2012年の研究座談会

留学、実務、研究

中村優子


▲草也、山川、敬士、中村の4人で卒論/卒計をやりました。 羽藤: 留学が決まって渡米まであと1ヶ月ということで、そろそろ14号館での生活もおし まいですね。B4で配属されて僕のとこでは初めて卒業設計やったわけだけど。 中村: 卒業設計は原宿のキャットストリートで、道がよかった。なんかこう団地とか大 きい敷地があってより、道のまわりとかそいうのがやりたかった。あとは、もと もとあるのにどう付けたしたり、引いたりがしたかった。あの場所は都会の真ん 中の旧いのと新しいのが交じり合っていて、もともと住宅で前は商業で、その過 程の続きに関心があった。青山と渋谷っていう人が集まる間にあって、人がいつ も通っているのがいいなと思っていました。 羽藤: そっから英国に留学したんだっけ。 中村: 留学したんだけど、University College Londonの Bartlettで建築修士の中のア ーバンデザインコース。アーバンスタディもあって、両方話を聴きにいったら設 計をやらないと言われたので、設計を学部の時にやれてなかったから、MARCHに しました。ビデオ作ったり、コンセプトモデルつくったり、座学でアーキグラム やスペースシンタックスを聴いたり。英国でコンセプトが流行った時期があって、 日本でいえばメタボリズムみたいなのだけど、ノマドみたいなモビリティを雑誌 にして発表してた。AAという学校で始まって、バートレットの校長にアーキグ ラムの人が来ていたので、Sir Peter Cookが校長でその傾向があったんだと思い ます。敷地は私の年はロンドンと言われて、大きいスケールのプランから小さい スケールまで最後はやりました。修士設計はCityの上に住宅をつくるというのに 取り組んだんですが、Cityは最初の頃に行ったことがあるんだけど、 financial districtなんもんで、土日はさびしくて、空きオフィスが増えている 状態で、それをなんかうまく人を呼ぶためには、平日もふくめてどうするかなと いうのを考えました。 設計するといって、こう建てますじゃなくて、寧ろルールを決めてルールそのも のを成果物にしたいと考えました。一年間設計をやって決められないことに気付 いた。結局まちのなかでは、全部は自分で決められないし、だから住む人の話を 聴きたいんだけど、全部住む人に決めさせれない。だから、ルールだけ、最低限 に決めて進めたいと考えた。


▲Bartlettで。講評中というか説明中。

羽藤: アレグザンダー先生のNew Theory of Urban Designがそうだけれど、ルールその ものは構造主義的であってもそやって与えられたプロセスが実は有機的なデザイ ンを生み出すみたいなことは数理的にはあり得るし、現実だってうまくいくかど うかは兎も角としてそういう関係性のデザインが必要というのはわかります。 その後は帰国して日本で働くことになるわけだけど、設計実務をしてみてわかっ たことはありますか。 中村: その後建築の事務所で働いて、楽しかったんですけど、六本木アートナイトとか、 住宅設計やオフィスやインテリア、ディスプレイ、照明、コンペなんでもやった。 勿論そのまま日本に残ってたらというのは想像できないので、はっきりいえない けれど、(英国の教育は)遊びみたいなことやっているようで、実際的なこと、 人をどうやって説得するのか、何が大切なのか、そいうことは役に立ったんだと 思います。都市工でやったことは、私としては世の中の建築家は裏付けがないま ま、サイトアナリシスが主観だったり、いろんな可能性の中でちゃんと考えてい ればいいんだけど、直観的にわかることを客観的に分析しようとする気がない。 だから規模の問題もありますけど問題があると思っていて、YCAMの美術館の 改修をやったとき、定点観測をしてたんだけど、あんまり生かされないまま雰囲 気できまって行く。そいうのがもうちょっとちゃんと考えたいと思った。実務や っていると納期があって、いついつまでに建てたい、それに向かっていく。ここ で終わりと決まって行く。それではちょっと足りない。一個、一個について軸が ないまま考えていくと時間が足りなくなるので、基準みたいなものが自分の中に ほしいと思ったんだと思います。
▲修士設計その1

