●中山:交通システムの複雑さと行動記述

■複雑性の考慮

交通分析において完全合理性を仮定することは多い(選択肢をすべて認識し,選択結果を正しく把握し,結果を選ぶための価値体系を持つこと.例として行動なら効用最大化,システムなら均衡)が,実際の行動は限定合理性下(制約のあるプロセス(意思決定過程)のなかでは合理的)にある.
実際は効用最大化ではなく情報の認知プロセスが重要であり,システムにおいてはday-to-dayダイナミクスが重要である.これを考慮して複雑システムを扱う.プロセスを考慮する限定合理性を手続的合理性と呼ぶこともできる.

■複雑な交通システムを表す例

・満足化
完全合理性下では,旅行時間が少しでも短い経路があればそちらを利用.それに対し満足域を考慮し,旅行時間が満足域内ならば経路変更を行わない. day-to-dayの交通量ダイナミクスを分析すると,日毎の交通量変化を規定するパラメータの設定により,解が収束するか否かが分かれる(挙動が複雑になる).

・リンク交通量からのパラメータ推定
交通ネットワーク分析にはパラメータ推定が重要.例えばOD交通量推定,経路選択行動モデルのパラメータ,旅行時間関数パラメータなど.ミクロに推定するとPPなど個々人の経路選択結果を用いるが,リンク交通量を用いてマクロに推定することが可能.
推定手法として,最小二乗法は使えない(リンク交通量は独立ではない)ので,最尤推定法を用いる.つまり,全観測リンク交通量が生起する確率を最大化する.
ただし,リンク交通量に相関があるので,最尤推定法の解に一致性,漸近有効性,正規性が保証されない.このため一定距離k以上離れたリンク同士は独立している(リンク交通量が局所従属)とすると,上記の3性質を満たすようになる.
確率的均衡配分モデルを用いて平均リンク交通量,リンク交通量の分散共分散行列が得られたら,それと観測リンク交通量を用いて推定を行える.

・システムの不整合性
完全合理性下では,1ODと同質な2経路があれば,初期値によらず2経路の旅行時間は等しくなり,一意に収束する.ここで思い込み均衡(経路変更により自分の旅行時間を減少させることができない,と思い込んでいる状態)を考える.これは初期に大きな旅行時間の変動を経験した際,旅行時間が多かった経路を(周囲の行動変化により早くなったとしても)以降では利用しなくなる行動に現れる.この仮定を行うと,2経路の旅行時間は初期値により変動し,2値が異なる値に収束する現象も起こる.
これらの例は,複雑な現実の交通行動の一面を単純化して表したものといえる.

■討議者(円山)

限定合理性モデルについて
・何を限定的とするかで研究者10人入れば12通りくらいのモデルができる
→(中山)現実は非常に複雑な系であるので一種類の均衡モデルがあれば良いわけではない.複雑系のどの面を表すかで多様なモデルができるので実務者がそれを理解した上で利用することが重要.

DaytoDayモデル
・いくらでも定式化できるのでは.ただ純粋な数学研究としては面白い
・個人が単純な意思決定をとっても,集団が複雑系になることがありえる

リンク交通量によるパラメータ推定
・ネットワーク均衡モデルの分析フレームに行動モデルのアプローチを組み入れており,統計学への貢献もある.
・リンク交通量はOD,リンクコスト関数,モデルの誤りなどの影響があるのでは.
→(中山)推定の変数はいくつでも良いので旅行時間関数や行動モデルのパラメータなども推定すればいい.OD推定も組み入れたいがリンク数よりODペアのほうが多いので解が一意に決まらないと思われる.

思い込み均衡
・仮定を変えれば,違う結果も出せるのでは
→(中山)人々が旅行時間を認識して集まり,均衡ができている.そうじゃない均衡があるということを示したくて思い込み均衡などを取り入れた.現実のシステムは例えば混雑料金に皆が反応するわけではない.それを表現したかった.

●討議

佐々木:マクロ(完全合理性)とミクロ(限定合理性)の話があるけど,最終的にマクロの結果が欲しい.それに対しミクロの様々な知識を持ってアプローチする方がいい.

