●片岡:近江八幡の空間計画とまちづくり組織の変遷
空間計画は地域ごとの実情に合わせた事業計画が必要となる。ではだれがその実情を知っているのか? 問題意識1 アーンスタインの市民参加の階梯 市民参加にもレベルがあるが、行政+市民の協同の段階へいかに移行させるか→共通の目標、目的を持つときに成立する。 この協同体制のことを関係資本と呼び、関係資本の形成についてみる 関係資本の形成→協同の場が成立する信頼関係 ○いかにして構築するか→市民側が担う役割は ○仲間をいかに集めるか→組織のマネジメント体制 問題意識2 既往研究においてはまちづくりプロセス中の組織の設立変遷などを行っているが関係資本形成などが不明 →そこで研究の目的として関係資本の形成とマネジメント組織の運営などについて明らかにしていく 研究方法 文献調査とヒアリング調査を行った、文献調査は瓦版「ひろば」や報告書、新聞など 対象地 滋賀県近江八幡市 人口8万人(市町村合併で増加したが実質的には横ばい)で琵琶湖のすぐ近くに位置する。土地利用は中心となる場所以外は農地、湖が多い。城下町である。伝建地区に選定されており重要文化てき景観第一号に選定された 市民組織の活動は全国的にも活発で、数も多い。この活動について行政と協同で活動を行っている要となる組織を明らかにする 環境基本計画をつくるのに協力している「親父連」が中心で基本計画が実態をもつように市に志願した。人材、お金などのやり取りをしており積極的 現在の近江八幡市における景観保全に関する活動としてはハートランド推進財団という組織が市から中間業務をされてハートランドが市民組織をコンペ形式で審査し助成金の支給を決定している。このハートランドの前身がよみがえる近江八幡の会でさらにその前がJC(近江八幡青年会議所) 八幡堀については内湖と琵琶湖を結ぶところにある。昔は荒廃しており、悪臭、ヘドロなど問題になっていた。モータリゼーションの進行も手伝い埋め立てて駐車場にする計画があった。この問題をJCがまちなみ保全、水郷保全などのまちづくりを展開した。この関係資本の形成仮定を追っていく。 年表を確認すると大学、行政、JCなどがそれぞれ何かしらの活動をしており、互いに連携してきたことがわかる。市としては駐車場設置に補助金もついていたので正直厄介事だったが、部分的に協力していた→次第に立場を超えての交流がなされている 市民組織活動創世期(関係構築期) 住民たちも自分たちが生活排水を垂れ流していたという啓発活動を行った。→JC中心メンバーは市長と気軽に話せる関係になった 学官協働構想立案期 大学に働きかけて相談した。大学側も埋めない方がいいとした。客観的な理解を得るために大学に協力を依頼→JCは行政への陳情、意見交換などから関係主体の把握及び意見収集にその役割があったと考えられる 学官民協同推進期 署名を集める 全面浚渫を要請した 市はこれに対し課題をクリアすればいいとした 課題 1 石垣の強度と崩壊対策→土木の先生とともに調査して報告 2 浚渫した場合のヘドロの処理、2次災害防止→水質改善事業者にCSRを持ちかける 3 堀の復元についての具体的提案 どのような空間づくりがしたいか、図面の用意→京都大学に依頼 4 費用の意義の必要性の説明→八幡堀の重要性をJC自ら報告 これらをクリアし埋め立ての予算がついていたにも関わらずひっくり返した。将来像やまちづくりコンセプト作成の契機になった。県、市からその後補助金がでるなど活動を通して関係が構築された 役割としては 行政 自主的な取り組みに対する資金、対話の場の提供 大学 構想や計画づくりなどの方向付けの場において助言し示唆を与える JC 自治会の本取り組みと関わる利害関係者を動かす役割 意識調査によって実態を認識、学識者とともに将来像を考えた 反対する住民の説得市民への啓発 八幡堀保存修景計画 冊子、イメージパース図面、どこを起点にして整備を波及させていくなど ハードの整備、ソフト事業m市民塾などの郷土愛の育成 市民の連携を深める デザイン要旨 遊歩道を整備することで公園のような役割をもたせ地域の起点となる場所にしたかった 関係資本の形成に10年くらいかかった。このような動きの中で市民組織、JCが媒介となって進めてきた。 →共感した人が入りやすくなる JCは40歳までの組織だったので別の組織ができた 初期にやっていた事業がそのまま続いている 目標像をつくって組織間で共有してまちづくり関連事業図をつくった。ハード、ソフトに分けてそれぞれ何をやっていくか示した。JCが媒介となって市と利害関係団体を取り持つ 近江八幡モデル JCが市民組織の基盤 ブレインとなったJCと実行部隊である市民組織 組織の変遷はあるが事業は継続して実行 現在のハートランド推進財団をつくったファンドの役割 1より広い市民を巻き込む瓦版、啓発 2事業図による組織の役割の明確化 3既存組織の活用、資金によるコントロール 結論 市民社会の中にも役割分担がある。 