Master Course Interviews in 2025

無謀になる

倉澤龍平





▲大槌にて、同期の仲間たちと

羽藤 おつかれさま、振り返ってどうですか。

倉澤 結構、自分の中の考え方が変わった気がします。無謀な人間になった気がする笑。

羽藤 修論おもしろかった笑。社会基盤の志望動機ってなんだったの?

倉澤 1年の時はまだ決めていなかったけど、自分自身は実学思考で、実になることをした
いと思って、社会と学問の結びつきが強いものを探していたと思う。駒場の授業で社会シス
テム工学基礎を受講してこういう分野があるんだって知りました。建築は規模感が少し小さ
すぎるかなと思って、数理が得意だったんでそこを活かしたいと思っていた。一方でシステ
ム創成はバラバラ感があってそれはよさもあるけど通底する何か、何をやっているかが僕に
は当時わかんなくて、都市工は数理よりも制度の方をやってる感じがした。2年の時、駒場
の講義でおもしろい話をしてる人がいるなと思って、その時点で研究室のことを認識するよ
うになった。

羽藤 確か倉澤さんの代の講義は数理でこんなふうに社会が変えられるという話を自分の経
験の中から紹介して、数式中心で構成した講義をしたんだっけ。毎年実際には学生さんの顔
を見て話す内容は調整してるんだけど、そいう話の方がいいって(倉澤さんの先輩の)平賀
さんたちと話して、離散選択モデルを導出して需要予測でこう使うみたいな話を確かしたと
思う。格差をなくすのが社会基盤だという話も。進学した後の3年生はどうでしたか?

倉澤 江東区で深川をやった、応プロは避難シミュレーションしたかな。実際には数字出す
のは難しかった。自分でやってみると、うまくいかないもんだなと思った。交通手段を整備
したら避難がうまくいくみたいなことを思い描いて、ネスティッドロジットモデルでと思っ
たんですが、そういうモデルでは、施策の効果はうまく出なかった。方針は一旦行き詰まっ
た。そこで演習の班で話しあって、避難する/しないモデルでは政策の効果が記述できな
い。だったら豪雨予報が出て避難して集まる箇所の配置に目を向けて違う数式で別のエビデ
ンスを出してやろうと、演習の期間の中でやれることをやったという感じだった。

羽藤 行動モデルに関心があるということだったから、研究室では基礎的なことの中でも行
動モデルの多様体学習から入っていったよね。

倉澤 当時の自分はまずきちんと研究テーマの全容を理解して始めたいという意思が強かっ
た。でも、わからないまま進むことに慣れてなかった。実はわからないまま進むのは難しく
て、なかなか感覚が掴めなかった。ずっと同じ場所で足踏みしちゃう感覚が確か続いてた。
    




▲ 阿蘇研究室旅行、みんなで気球にのりました。

 
羽藤 最初にちゃんと理解したいというのはわかるんだけど、抽象的な数理を考えることは
難易度高いから、一旦早めに相談してテーマを因果分析に変えたんだよね、確か。

倉澤 変えたんですが、それはそれで当たり前なんだけど別の難しさがあった笑。現象とい
うか観測されたデータに対してなんらかのリサーチクエッションを兎に角洗練させていくと
ころが難しかった。データを因果分析でやるにはクエッションそのものを発見的にみつけて
いくアプローチと、仮説自体が自分の中にあって対照群と処置群を設定して検証していく場
合があると思うんですが、データが先にあったから発見的に何かを見つけようとなったんで
すが、正直しんどかった。

羽藤 仮説が難しいってことですかね。少しは払拭されましたか?

倉澤 まだ難しい笑。発見はあるんですよ。でも行動データを用いた分析結果の考察に対し
て無矛盾性というか、ある方向からみるとAで、別の切り取り方からするとBに見えると
き、どっちをとるかが難しい。


羽藤 地理的な文脈から行われる都市史研究では、考証と叙述という2つの段階があって、
考証はさらに、史料そのものと、史料から史実を見出そうとする段階から構成されるんだけ
ど、網羅的にしないと史実の経路は浮かび上がらない。だから史料を拾い集めて、これは間
違ってない、それは違うみたいな論証を繰り返すのが都市史研究。量が少ないと史料批判も
出来ないしメカニズムも顕れない、かといって決めうちでは叙述も出来ないから結局時間が
かかる、地道にやっていくしかないわけで、都市史はそうやって時間をかけて初めてこれだ
強度のある理解が見えてくる。そいう地道な専門家になっていく過程がある。そこをサボる
とダメなんだよね。浅はかな問題設定にしてしまえば楽なんだけど、それじゃあ研究として
は知的につまんない。そいうのってデータ分析でも実は同じところがある。簡単そうに見え
ることほど単純じゃない。