中山:均衡の枠組みはミクロの状態を集めるとマクロになるという単純な形であるが,ミクロがいくらわかってもマクロな結果がわからない部分があるというのが複雑なシステムであるとも考えられる.見方によって色々なモデルが見える.

羽藤:10人で12モデルについて,個々人の行動を精度よく再現するサービス(モデル)に需要があるので様々なモデルがあっても良いのではないか.マクロを再現する際に役に立つかという点ではマクロの均衡配分の人がやればいいのでは.

初期状態で結果が異なるという話で,初期状態はデータから逆推定できるか?

中山:初期状態の意味の話.シミュレーションでは初期状態が決定的影響になるが,現実を考えると初期状態の意味は不明瞭.ここでは偶然その状態になると考える.学習とは初期状態で全部決まるような状態記述的な考え方ではない.

力石:最終的にどこに落としこむのか.今の均衡の問題指摘のようなものなのか.

中山:問題点を指摘することが一番の目的.それ以上はまだできていない.

羽藤:都市圏レベルでのアウトプットまで出せるし,集落のコミュニティの行動記述など,マクロでもミクロでも進めていける

中山:バス事故の話にもあるように,人はB/Cなど単純に考えたがる.研究者はそれでいいのかと思い,複雑性を考慮した限定合理性を考えた.

羽藤:限定合理性は海外では研究が進んでおり常識となっている.

山下:阪神震災時にJRは早く復旧.今は民鉄とJRでもめていて震災前にもどらない,これが思い込みと関係あるのでは.首都直下地震の際,復旧に思い込みが関わると進まないかもしれない.

羽藤:震災で初期値がクリアになった際は情報提供で学習させて行かないと変な方向に行くため,思い込みを考慮したインセンティブコントロールに使えるかも.

円山:B/Cでの単純化について,標準的アプローチを使って思考停止になるのが恐ろしい.熊本PT調査で全国の調査票を調べた際,不必要に感じる項目が色々あったが,実際は有識者で議論してそれを決めていくプロセスに価値があると感じた.

●力石:交通行動の変化と変動:離散連続モデルの適用と展開

■発表内容
・博士論文の概要:交通行動の変動及び変化に関する研究
・離散連続モデル:整理/変動変化の離散連続モデル/発展可能性
・今後の予定

■博士論文

●背景
・出発点:交通計画の頑健性の議論がしたい,ということ.
 修士まではモデル改良の研究をしていたが,現況再現性は予測精度の指標ではない.ある要因が交通行動を説明している時に,それがどの程度安定しているか.

・変動・変化
 多様な政策があり,予測をすることが計画プロセスの重要な部分を占めていたが,そこには将来の状態そのものがかわってしまうという意味で不確実性が生じるといえる.どう扱うべきか.情報を圧縮する過程で捉えられなかった変動や変化がある.

・変動・変化の定義
(1)変動:時間軸上のある断面において観測される行動のばらつき。ex.(平日は行かないが)毎週土曜はレジャーに行く.
(2)変化:時間の経過に伴い,行動とそれを規定する要素の因果構造が異なる状態になること

●目的
・交通行動に内在する変動・変化の存在を明示するためのフレームを作り,実証分析を行う.従来の抽出・圧縮プロセスでどういう変動・変化が捨てられてきたかを細かく見ていく.
・5つの変動要因,変動構造の変化
 個人間変動/世帯間変動/経日変動/空間変動/個人内変動

●マルチレベルモデルの援用
・ランダム変数を沢山入れた一般化線型モデルのようなもの.
・行動の持つ変動を個人間差,世帯間差,個人内変動の差に分解できる.
・個人属性でモデルを構成することの効果がなくなってきている.個人内変動でも観測できる部分とできない部分があり,できないところが増えているということがまずい.
・極めてリッチなデータが必要.今回はMobidrive/German mobility panel(16年取っているpanel data)を使用.

●離散連続モデル
・問題意識
 離散問題と連続問題が独立でない.自動車を持つか持たないか,持った時に何km走るか.このまま離散選択で推定するとバイアスが生じる.