羽藤: 質を高める部分と、遠くに向かって石を投げるというか、プロアクティブなデザ インはその場の局所最適な反応をいくら繰り返しても、それだけじゃ出来ていか ない。やっぱり時間の中で耐え得る、漸近的に全体性を保ちながら変化していく 空間を創ろうとしたら、空間の見方や、時間の中での領域のでき方やその連鎖み たいなことに対する理解や、それを生み出す関係性や対話の基礎となる場につい て理論的な見方というか枠組みがある程度必要だとは思う。 中村: 最初は現場で何もわからず、ただ時間がなくて、やっていたんですけど。自分の 興味ありきで、学部のときに設計のサイトアナリシスでスペースシンタックスを やっていて、修士設計でルールをやった。そすると西海岸あたりのshape grammar に行くんですよね。建物なら見方がある。それかなというのが漠然とあって、そ の方向でさらに調べると環境心理に行くんですよね。ウエブで検索して先生を調 べていくと、アーバンプランニングとアーキテクチャを両方調べると、デザイン セオリーの研究者はアーキテクチャにいて、でも芸術がやりたいわけじゃなくて。 そうすうると、プランニングとアーキテクチャが一緒に入る大学はそんなにない。 もともとアーキテクチャは全米で23校しか学位を出していないんですよね。そう すると興味あう人って5,6人しかいない。結局全部そこにアプライした。いろ いろいるだろうと思ったんだけど、いないんですよね。 羽藤: まあ、先生に恵まれるかってのは縁だから。 中村: で、出して、2校から返事がきた。奨学金の目途がたっていなかったので、後は 2校と話して、事務の人がちゃんと処理してくれたってことと、先生がどんな人 かわかっていること、後は人数が多くない学校をって基準で選びました。私が思 ったのは、意外かもしれないんですけどハーバードに出さなかったんですよね。 ハーバードで10番で卒業するより、他のところで深く考えたかったというか、 私自身は競争に耐えられないというのがあって(笑)、地味なところを選んだ。 あとハーバードはポリシー寄り、コロンビアは歴史系なんで私自身のやりたいこ ととは違っていると思ったというのもあります。 奨学金はフルブライトをもらうことにしたんですが、審査員の人と、アーキテク チャとプラニングで話す機会があったんですけど、フルブライトはどちらかとい うと文系の奨学金で文学部のアメリカンスタディなんかを専門にしている人は多 いんです。私の分野だと年に1人か2人しかとってくれない。建築とか計画みた いな分野はわかりにくいというか(笑)、わかってもらいにくい側面がある。日 本だと工学だけど、向こうだと文系で、奨学金のカテゴリーがあいまいで大変で した。日本の場合は課程に所属していないと不利なので、私は研究生なこともあ って途中厳しかったです。 羽藤: までも、この1年は研究はやったと思うが、、基礎が大切だから、政治哲学から 文化人類学や言語解析まで沢山文献も読んだし、プログラミングもやった(笑)。 中村: TOEFLとGRE、Sampleを出した後、研究は研究室に戻ってきて、まちづくりとコミ ュニケーションをやりました。もともとは、建築を自分がやってきた中で、関わ っている中でコミュニケーションがうまくいっていないという認識があった。施 主さんの話をもう少し聴きたいけど、デザイナーが何かを言うと、その方向で進 む。それでいいのかなと、それを都市で考えるとどうなるんだろ、と思ったのが きっかけです。で、4月に今治に調査に行って、方法がないということで、先生 と話して、社会学や人類学をあたって、フィールドノーツというアプローチにな った。それと対話を分析して、一人でいるときとダイアローグというか二人のと きで価値観がどう変わるかというのを計画学で発表した。 まあ、やってる間、4月に調査やって5月に学会発表という感じで、そのときは 正直あまりよくわかってなくて、何がおもしろいのかっていうのが、なんとなく はわかるんだけど、何が研究的にすごいのかはやっぱりわかってなくて、原稿を ぼんやり書いて出した。そこから1か月あって、分析をやり直して、やってる間 もわからなかったんですけど、なんとなく発表の5日前くらいに、こうかなとい うのがあって強引にまとめて発表したというのがあった。