倉澤 何をやるべきで、どんな分析結果、何に価値があるかは、繰り返してるとだんだんわ
かってくる。それを正しく文章にして間違いのない論理に落としこんでいくこと、丁寧にそ
の作業をしていくことが、国際学会のレベルになると重要じゃないですか。それって例えは
あれなんですが笑、部屋の中にあるゴミを全部掃除していく感じに似てて、掃除しても掃除
してもゴミが残っている。95%から100%に時間がかかる。最初の一歩と最後の一歩が
難しい。M1の時に中国からXiaoさんが滞在研究者として研究室に滞在して、僕と先生
と彼女の共同研究になって、彼女はたくさん研究をしているから、ジャーナル論文の書き方
を教えてもらった。パラグラフの長さや、考えていることを図にして伝えることの重要性に
ついて技術的なアドバイスが多く、ああいうのもとても有意義でした。

羽藤 ジャーナル論文どうでしたか?

倉澤 めちゃ時間かかりましたね笑。今思えばもっと早く計算できたかもしれない。パネル
データを扱ってmixedモデルでやっていたから、データ処理に時間かかっていた。早く
やる方法を夏の学校で気づいてこんな方法があるんだとなったのを覚えています。

羽藤 トップジャーナルに修士で投稿するのって、エベレストに挑戦するようなものだから
ね笑。ところで修士でテーマを変えましたよね。

倉澤 M1になって応用プロジェクトのTAやってて、現地調査で沖縄に行ったときに、先
生と現地調査やって踏査しながら話していて、テーマを変えようっていう瞬間があった。あ
の時点では、研究の方法論までしっかり決まっていたわけでなくて、B4の時を考えるとあ
の時の思い切りは不思議なんですが、先生と一緒に歩いてて、胡屋からコザ十字路に向けて
坂の途中で、面白い街だなーとなって決まった笑。

羽藤 坂を歩いてくとコザの住宅地の中で後に行きつけになった美味しい朝食のある花いち
りんも見つかって、朝食のクロックムッシュも美味しかった笑。店のお母さんと話してて1
000ドルであの家、昔お父さんが米軍の関係者から買ったみたいな話から、コザの琉米文
化や表層からだけではわからないことが感じられて、「遠いところ」という映画で描かれて
いた問題もそうだけど、B4の時には見えてこなかったものがたぶん見えてきていて、さら
にある程度高度な数理的なことの下準備やプログラミングスキルも上がってきていた。

倉澤 調査は、2月と9月にやった。でもゼロからやったのですごく難しかったですね。

羽藤 観測なくして理論なしという言葉があって、モデルよりもデータがAIの浸透によっ
て大切になってきてるから、観測そのものを自分で手を動かして設計するっていう得難い体
験をスクラッチで体験してもらいたかった。


▲ 調査中毎日行っていたFlowersさんの朝食

 

倉澤 9月は、沖縄ではバスの無料実験をやってて、沖縄戦以降の政治的な背景もあって県
土の基本構造となってしまった那覇一極集中は、米軍がつくった米軍国道1号で道路交通の
混雑を引き起こしているんですが、行動データを解析すると、往復バス料金によって、どこ
に行く、行かないが往復1000円あたりを境に大きく変わってる気づいたのが印象に残っ
ています。無料だと潜在的な交通需要が顕われている。それ自体が重要なテーマですし、新
しい行動モデルが必要だと思っていますが、ともかくそんな中で新しい回遊実験調査をやる
ことになった。調査をやるならいつから動き出せばいいのか、現地で話を通す必要がある。
9月調査は1ヶ月前から始めたんですが1ヶ月前といっても実際はたいへんだった。カメラ
の設置で動画を行動モデルに導入できないかについても、夏の学校の受付で考えてたら設定
のアイデアが出てきたんですが、最初の企図はBLEをもとにした都市回遊モデルでした。
でもそれだけだとランダム化されるので弱いのではと思い、複数のセンサーで捕捉できると
いいなと思った。一方画像系は設置すると今までやられていないことがやれるから、自分の
中でもやりたかったポイントになっていった。4年生のときは、本当にできるのかなって、
先生の言っていることを正直にいえば疑ってたんですが笑、先生がいうこと全部聞いてみよ
うかってなった。自分の中で変化がありましたね。