・種類
 連続問題のタイプ:配分型/非配分型
 離散問題のタイプ:単一選択/複数選択/順序選択
 評価関数の表現:離散問題と連続問題の評価関数が同一/相違
 誤差項の分布形:正規分布/ガンベル分布/コピュラ
 離散連続問題の導出・記述方法

・これらの違いからTobit(type1~5)/Lee(1983)/Dubin&McFadden(1984)/Bhat(2005,2008)/Fang(2008)/Bhat&Eluru(2009)等が構築されてきた.
・トビットは2項選択しか扱えなかったが,Lee(1983)より一般形も扱えるように.

●実証分析1:MDCEVモデルの拡張
・非観測の部分の変化を含めたモデルを作って変化を見たい.
・時間利用の集計を見ると平均値はあまり変わっていないが,4つの活動で分散が大きなっており,個人間の嗜好が大きくばらついていることを示唆する結果に.
ex.世帯ケア:家事や育児
 昔は性別の影響が大きかったが,2006年になると性別の差は小さくなり,非観測の個人間の要因影響が大きくなってきていることがわかる.
・観測変動の変化に加えて非観測変動の変化を見る必要がある.

●実証分析2:トビットモデルの拡張
・旅行時間の経年変化の分析.過去30年間の変化をみると総交通時間は安定している.政策や投資が色々なされてきたのに減っていないということは,旅行時間の短縮は真の便益ではないのではないか.
・仮説:施設を整備すると選択肢集合が拡大し,個々人の交通行動の自由度が高まる.個人内変動は大きく変化しているのではいか.
・推定結果:平均値は変わらないが,個人間変動・個人内変動は変わってきていることを確認.個人内変動は経年的に変動しており,仮説は支持された.

●離散連続モデルの発展可能性
・因果推論,選択バイス,データ融合は統計的観点から類似した構造を持つ.
 因果推論:社会実験に参加した人達としなかった人達.介入の影響が欠損
 選択バイアス:一部の回答者から問題を推論.
 データ融合:購買履歴データと市場調査から変数群を各々観測.
・データの持つ情報を如何に正しく認識するか
・データ融合への展開

●おわりに
・社会実験の是非を確認するときにデータがランダムでないことが殆ど.そのバイアスを補正する意味で離散連続を使うのは良い.
・変動変化で色々モデルがつくれる.多様化をみることができる.計画案をどの程度スパンで見直していくかみたいな議論もできる.
・変動と変化の峻別問題は極めて難しい.時間軸版の生態学的相関

●討議

福山:欠損データを使うために紹介されていたモデルについて詳しく知りたい.プローブからも変動している要因があると感じているが,実際にどう定義したらよいか.どの変動に属してるのかの判別はどうすればよいのか.

力石:(スライド21枚目上半分)は欠測データの問題として使うことができない.下半分は欠測問題を扱うために離散連続を活用できる.影響している要因がどの変動成分かについては,色々かえて再推定していくと変動成分が減る.減った分を観測すれば個人間変動が小さくなった等がわかる.直感とはあわないことが多い.タイムプレッシャーをいれても個人内変動じゃなくて個人間変動が変化することが多い.時間的切迫が大きい人と小さい人がいて,そういう意味で個人間といえるのかもしれない.

中山:Tobit type1はどう適用されている例があるか.

力石:時間利用の文脈でいうと,やるかやらないか,やるなら何分か.Y*を効用とみると,Y*がマイナスになることもある.Y*は効用と考えてよく,評価関数.何分費やすかと評価関数の値が一緒.

中山:やるかやらないかで,やるなら何分.やらないというのは0分? 力石:0分という情報はつかわない.やらない=0以下の価値しかなかった,ということ.マイナスに分布させる感じ.

中山:(スライド14枚目)これで誤差項を分けるというのが理解しにくい.分けて分散が大きい小さいというのと,説明変数を分けてパラメータが大きい小さいというのは似たようなことでは?

