2014年の研究座談会

モデルと研究

福山祥代(D3)

▲研究室のみんなと,萩にて.
羽藤:博士論文ごくろうさま.

福山:ありがとうございます.

羽藤:修士論文では何をやったんだっけ.

福山:ネットワーク分析を,バルセロナ,シエナでやって,媒介中心性とコミュ
ニティ指標でやりました.修士のときはそれを分析しましたというところまでだ
ったんですけど,博士論文に入ってからは,すぐに次のテーマに発展できなかっ
たので,まずは修士のテーマを深めるということで,行動圏域という概念を加え
て,ある一定の行動範囲の中でネットワークの集中特性を分析するというところ
から始めていった.ただそれ以上の拡がりというのが,,ネットワーク分析の中
だけでは,最短経路をつかったり,周辺の環境やODの問題について分析の中で
扱っている行動原理について学会で質問を受けることも多くて,実際の行動がど
うなっているのかというところに踏み込んでいかないと,というところからモデ
ルに着手したということだと思います.

羽藤:博士研究では,一段難しいレベルに取り組んだということだけど.

福山:モデルに踏み込む際,経路選択でやればよかったんですが,先生というか,
研究室の中で離散連続モデルのブームがあって(笑),まずレビューを始めて,
時間配分を見ると,都市の中の過ごし方につながると,時間配分モデルに使える
MDCEVを考えた.モデルは研究室のゼミで話をしてはいたんだけど,基礎がわか
っていなかったというところはある.いきなりMDCEVを始めて,最初モデルがヘ
ンだということもあり,プログラムを書くのも難航した.Bhatの論文からコード
を書き始めたのですが,なかなか細部まではわからなくてGaussのコードを見な
がらRに書いていくような作業をしていました.結果が出るには時間がかかりま
したね.

最初はRの標準の最適化の関数をつかってやっていたんですが,それだと計算が
おわらない.Hessianで計算しないといけないので,コードを一から作ったりして,
時間がかかりました.博士の2年目の夏くらいにやっと計算ができた.夏になっ
て先生がTimmermanを本郷に呼んで私自身の研究成果の発表が出来て,それをベー
スに,さらに香港で発表してそれは落ちたんだけど,そのあたりで時間をかけて
取り組んで,最後はなんとか交通工学に投稿することができました.

羽藤:働きながら取り組んだ分,時間はかかったんだけど,ちょっとづつ精度が
高まっていった感じでしたね.

福山:その後,仕事が忙しくなったということがあって,研究のペースが落ちて
しまいました.次に経路選択にいよいよ取り組もうと,経路選択原理のそもそも
の関心からレビューをしていたんですが,夏になって,交通工学の準備をしてい
ると秋になった.中間発表までに選択肢集合の考え方を整理して,年末年始に計
算をようやく始めることができた.オリジナリティがあるものに発展させていけ
るか,深められるかということをしているうちに博士論文をまとめるということ
になって,そのあたりについては今後やって行きたいなと思っています.


▲ 公聴会の質問は厳しかったです.

羽藤:苦労したのは?

福山:苦労したというのは,テーマが,何のためにこれをやるのか,それをやっ
たら全体の中でどう位置づけられるのか,どういう発展性があるのか,大きな枠
組みの中での在り方みたいなものが,組み立てが出来ないというのが,自分の中
の課題だったのではないかなと思います.面白いので突き詰めてやっているけれ
ども,場当たり的で,全体としてどうなのか,という部分があって,審査でも厳
しく言われたんですが,そこの組み立てることが研究者としては必要だと思いま
した.

羽藤:研究の位置づけは,オレ自身はわりとどうでもいいと思ってるんだよね.
何が面白いかっていうのはもっと別のところに在るというか.

福山:でもまあ,,研究室に入る前と今を比較すると,ものの見方,論理の組み
立て方,研究のやり方,考え方は本当に沢山教えて頂いて,自分としては変わっ
たのではないかと思っている.自分の中で熟成させていく,自分の力としていけ
るようにならないといけないのではないかと思います.