羽藤 へー。

倉澤 沖縄には10回くらい行きました。先生や研究室メンバーと調査に行って、最初はセ
ンサーじゃなくて調査票を配布していたから林くんが調査票を受け取ってもらえない事件と
かいろいろあって笑。カメラ設置は、誰に言えばいいかもわかんなくて、プライバシーの問
題もあるから角度をちゃんととって、商店街の許可はもらったけど、道は市のもので、市側
からもOKをもらって、道路設置物だから、国道は国にとか。

羽藤 沖縄総合事務局の関さんや中央建設の仲村さんが骨を折ってくれた。で9月末に調査
が終わって、

倉澤 データはSDカードの転送が、カメラ独自のフォーマットで直接もってこれなかっ
た。全部で900GBで1ヶ月かかった。結局カメラ10台を再生して画面キャプチャー4
日間で100時間という方法にした。

羽藤 他の学生さんは、石田さんたちの道路計画さんに頼んだり、ネット調査の会社に頼ん
でるけど、全部倉澤さんでやってるからね。地元の方から協力はたくさんしてもらってると
はいえ。

倉澤 でもだから、データの感覚が体に入ってる。ここがこの時間混んでる。十字路の電波
はここまで届いているとか笑。ここにきた人はこっちにいきやすい、BLEの信号の変化で
感覚が身についている。

羽藤 自分で調査と分析やったことで、まちの回遊行動そのものが身体化されて、ホントに
ニューラルネットだね笑。

倉澤 そう笑

羽藤 モデルでも何千回って交通シミュレーション回すと、回さなくても結果がわかるみた
いな感覚になるけど、まち歩きを超えた深さで理解する感じかな。まだ先があるみたいな、
ああいう感覚異次元にいいよね。研究のアイデアについても教えてもらっていいですか。



▲蛍の畦道でジャグリングしました。

 

倉澤 理論談話会で、今までのようなオーソドックスなものではないことを中心に勉強した
から、馴染みがないものが増えてきたなーという印象でした。10月いっぱいはデータ処理
をやって、11月にモデルの方向性が決まった。画像をどう扱おうかなってなったときに、
理論談話会でも潜在特徴量は既にキーワードとしてあったんですが、画像は、ネットで情報
を集めて、あと先生との議論でもマルチモーダルというヒントもあったから見て調べたりし
ていて、結局今の方法が出たのは11月ですかね。小川さんがViTをやってたのは、同時
に研究室でいろんなモデルプロジェクトが動いてるから実は気づいてなかったんですが、僕
の方はRoutesFormerのアプローチで回遊行動を可変長でトークナイズして長期
記憶として扱い動画をむすびつける形となった。Transformerはなんでああいう
ふうになってるかは、理論がわかるけど、あの構造が最適だというふうには直観的には今も
思えてない笑。ともかく動画は、VAEでどういう形式のデータをRoutesForme
rに潜在特徴量としてインプットするかに悩んだ。最初は射影変換して位置データにして入
れようとしたんですが、モデルの情報と入れ子にしたいというアイデアが最初はあったから
でその方が操作性が高いと思った。でもその後、画像を直接の方が情報量が多いので、しか
し、それだと逆に背景情報が多過ぎる。一旦はYOLOのバウンディングボックスで処理し
た。VAEにいれて人間がどこにいるのかが漸く学習できるようになってそれでこの情報を
RoutesFormerに入れることができた。

羽藤 解釈性が高くてスループットと滞留を完全に予測できるモデルがテーマだったからね
笑、課題はありますか?

倉澤 課題は、内生構造ですかね。内生的にいれても観測範囲が違う、BLEの範囲とカメ
ラの範囲が違うことも問題。

羽藤 そこおもしろくない?