力石:変量効果を持ったパネルデータと同じ.個人間変動だと,ある一定量は個人間変動,説明変数をいれなければ全てそこにでてくるというのが初め.出発時刻は変動していて,何%かが個人間,何%かが空間に起因している.個人間変動のうち,どれだけかが性別の差・年齢の差…から構成.そういうのがこの段階では捉えられていないが,説明変数をいれると変動かが捉えられるということ.

福田:(スライド15枚目)個人内変動の内訳はそうなっているが,実際は全変動が昔に比べて大きくなり不確実になっている.モデルの誤差項の分散をどっか1に基準化しなきゃいけないからみえない?

力石:Tobit type1のようにするとyが単位を持つので,絶対量でだせる.

羽藤:期待値が同じで分散が大きくなるとはどういうことなのかが重要.日々の調整過程がよくきいている.料金を新しく認知して反応しているのか,どういうモデル解釈が必要か等.

力石:実際需要予測モデルとして,一定の制約の需要予測を扱おうとする研究があるが,結論がどうなのかはよくわからない.行動メカニズムの議論はあまりされていない.

羽藤:昔と今では交通サービスが違う.論理的にモデルで理解していくともう少しできるのかなという印象.共通変数の分と欠測の分の共通変数とは? 力石:年齢とか,選択についてはどういう基準かはむずかしい.調査票のセットはこういう項目は調査しておこうみたいな議論はあるかも.推論ベースだが色々みえてくるとかは面白い.

羽藤:パーソントリップでも推論できるということ.SPRP融合推定の話は?

力石:選んだ選択肢以外の選択肢が欠損している.欠損しているのが目的地への評価だとすると,平均値だと全くダメで.その辺りもやりたい.

浦田:(スライド57枚目)tとt^2の解釈は

力石:精度をよくするために入れた.個別のパラメータの意味があるわけではない.予測の話になるととても関係するが,今回は動きを再現したかったという事.

兵藤:高速料金の社会実験再評価.インターチェンジ,ETCのデータからどう影響があるか等できるといい.German mobilityデータの話は日本でも動きがある.

力石:表向きにはちゃんと役立つというデータ.現象理解や研究のほうが目的が生きているし,そのためにデータを今後も取っていく.マーケティング会社が使ってるとかはみたことない.日本のPTみたいな所にフィードバックはしている.

羽藤:データの費用便益は上田さんもよくしていた.サンプリングをどうデザインしているかみたいな話は,取れるデータ量と変数が限定的になるのがみそなので,ここでやっていけばこういう調査はこれくらいの効果あるとか説明できる.高速道路は?サンプリングバイアスがインターチェンジ間で違ったりするかバイアスみたいな話.個人属性のばらつきがあるから補正の話と,インターチェンジ間で政策が違ったりして,そのあたりのサンプリング議論も良いかもしれない.

佐々木:頑健性について,福田先生の構造推定でも出たが,モデルの構造の問題か,パラメータの問題かなど色々含めて深いテーマ.

力石:頑健性のバックキャスティングの話と繋げたかったが,不確実性を考慮して予測を修正していくという手法で頑健性を評価すること目標にした.

羽藤:MDCEVモデルで説明変数xの変化は扱っていない?

力石:説明変数の変化は扱っていない,情報の有無などによる行動変化も扱ってはいない.

羽藤:目的変数をシンプルにしている分佐々木先生が言ったような頑健性に踏み込んでも良いかもしれない.

●本間:消費者-出店者の相互意思決定過程を考慮した購買地の商圏均衡分析

もともと建築で設計などもやりながら解析的なテーマの研究をやっている.ハフモデルは人の買い物行動の購買地が空間上にあるときにどれを選ぶかという古典的なモデル.であり,空間相互作用モデルとも位置づけられる.本研究ではハフモデルを新たに位置づけて導出した.購買地の来客数を巡る問題や,空間分布について議論したい.

1.ハフモデルの新しい導出方法

空間上の購買地のどれを選ぶかは指数型のハフモデルで表す.消費者から購買地の距離と購買地の規模が説明変数.選択確率に対して規模は比例関係,距離は指数で表す.ハフモデルは,効用誤差項をIID分布で位置づけるとロジットモデルになる.効用関数の仮定で財の効用をロジスティック分布を仮定,極値統計学手法により,対数とガンベル分布誤差項に分けてハフモデルが導出できるが,効用の単位が不明で,購買地の規模とパラメータλの意味が不明確であるなどの問題がある.