JCは行政との関係構築や媒介を行っている ハートランドは中間的な役割 市民組織よりも成熟した組織、後発組織のとりまとめ 住民組織は限られたエリアを実行、利害関係者との合意形成を行う 広域と狭域 この近江八幡でのモデルをもとに他の場所ではどうなっているのか検証する 仮説の検証 他事例との比較 事例抽出基準 1同時期に活動が活発化した景観に関係するもの 2住民主体の活動で整備後空間が賞を受賞するなど評価されたもの 3市民と行政の連携が確認されたもの 静岡県三島市、埼玉県川越市 三島市 初期の活動の中心人物がJCの人 →市民組織形成→既存商工会議所を取りこんで大きくなった 共通点 市民組織をつくり指針となる目標を明確化しアクションプランを作ったこと 川越市 JCが中心となってその後市民組織をつくる 市民による調査、蔵の実態調査、指針作りを行う 市民組織はJCだけでなく商店街も母体となった 五つの仮説 1中心団体が様々な専門家と一緒に計画を立てる 2反対する住民の説得、市民への啓発 3より広く市民を巻き込む 4組織の目的の明確化 5資金によるコントロール、既存組織の活用 以上について共通点がみられモデル化することで一般化できることがみえた 羽藤:まちづくりの仕組み論を考えるにはフィジカルな空間と日常の生活行動関係の記述を下敷きに。実際にボトムアップ式でやるにはいろいろ難しいとは思う。ネットワークとしての関係資本を基礎要件として仕組みと財のフローを考える。イタリヤのガラッソ法による風景法が厳密に規制している。土地規制と形態規制があり住民が入る余地がないがうまくいっている。トップダウン型とボトムアップ型をどう考えるか。 片岡:イタリヤとの比較については大きな制度によってというのはいいと思うので、その中で条件に合わせてボトムアップでやっていく。住民の意識や組織が成熟すると声が上がってくるのでそのほうが望ましいと思う。 羽藤:ハイラインとかもうまくいったが、いい資源があってもうまくいかない例もある 片岡:住民が不在だからそうなるのかもしれない 羽藤:今の制度はボトムアップ型なのに住民が不在ということなのでだめなのでは 浦田:住民不在、組織の役割分担と明確化するためのマネジメントとはどういったものなのか。近江八幡では堀という分かりやすいものがあったので住民を巻き込めたのでは 片岡:もちろんそうだが、広い視野を持って啓発をしていた住民が高い意識をもってやっていくべきというのがありました。JCは市民活動団体で戦後の日本の中で上からだけでなく下からも積極的にやっていくというのを使命とした組織だった。 浦田:自分の意識をもっと訴えていこうというのが明確化された? 片岡:街中保全など景観を中心とした意識の明確化が図られた ハートランドの市民側のメリットはあるのでしょうか。コンペとかもやってますし。80年代が活発化した時期。今はもうちょっとやり方は変わっているとか学生を使ったものもある。 片岡:市民側のメリットは審査などめんどくさいのでメリットはない。行政側にはメリットがある。信頼している組織がやってくれているという。 近江のネットワークセンターというがあるが 片岡:それと同じようなものです。県の直轄組織なので同じ中間支援業務だが、アメリカでNPOとかやっていた人がやってるなど事務的な役割が強く市民との距離は遠くお金も県が出資している 羽藤:ワールドセンターとかも中間業務をしている。こういうものはもっと大規模の方がいいのだろうか 片岡:今の近江八幡にとっては今のハートランドの規模がベストサイズかと 福山:行政の意識を変えるとかの労力がかかる。住民に危機感が行くという流れは今はいいこととして共有されている。この話を他のところにどう適応していくかというのは。 片岡:田舎などに行くと危機感をもっていない、何もやらなくていいよといった場所もある。外からみればわかるのに実体験としてわかっていない。そのような人たちに危機感を抱いてもらう問題が地域にあるのなら人を巻き込むときに気づいていない課題について議論することが重要。 羽藤:コミュニティデザインとかの人が盛り上げるのがいいのか。 片岡:楽しくしないと盛り上がらないと思ってやっていると思う。イベント的に盛り上げてそれを課題に結び付けていくのがいい。住民の方に本気になってもらうかが重要。 児玉:市が検討するというのは普通?住民も市も大真面目にうけとってやってるのはどういう流れなのか。普通あんまりないことだと思う。 片岡:バイタリティはすごいと思う。なかなか普通できないこと。この前にヘドロで困っていたので一部埋め立てが開始されたがそれをストップさせていた。だからJCには責任がかかっていた。また、県の担当のかたがものわかりのよい人だったというのもあった。別のひとでは無理だったかもしれない。 羽藤:公的討議の仕方がデザインされていたらいいかも。 片岡:陳情だけでなかったので動いた。国にも訴えていた。 JCの人口構成によってコミットの仕方が変わってくると思うが。 片岡:特徴のある組織で、その地域の経済の担い手の人がやってる。その町が良くないと自分たちがやっていけない 40歳以下の組織というのは今後高齢化で難しくなるのでは? 