▲修士設計その2

羽藤: 学会は面白いから、渡米前に日本のも、というか、場のデザインと言語、対話の 意味みたいなことをやってる人は少ないけれど、公的討議の研究者は計画学には 多くてそういうセッションをヘヨンさんや羽鳥くん、榊原さんや邦くんが立てて たし、いろんな研究者と話すことで見えてくることもあるから。 中村: 学会にいくと討議マネジメントのセッションで、みんなの内容も勿論おもしろい と思ったし、自分のが全然テーマとしては違ってたんだけど、その差異で視点の ユニークさを実感することができた。他の研究者の人たちポカーンなのかなと思 ってたんですけど(笑)、言語が計画にどうつながるんだって一生懸命考えてい る人たちだから、寧ろおもしろいと思ってくれる人が多くて、あーそう感じてく れるんだと思って、すごくおもしろかったですね。結構セッションが短くて、そ の後懇親会で話したことが印象に残っています。京都大のヘヨンさんは(私の発 表の中のダイアローグデータで)最初誰がしゃべったんですかと聞かれて、片方 は自分なんですよと話しておもしろかったな。 先生に言われて、留学用のライティングサンプル書いてるときから、場の話をし てて、それが雰囲気はわかるけれど、それは本当に一体何を指しているのか、い ろいろ使われているけど、海外でも場は「BA」として使われているけれど、 place theoryというのもあって、無理やり、場とは空間の中の社会ネットワーク という話をして、発表して、ヘヨンさんと話したとき、他の場所とかそいうんじ ゃなくて、ネットワークの中の一つの点というポジションという意味での place in networks以外ありえない。と理解できた。そこで「場」といったとき、 研究の迷いがなくなったんですよね。 羽藤: タイトルは悩んだな、よかった(笑)。向こうでは何したいですか。 中村: 向こうがどういうところかはまだわかんないんですけど、アメリカだから Neighborhoodの単位が自分の中では(アメリカ発祥の理論だけど)空間単位もあ るけれど、その中にコミュニティと違うものがあるのか、ないのかがすごく気に なっています。家を探しているとここらへんはNeighborhoodですというのがある。 それが理解できない、そいう人たちが何を基準に、どこまでがNeighborhoodなの か。空間の領域性みたいまものに関心が在ります。また移民というか民族、エス ニシティというか空間の領域性、ロンドンやパリでもわかる。ミルウォーキーだ と川向ういくと危ないとか、どういう経緯で領域が分かれているのかが気になる。 ロンドンも川より北にいくと高級。私は上からだんだん下に降りていったんです が、南に友達が住んでいたんだけど、やっぱりぜんぜん違うんですよね。セグリ ゲーションの中で、分かれてる中で何を創るかが重要じゃないですか。川沿いに サウスバンクがあるんですが、南にあることで、北の教養の高い人も南にくる。 それがなかったらどんどん分かれていって、犯罪は減らない。分かれてて集まる ところがなければ、、移民が多いからそいうのがいろんな都市でみられる。一般 化が難しいとは思うのだけれど。 アメリカでは2極化していて、何十年も働いてる人が博士をとるのは実務もやり ながら教える。学部から一度も実務をしたことのない人はアカデミックに残るし かなくなる。二つの方法がある。アーバンデザインは日本のような会社ではなく てアーバンデザインファームがあって、欧州と少し形態は違うのだけれど、SO Mとかはデザインとプランニングがある大きな会社なんだけど、アジア支部は香 港にあるんだけど、友達も働いてて。。 日本では建築の博士は持っていても、、あまりみたいなところがあって、米国で も同じような話はあるんですよね。建築家は医者みたいなステータスの高い仕事 だから、実務からみれば博士は、そんなに重要ではない。けれど、最近は大きな 病院のような公共施設では解析してプラニングしてという話があって、研究でき る建築家は必要になっている。日本だとあまり関係ないかもしれないけれど。 私自身、スケール関係ないって昔から思っていて、都市はいいなあと思います。 目の前で出来ていくは、設計の醍醐味だけど、目の前で出来ていかなくてもいい ので、私は建てることに拘るわけではないので(笑)


▲上野のれんこんにて。

羽藤: 後輩に何かありますか? 中村: 英語を最初にやったほうがいい。あとは日本でもいいけど、留学は学位を海外で と最初から思っていたわけではない。いろいろあって私はそうなっている(笑)。 だから選択肢をそれで狭めない方がいいし、勉強しないのはつまんない。日本人 は学ぶことに対してさらっという人が多いように思います。何がわかりたくて、 深いところで何を理解しようとしてるのか、それがない人は、私にはよくわから ない。都市工学の古典を読んで、一回で理解できないことがあって、60年代と今 だとどう考えられるか、他の分野とどうつながっているのか、そいうことを理解 しようとすることが大切なことじゃないかと思う。何回も読むと、こういうこと とわかってくることが面白いんですよね。そいう基礎を、ちゃんと考えてやるの が私はいいと思います。 羽藤: 最後に何かあれば。 中村: 先生は忙しいなあ、と思うんですけど、、私が4年の時に別の研究室に行ってい たとしたらたぶん博士課程にいこうとは思わなかったと思うんですよね。学部の ときには設計で、私は研究してなかったし、自分の感覚としては研究がどういう ものかは、わかんなかったんだけど、だけど近くに何か楽しそうに研究している 先生みたいな人がいたので、気になっていて、それやってみるかなと思った。そ れがなかったらきっと思わなかったと思います。ありがとうございました(笑) ==