本研究では財の効用から購買地の効用を導出する.「移動コストを勘案した効用が最大の,シャツが売られている購買地を選択」といった形で考える.購買地iの効用Miは購買地iの財の数と財の確率変量の効用の最大値で表す.従来のハフモデルでは効用最大の購買地を選択していたが,本手法では財を選択するモデル.従来のハフモデルではパラメータは距離減衰を表す1つだけだったが,本手法では単位距離当たり移動コストと財の均質性(多様な財は遠くまで買いに行く)を表すβと,購買地の財の数に比例する量Siを変数に考える.

モデルの仮定の緩和して,消費者の欲しい財は1種類→複数の財を欲求,消費者は財の効用について完全情報→不完全情報とする.複数の財を欲求しているとして,効用と選択確率が表す.

不完全情報であると「購買地に行ってから財を比較,効用のより大きいものを購買する」行動が考慮でき,消費者にとっても効用が確率量となる.拡張ハフモデルの選択確率では,移動コストのパラメータが高いと最寄りの店舗で買うのでボロノイ領域のようになる,財の均質度が大きいと,商圏が大きくなる関係となる.

2.購買地の最適規模

拡張ハフモデルの応用問題として,消費者にとっての最適購買地規模を考える.購買地は小規模多数と大規模少数のどっちがよいかというような問題.計算の仮定として,消費者にとっての便益指標はログサム変数の和で表す.最適規模導出とために,選択者を中心とする円内の店舗の規模がどれも一定するモデルで考えて便益指標を定義する.便益指標は確率変数を3次の項までテイラー近似して,購買地規模を横軸,便益指標を縦軸にグラフを取ると,便益指標にはピークがあることがわかり,数値計算で近似の結果の保証も確認した.

最適規模とパラメータの関係では,購買地総規模と最適規模は比例し,需要が2倍になっても各購買地の規模が2倍と比例関係.また,最適規模は移動コストの2乗に反比例し,交通機関発達などで移動コストが半減すると,最適規模は4倍,最適数は4分の1になる.

3.購買地の均衡分布

既往のBLVモデルと基本的には同様.需要分布と購買地規模の初期値から購買地規模を出力.単位規模当たりの来客数によって規模について各購買地の経営者は増加・定常・減少の戦略をとる.シミュレーションの均衡分布の結果では,規模のパラメータαが大きいと一極集中するような需要の吸収の仕方をする.距離のパラメータβが小さくても一極集中に近くなる.

各購買地規模が等しいとは限らない時の最適配置を考える.各購買地の規模も変数に含むと,単位規模当たりの来客数が全ての店舗で同一になり,シミュレーションの店舗競争下での均衡と同様になる.つまり,各店舗が利潤を追求すると,消費者に取って局所的に最適な分布となる.

4.都市の発展と均衡

ここでは,一般的な空間の予測をしたい.購買地を都市に置き換え,需要点と購買点を同一視,需要点の人口や購買地の規模を「アクティビティ」と呼んで規模を比較する.まず,選択に距離のみが影響する特殊な場合を考える.線分上で都市の配置を考えると,アクティビティは中央部分で最も高くなる.βが小さくなるとどうなるかみると,中央部と周縁部で動きが違い,交通機関の発達過程で中央と周縁部でアクティビティの変化の様相が異なる.

アクティビティの標準偏差で都市間の格差を分析すると,βが小さくなるにつれて都市間格差は格差は増加した後減少している.三叉線分都市でも結節地でアクティビティが高くなり,面上都市でも線と同様の結果が出ている.首都圏の鉄道網でのシミュレーションでは,αの増加で駅ごとの規模の差が拡大するということがわかった.