自分として論理的かどうかは意識することはないんですが,まち大に入ってレポ
ートを書いて明石先生に褒められた.論理的であるというのは自分の特性だと気
付いた.ただそれが,研究っていう視点でどう捉えたらいいか,というのは単純
な論理性とは違う.研究室の中での先生との議論,ゼミのみんなとの議論でよう
やく今になってわかってきた.議論していく中で,見るべきポイント,捉えるべ
き視点のつかみ方が変わってきたように思う.知識はもちろんある.全くわかっ
ていなかったので,知識がないと喋ることにも意味がない.他の論文を読むとか,
積み重ねがないと,言っていることが空虚になってしまう.

羽藤:基礎は本当に大切なんだよな.

福山:まだつかみきれてない気がする.先生の言っていることで,そういうとこ
ろが面白いんだなと思うんだけど,結構ゼミで,個別ゼミもそうですけど,発表
練習の時もそうですね.自分の中でどこがというのはわからない.最初他人の発
表を見ていて,ただ聴いているだけなのが,だんだん変ってくる.考えや見方が
何をみるべきかということがわかってきたということかもしれない.

羽藤:研究の面白いところは?

福山:やっぱりこう,,今まで,本当は工夫してでてきた結果が,今まで気付い
ていなかったことが出てきたり,そこから次の発展,面白いことにつながって続
いていく感じが面白いと思うんですけど,私の場合,わかってきたことが単純に
面白いというレベルですかね.世の中で議論をしていると,みんな定性的で感覚
的にふわっとしたことで話をしていることが多いんだけど,やっぱり論理的な見
方で物事を捉えて,ちゃんと説明できたりとか,データやモデルの結果として顕
れる.そういうもので実感できる.

バルセロナの研究は単純な分析で結果ではあるんだけれども,感覚的にわかって
いることをなんでわざわざ論文にするのと言われるんですが,ふわふわした話に
対して,実際に数量的に分析してこうなるんだと示すことができる,あるいは感
覚的に思えることが実は違っている,そいう事実を示すことが研究者の良心では
ないかと思います.

羽藤:建築で,ひとつひとつはいいんだけど,積み重ねると違うスケールで問題
が起きてるから.合成の誤謬があって,そいう問題の解き方をちゃんとした理解
のもとで示しいくみたいなことですかね.

福山:数値的な分析結果を出すと,それだけで何がわかるんだという議論になる.
相対的な見方が大切だと思う.でもお互いのシマが大切で蛸壺化している.いろ
んな視点を重ねていくことでしか理解できない,世の中単純じゃないから.

羽藤:学会発表はどうでしたか.

福山:自分として一番おもしろかったのは,宮城先生のセッションで.自分の発
表内容は実は一番おもしろくなかったんだけど(笑,宮城先生の力で,セッショ
ンの議論がものすごく盛り上がったんですよね.宮城先生自身が何か面白いもの
があったら楽しみたいなっていうのがあるからですかね.学会発表に行くと,専
門の先生が多い学会は,学生にとってはためになる.そいう場で,防衛をしよう
とするんだけど,知識も豊富な先生が控えているので,議論してもらって,次に
つなげていける.新たな視点をもらう.という意味で専門度の高い学会は本当に
よかった.

羽藤:自分のおもしろさをドンドン発見してくれる先生がいるっていうのはいい
ですよね.

福山:内田先生も学会で質問というか研究の可能性について沢山コメントしてく
ださって,あれもそうですよね.貴重ですよね.



▲ 交通工学で研究奨励賞を受賞しました.


羽藤:研究者コミュニティってそいうところがありますね.福山さん自身はどう
いう研究者になりたいですか?

福山:はじめたのも遅いので,性質として独創的なひらめきができるタイプでも
ないので,だけど,まわりに流されない,納得がいくまで突き詰めていくことで
何かを見出していける研究者になりたいと思っています.

羽藤:どんなことをやっていきたいですか.

福山:最初は,ネットワークにもともと興味があった.研究室を選ぶ際に,先生
の講義に実は一度も出席していなかったんですが(笑,ネットワークをつかって
数理的な研究が出来るということで選んだんです.あとは都市が新しくつくると
いう計画ではなくて,既存の市街地をどうするかという局面に来ているにも関わ
らず,そういう手法論がない.どうしていくべきか,今を読み解く中で,次に何
をどうするか,連鎖の起こり方について考えたいというのがあった.