片岡:ロータリークラブというのがあるのでそれがお金を支援してくれる 羽藤:日本人は政治になれていない。制度設計とかお金の話になりがち。 高取:行政が初めからはいっていると予算とか主体とかを把握して実行している。職員さんがNPO。JCはもともとない組織とつながりをもっている、キーパーソンをどうするか ●吉谷:公共空間の設計とその深化:コンペ、WS、公的討議からデザインを考える ■問題意識 ・設計領域:駅舎・プロムナード・広場など公共空間の設計に携わってきた. ・土木デザインの歴史 明治~昭和戦後:設計=土木 戦後経済成長:標準設計の誕生→コンサルタント バブル以降:シビックデザイン 大半の事例ではデザインの足し算(マカロニ娘,カエル橋等) 現在:まちづくり・縮退 単体のデザインの質は向上しているのでは 多様化への対応が困難 ・構想→計画→設計→施工→維持管理の流れが分断されて行われている.段階毎の横割りも別々に行われてしまっている.ジャンルを超えることが必要. ■プロジェクト1 松山花園町・松山市駅前開発 ・町の中心は伊予鉄の松山市駅 ・いろいろな拠点を魅力化し,つなげていく. ・花園町通りは付近で最大の幅員を持つが,交通量はそれほど多くない.松山城と松山市駅を結ぶ骨格となりうるが疲弊している.車の動線として重要視されていない.東側と西側で空間構成が大きく異なる.西側に対し東側は暗いイメージ ・花園町通りの基本的なコンセプトは,車線数を減らし,歩行者・自転車・自動車路面電車の共存・「歩いて暮らせるまち」を目指す. ・昨年(2012年)秋に社会実験を行った.外部から来た人にとっては8~9割の人から大きく賛同を得られたが,東側の昔から住んでいる人にとっては喧噪や道路を自由に使えないなどの理由から賛同を得られないでいる. ・意思決定の場としてまちづくり委員会が存在する(2~3か月に1回).他に勉強会を設けることでどのように計画を進めていくかの議論の場を設ける.住民間でも意見が割れているが,生活があるため表面化できていない現状がある. ■陸前高田 学校を中心としたまちづくり ・被災地の状況としては,住居の確保がメインで,住民へのアンケート等で区画整理の数字は得られているが,仮の絵だけで進んでしまっている状態.住民も出てしまっており,刻一刻と変化している. ・教育委員会24名中21名がなくなっている中,学校を中心にまちづくりを考えていかないかとする流れが生まれた. ・本来は敷地が決まっているものであるが,この計画については敷地の選定から始まった. ・住民との話し合いやWSを通じて計画の策定を行った. ・プロポーザルを行った.最終的に5社がプレゼンテーションを行い(中学生も参加)設計事務所が決まり,陸前高田市で初めて建てられる公共施設となった. ■その他のプロジェクト ・尾鷲で事前復興のプロジェクトを行っている. 片岡(京大):花園町商店街周辺の方の意見は,今も反対意見があるのか. 吉谷:今も存在する.東側の昔から住んでいる人たちに反対意見が多く,社会実験の時も夜の喧騒が気になった.ベーシックな部分でも,車線数を減らすことに反対意見が多い. 片岡:住民を説得するような組織は存在しないのか. 吉谷:組織は存在しない.東側は商店会などの組織がそもそも存在していない.住民に危機感がないのが問題であるように感じる. 片岡:勉強会はそのような組織になりえないのか. 吉谷:勉強会は「どのような空間を作るか」を議論することがメインの場となっている.今後のあり方は課題となっている. 片岡:課題抽出が重要.広域の実態調査をして,将来的に持つ役割を議論する必要がある. 吉谷:近江八幡などと比べて,かかっている年数が短い.自分たちの空間として意識していくことが大切. 伊藤(東大):住民の方に働きかける時に,何が一番重要と考えているか. 吉谷:行政側の問題としては駐輪などの分かりやすい問題と,歩いて暮らせるまちのようなぼんやりした問題もある. 羽藤:内側からから見た問題と外側から見た問題がぼんやりしているのが問題なように感じる. 伊藤:一方で住民側の意見は私的だがはっきりしている. 吉谷:誰にとっての,なんのための花園通りなのかについてはぼんやりしてしまっている. 國分(東大):近江八幡の空間領域ははっきりしている.全体像が共有されやすい状況では,全体にとっての私的なメリットを提示しやすい.花園通りの設定の仕方として,「誰にとっての花園町」なのかをはっきりさせる必要がある.その中での私的なメリットを議論する必要があるように感じる.そこのイメージをどう持っているか. 吉谷:花園町通りがどういうもので何のためのものなのかは常に議論されている.大学の学生など外部の意見が住民に影響を与えるケースも存在する. 浦田(東大):市民の方には,各プロジェクト毎に異なるイメージを共有する必要があると感じるがそのあたりはどうか. 吉谷:そのときどきで共有されるやり方は異なる.はっきりとした答えはないが,とにかく少しでもいいから作ってみる(見試)ことでそのようなイメージは共有できるのではないかと考えている. |