福田:
・ハフモデルのミクロ経済学的な意味解釈をした研究だと思った.ハフモデルは行動モデルの目的地選択で,目的地の規模などで変数を与えると同様になる.説明変数の一個だったハフモデルに意味を与えたことはこの研究の特徴,極値分布の特性を用いた意味解釈だった.
・誤差項のガンベル分布と財の最大値のガンベル分布の2つが同じ効用の関数に含まれているのか.
・複数財の場合は,離散連続モデルとの関連はあるか.
・モデルキャリブレーションはどのようにやるか.
・最適規模分析ではログサム変数は選択肢数が増えると増加するのでは.
・店舗の相互作用の分析では,売り上げが伸びると規模が大きくなるという戦略的相補性のような,win-win,lose-lose的な関係になるのではないか.
・都市経済学や空間経済学の古典的な理論とNew Economic Geographyを合わせたような可能性が感じられる.研究での商圏分析での固有性はあるのか.

本間:モデルで規模について対数を使うことはよくある.人は量を対数で認知するということから意味づけた.2つのガンベル分布が1つの効用関数に含まれる訳では無い.指数部分を操作するとガンベル分布になるということ.

福田:複数財であれば移動量と選択で離散連続にできるのではないか.ただ目的地は離散選択だからそうはならないかもしれない.

本間:今回は都市経済学的に式を簡略化している.キャリブレーションは実際に適用するとなると問題で課題となる.きれいに表現することをやめるといくらでも複雑に出来る.

羽藤:面積一定でばらつきが違うとどうなるかというようなことは,キャリブレーションで有益な結果が得られるのではないか.

福田:ログサムは選択肢数によって増加するから,小さな店舗が沢山あった方がよいということにはならないか.

本間:数が増えるとログサムは増えるが,それは選べることによる効用の増加と考えている.また,数が増えると移動コストが小さくなる傾向もある.一方で,1ヶ所で選べる選択肢が減るというトレードオフもある.ログサム変数をそのまま使うのが良いのかは疑問かもしれない.

福田:均衡は一意に決まるのか.

本間:αが1以下のときは一意であることが証明されている.ただ,本研究では1以上に興味がある.大規模商業開発などで,グループで1つになると消費者にとって良いかどうかなどに興味がある.パラメータの結果の関係がすぐわかるようなわかりやすさを持っているのが本研究.

福田:NEGも財の多様性と均衡を扱っているので関連はあるように思う.

羽藤:都市の中で財の多様性は重要.モデルに入っていることでどういったことがいえるかが本質的.

中山:財に効用を持たせて最大化するという部分がよくわからなかった.距離が指数,規模が比例関係なのはなぜ.ロジットモデルだと両方指数にしている.

本間:最も単純なハフモデルでは指数もべき乗もない.購買地を仮に2つに分割して認識されていても,足した選択確率が前と同様である,という特性を担保することが必要という理由で使われて,実際のデータとマッチしているからだと思う.

円山:ゾーン分割を変えても目的地選択が変わってはいけないという特性とのことだったが,その仮定が恣意的と言うよりも,空間の選択を離散選択で必要だからというのが教科書的な答え.ログサムだけでよいのかは,価格や売り上げを考えていないということだから,まあいいのだろう.社会全体で望ましい状態を考えるのであれば,売り上げと消費者の余剰を対し合わせることもできるが,社会的に最適になる分析をしたということなのだろうか.シミュレーションに頼らず解析的にきっちり分析できたのは評価できる.

國分:建築で設計をしているので気になったが,式を凄くシンプルに表したのは良い.本間さんはこのモデルで,どういう接点やどういったところに興味をもっているのか.

本間:専門は建築だが,一つは最適配置で,都市空間上に条件を満たすように分布させることや,部屋の配置を考えることなどと数理の手法を結び付けることを考えている.

國分:空間の相互作用,店舗がどうなっているか,誰と行くかなどを複雑にして考えるとモデルが解けなくなってしまうが,シンプルな式で表して分析可能であることを示した後は拡張しようと考えているのか.最適配置のカテゴリーはどうしたものに興味があるのか.

本間:消防署の配置のような問題に興味があるし,建築に結び付けて部屋の配置など面白いように思う.