倉澤 画像にも時系列のモデルがあって、RoutesFormerで補正してやる。入れ
子にして回すのはありですね。

羽藤 ViRTは生成系なんだけど、観測系モデルをつくって統合するのよさそう。おー。

倉澤 ViRTの開発として、時間がなくて切ったことはあるけれど、なんとなく、最後は
どこまでやるかを決めてやったんで。基本系ができた。まだ発展性はあると思う。

羽藤 研究合宿で鍛えられた。

倉澤 なんでいくのかがわからない笑。

羽藤 笑

倉澤 国際学会はわかりますよ笑、やっぱ、我々が研究しているときその周辺しか知らな
い。でもいくと、自分の興味もっていないこともある程度受けとることができるのはいいと
ころ。世界中でこんなに研究している人がいるんだって、大学にいると狭い世界でがんばっ
てるんだけど、国際学会に出るとおんなじように頑張ってる人がいると世界がつながって
るってわかるのはやっぱり嬉しい。

羽藤 そうだね。

倉澤 学会全体でムーブメントがわかる。香港は最適化、内生性はうちら笑、みたいなこと
に気づく。今なら、自分は、もっとスケール小さくても面白いと思う。研究室で別のチーム
は建築内部の動画を使ったレイアウトの生成系モデルをやってるんですが、あれも面白いで
すよね。



▲香港の国際学会で発表してがんばった研究室の仲間と

 
羽藤 コザに返せそうなことはありますか?

倉澤 僕のモデルではSHAPの分析ができるとこが重要で、都市空間の中のどこにいるの
か、十字路に溜まっている人がいるのか、それとも周辺なのかは、取り込んだ特徴量との関
係で解釈できるようになっている。だから都市設計に使えることになる。画像を見てみる
と、まわりか中心で属性の違いがあって、中心では呼び込み層が多い。それをどう社会に落
とすかについては、生成系でネットワークや広場の配置などの数値計算を示せば、今進んで
いるバスタの計画が地域の人にちゃんとわかるものになっていくのではないでしょうか。

羽藤 今実際のまちで設計やってるんだけど、建築レベルの設計技術を街路とか広場に適用
してて生成系のモデル使ってるね。でもまだ都市空間のレベルではできていない。プランと
設計のスケールが整合してないんだよね。ゲーリーは構造単独でやったけど、フローと滞留
でやれそうなところまで来てると思います。あとは何かありますかね。

倉澤 蛍の畦道は最高でした。継続されてほんとにいい地域のイベントになっていると思う
んですよね。まず地元の人に喜んでもらえる。あとはああいう地域の雰囲気の中でイベント
が続いていて、僕らも関われたこと、ああいうところに僕は住んでいないので、そいうひと
たちの暮らしの一側面に触れられたのは大きかった。地域の人は本当に楽しみにされてい
る。いろんな人が関わって、それが続いている。続けようとしてくれる人がいる。素晴らし
いと思った。

羽藤 人とつながるのが当たり前じゃなくなってきてるから。近藤たちのことも覚えてくだ
さってて、倉澤やLaureenたちも楽しそうだったね。Laureenはあれで博士でまた戻ってき
たいと思ったんじゃないかな笑。鉄道会社は松野のような地域のインフラを担っているし、
社会基盤は格差をなくすためにあるからね。社会のことをやりたいと思って社会基盤に入っ
てきてくれたから。国土のことを考えることは簡単じゃないけど、ちゃんと考えてもらいた
かった。いよいよ修了ですね。

 

▲沖縄調査の趣旨を被験者の方へ説明しました。

 

倉澤 最終的に楽しんでいた。本当に楽しくやれた。4年の頃はこんな状態でうまくやれる
のかと思っていた。何が違ったかといえば、慣れは大きいと思う。研究の考え方と、勉強の
考え方は、違う。時間をかけて、研究の考え方が身についていった。自由にやってみて、M
2の11月からが一番おもしろかった。

羽藤 倉澤さんはたいした努力もしないでというとあれだけど、成績も学年で一番だし、器
用そうなんだけど、でもいいとこはそこじゃなくて、最後までやり抜くんだよね。思いつき
は最後までやり抜いて意味があるものになるから、一緒にやって楽しかった笑。

倉澤 卒論も長い時間がかけてResearchに投稿したけど、やり通せてよかった笑。
ViRTはもう少し考えたい。自分にしかできない。そいう状況をもう少し楽しみたいって
思う。卒業旅行で友人たちと旅行してもそれは他の人も追体験できる、何を考えるかは人そ
れぞれだけど、いく場所は同じですよね。でも研究は違う。思考の深まり方が全然違う。結
果がでたとき、言葉にできたとき、この手法でできそうだぞと思えたとき。その瞬間のいけ
そうだぞと思ったとき、その熱量が続いて。その一瞬の情熱を証明するために続けていくと
ころ。それが僕にはよかった。ありがとうございました。