。