羽藤:三陸沿岸は線形都市だが,都市をどうするか,店舗・コンビニをどうするかなどのミクロ・マクロスケールでの話や交通料金の設定など,東日本大震災の復興などでも今回の単純な理論とインプリケーションは適用できる気がする.あと,モデルを考えるときに,部屋のような建築の範囲で考えてしまうのは勿体ないように思う.東京のように広く広がっている都市では2次元でネットワークの関係を考えて,建築での「コア」のように考えて,集中都市を考えることはできるように思う.理論だけ言っているのは勿体ない.

力石:移動コストについて,現状では郊外化の進行などでは効率の悪い配置になっていると思うが,集約などを考えると,居住地選択などもこのモデルに組み込めるのか.居住地の分布が変われば商店の分布も合わせて変わるだろう.

中山;大規模施設の立地は長期的にしか動かないだろう.その期間より短く人が動くのであれば,人の動きも考えざるを得ないのではないか.

羽藤:デマンドとサプライのどっちの調整スピードが速いかの問題で,大規模小売店舗の立地などは比較的早い気がする.それと居住変化・満足度などの変化をどうモデルにするか.コンビニと大規模小売店舗で違うと単純な話ではなくなってくる.コミュニティサービスも集約した方が良いかどうかなど,政策的なインプリももっと出る気がする.

本間:あまりそうした視点は考えていなかった.

山下:鉄道網では,鉄道結節点にポテンシャルが大きいという結果のようだが,鉄道延伸で利便性が高い路線とつながると利便性が落ちるようなことはあるのか.

本間:自分でも結果は解釈しきれていない.ただ,そうした効果はあるように思う.

羽藤:鉄道のダイヤやサービスの設計などもモデルの中で考えられそうだというのが,山下さんからの要望みたい.

佐々木:最適配置とのことだが,今回は消費者の便益最大.都市の中であれば,目的が別にあると別な結果が出るようなことはあるのか.集約や一極集中の話では,電気街が消えて家電量販店が増えたような集約が進んだことなどはどうあてはめられるのか.そうした話は建築スケールなのではないか.不完全情報を仮定しているが,最近の買い方は買い物は完全情報なのではないか.商店街での買い物で値段を出すかどうかのようなイメージか,ネットで調べると価格全体がわかるようになるイメージなのか.中心市街地活性化などとも結び付けてコメントを頂けるとありがたい

本間:完全情報になると,規模が効かなくなる結果が出ている.図書館で考えると蔵書検索が出来なければ大きなところにいくが,検索できればお目当てのものがある所にいくように個人ごとに変わってくる.秋葉原の電気街のようなものが分散してあった方がよいかどうかというと,実際にはそうでもなく,物流などの要因があるのだろう.

羽藤:ショッピングってよくわからない.ネットができると買い物がなくなるのか,設えで変わるかなど,ショッピングは建築にとって本質的なのではないか.アメリカのショッピングセンターでも,専門店と空間でのコミュニケーションセンターの組み合わせで作られているようなことがある.

山根;今日の3本の中で,改良が必要なのかもしれないが,もっとも実務的であるように思った.

羽藤:役所からの要望では,こうした視点が求められているが,どう答えていいかわからないのが現実.このような研究はインプリがあって,重要なのではないか.

--------------------------------

●羽藤:おわりに

人の行動が変化していることを皆さん感じてますか.外出する,時間を使って楽しむなどのことが,SNを前提に考えないと議論できないところまで来ているのではないかということを,力石さんの発表で感じた.根本の行動の原理,佐々木先生のNudgeなど,意思決定のメカニズムと相互作用,時間による収束発散を考えた戦略が必要な話が増えているのではないか.もう一つは,最後は理論研究だったが,円山先生のような記述的なモデルと中山先生のような理論研究でスパッとわかれてしまうようなところがあるが,両方の理解が必要で,規範型のモデルもやっていかないといけない気がしている.記述的なモデルも情報系の人が入るといろいろできそうな気がするが,規範型の研究も頑張って欲しい.また,山下さんの話したような実務の政策課題を研究者が理解していない危惧を感じる.理論研究をする人はそうした勉強をしないとまずいのではないか.今日はありがとうございました.