羽藤:大手町の開発とか横浜の劇場とか地域リノベーションの現場にいるから.

福山:ある都市空間のリノベーションの連鎖が起きたらどうなるだろう.という
ようなことがわかると面白いだろうなと考えていた.そこから広場に読み替えて,
街路と広場という話に変更していった.

今後は,歩行者と建築だけじゃなく,徒歩圏くらいの都市空間,建築でカバーで
きない一体の界隈をテーマとしていけたらいいなと思っていて,あとは今回博士
論文で出来たことというのが中途半端で,モデルとして面白い要素が相互作用的
なものを組み込んでいく面白さが出てこないので,時間と空間の中での相互作用
を表現していく,ネットワークの面白さを本当にもっと突っ込んでいけたら,経
路選択モデルで重複の効果を歩行者がどう捉えて,空間の中での選択結果がどう
なっているかを深めていきたい.空間認知と歩行者の関係を考えたい.スケジュー
リングモデルとネットワークの面白さにつなげていきたい.

羽藤:副査の先生はどうでしたか.厳しい人にお願いしたんだけど(笑.

福山:博士審査は,私は,本当にぎりぎりだったこともあるので,今の東大のス
タイルだと仕上げて副査の先生に見せてとなるんですが,朝倉先生の東工大は発
表がスタートだと言われて,副査の先生とのやりとりの中で,いろいろアイデア
も出てくる.副査の先生とのやりとりで,発表してたたかれて直すまでの時間を
長くとった方がいい論文になると思った.各先生の言われている指摘は,考えな
いといけないことだと思うんだけど,朝倉先生については,研究として面白いと
いう点は何か?こういう分野の研究としてどうなのか?自分がここで主張したい
ことの論理的な展開はどうなのか?といったことを問われた.筋を正される意見
があった.研究っていうのは幅広くて,面白いものなんだということを指導して
頂けて,よかったです.

羽藤:僕も北村先生が禅問答みたいなしんどい試問をぶつけられて,でもそれが
JournalPaperになった.だから,ちゃんと厳しい先生の方がいいと思ったんです
よね(笑.研究室生活はどうでしたか?

福山:研究室としてはこじんまりとしてうまくそれが働いていると思うんだけど,
結構年代で違うのだけれど,全体として一団となって行動する.というのは私に
とってはおもしろくて,みんなでゼミや研究室旅行もそうだけど,みんながお互
いの研究に対して議論して,みんなで向上していく感じがあった.あとは藤井く
んたちの最初の代の人たちが,研究室の雰囲気をつくっていた.他の研究室はわ
かんないんですが,みんなで協力し合って運営していく姿勢みたいなことですか
ね.皆さん自律的に運営していこうとしていて,それが受け継がれてきている.
ベースをつくったのは最初の5人で,最初にいい基礎がつくられたのが生きてい
るのかな.


▲ 現調の合間に,ハラポン先輩と昼寝しました.

あとは兎に角皆さん勉強しているのがすごい,自分も引っ張られるように感じる.
私は社会人だから休みの日にしかこないんですけど,みんなもきてやってる.先
生も学生さんも研究が楽しそうなんですよね.週報は,あれを出すから自分でま
とめる.そこで先生が厳しいんだけど指導するというのが機能している.週報を
書こうとすることで,まとめる力がつく.先生がコメントを返すと,それが残る.
それが論文を書くときにも参考になる.

欧州調査は楽しかったですね.今思うと乱入気味だったんけど,準備も何も出来
ていなくて,藤井くんや山川くんが受け入れてくれて本当によかった.研究室旅
行も印象深いです.竹富はよかったですね.

羽藤:研究って最後の最後にその人なりが出るもので,手前で自分で低い線を引
いちゃった人には深いところまではわかんないかもしんないけれど,一つのテー
マで博士論文に取り組んだことで,福山さんなりの研究になってよかったと思い
ます.最後に何か.

福山:感謝しています.まち大に入ったんだけど,まち大に入った気がしない.
そういえばまち大だった(笑.まちづくりではなくて,社会人としてだけじゃ出
来ないことをやるきっかけを探していた.それがきっかけで,まち大らしくない
研究室に入れて,思いがけない成果と拡がりが得られた.ありがとうございまし
た.